33幕:ココと蒼葉と謎の少女1 『触らぬドラゴン祟りなし』
蒼葉が予定時間より少し遅れて冒険者ギルドを訪れたとき屋内はとてもものものしい様子だった。
気になって受付の綺麗なお姉さんに伺うと少し前に正体不明の攻撃を受けて施設内の建物が半壊したらしく、その犯人探しのために殺気立っていたらしい。
実際、外に出て見渡すと確かにギルドの敷地内、裏手にあった建物が半壊していた。幸運なことに怪我人は誰一人しておらず倒壊だけで済んだのだそうだ。ただ広い敷地の中で裏手の建物だけが目立つように倒れ崩れておりその有様はご愁傷さまと言わざる得ないほどである。
事件はギルドに恨みがある者の犯行、そして魔術によるテロ事件として操作され犯人探しに躍起になったそうだ。その後無事犯人は捕獲されたのだが、警戒態勢はそのままであり今日は通常利用や対応はできないそうで蒼葉も遠回しに帰宅するように促された。
念のため待ち合わせの件を伝えたところ先に集合場所に戻るようにお姉さんが伝えたとのことなので、蒼葉は諦めて一旦戻ることにした。彼女たちも帰りの集合時間も近いので寄り道をしないで戻っているだろうことを予測して。
それにしても有意義な時間だった。
ちびっ子たちの面倒を押し付けた、、、いやお願いしたのでゆっくりと町を探索できたからだ。
これからの料理に使えそうな素材や材料、スパイスに調理道具。
この町の特産だというものや独自のもの、とにかく色々なものを目の前にしたときはついつい心が躍ってピアノを弾きまくりたかったほどだ。
もちろんあんな大きな楽器は手元にあるわけがないので、今はお菓子や花や雑貨屋で買った人形を出したり消したりと喜びを一人で表現する。
一人だと喜びを分かちあう相手がいないのでどことなく寂しさを感じるからなのだが。
道中、すれ違う人たちからの視線が釘付けになっていることには全く気づかずに蒼葉は鼻歌を歌いながら歩を進めた。
それにしてもふと町中で立ち寄った飲食店は実にいいお店だった。
白馬亭とかいうイケメン3兄弟が営む地元料理を振る舞うオシャレなお店であり白く塗装した木材をベースに青と白のチェック柄のカーテンやクロスが添えられ、そして規則正しく飾られた緑色の観葉植物たちと面から差し込む柔らかなお日様の光が店内を実に心地いい空間を演出していた。
もちろんそれだけではなく飲食店として重要な料理類は地元産の食材を利用したものでどれも素晴らしくとても美味しかった。蒼葉が訪れたときはまばらだったが食事時は人が所狭しと詰め掛け大盛況であるらしい。ほかにアルコール類も豊富でホルクス産の果実から作るワインや果実酒、北の村の方で仕込まれているという麦酒類、それから地元産の蒸留酒などなどのお酒も豊富に取り扱っている。こちらの方はいつもと違う銘柄のエールやラガー、それからリンガのワインを頂いた。年代物のお酒も中々の味だったし料理との相性は抜群で素晴らしいものだった。
やはり一人で来て良かった。シェリ子たちと来ていたら財布の中身が消えていただろうから。
見つけたのは偶然である。
ココたちと別れてからたくさんのお店を物色し私用品に業務用にと多くの品物を買い付けた。気づいた時にはギルドへの集合時間1時間を切っていたのだが、ついつい興味本位でゆっくりとお茶をしたくてぶらりと立ち寄ったお店が大当たりだったのだ。
訪れたときはお店を一旦閉める寸前だったらしいのだが主人ご好意に甘えて軽い食事にお酒にデザートにご馳走していただいた。食事だけでなく話相手にもなってくれて町のことや料理のこと、素材のことや調理について、この町の冒険者のことなど色々な話を教えてもらった。
蒼葉は居心地のいい時間のおかげで集合のことを忘れそうになって慌ててお礼と料金をテーブルの上に置いてからお店を出た。足を早めながらギルドを目指す。
途中、町中で高級な焼き物や絵画を売る美少女や所構わず女性には誰にでも声をかける美少年やら可愛らしいケモミミをした獣人の女の子などが目に入る。
結局、ココたちと会えなかったのだが、今日一日でやはり都会は違うなと思う蒼葉であった。
帰りの馬車内で蒼葉は体の重心を木箱に任せて寝ることにした。
馬車内の空気がぎこちない。
荷台内には蒼葉が買い付けたもの、マークスたちが揃えたものなどが所狭しと並んでおり行きよりもだいぶ狭くなっている。その分だけそれぞれの距離も縮まっているからこそ感じられる雰囲気もより一層強くなる。
まずルーリさんとピーターの空気がおかしい。
今は触れてはいけない空気が漂っている。
弟分がやらかしたのか、、、彼女がやらかしたのか、、、ともかくこれは近づいてはいけない気がする。
とにかく放置である。
それからシェリ子とリルリさんたちのグループ。
さっきから二人の顔が青白いような気がする。
なぜか全く落ち着きがなくそわそわと挙動不審であり冷や汗が止まらないような素ぶりである。時節蒼葉とココを見ているので何か話したいことがあるのだろうか。
青白く見える顔からは何かが伺える気がするのだがこちらも嫌な気配の確信がするので放置するべきだ。
ココとローロちゃん。
二人していつもように、いやいつもよりべったりだ。
今声を掛ければ二人の座椅子になることは確定しているのでこちらも放置である。二人をモフモフしてもいいのだが今は馬車の揺れに浸りたい。
アルコールが入った後はゆったりまったりとした時間を蒼葉も過ごしたいのだ。
マークスさんとレイモンドさん。
二人は御者台にいるのだが先ほどから冷たい眼差しを向けてくる。
「青年まさか年長者を放っておいて先に始めてるとは、、、」
「蒼葉てめぇー覚えてろよ」
大の大人が子供のように拗ねている。
残念だが、蒼葉は付き添いであり監督である大人たちとは立ち位置が違う。そして早い者勝ちであるので素知らぬ顔をして視線に気づかないふりをする。それから酒好きどもからの眼差しに買い物袋の中身をちらっと少しだけ見せて場をやり過ごすことにした。
なかなか手に入れることはできないというレアなお酒は白馬亭の長男さんから定価で譲ってもらったものである。
隣町とホルクスは休日には歩いてでも行ける距離である。
また行こう。
あとは山の方にあるという村とそれから下流の方にある海の街も近いうちに行ってみたい。
さらば青春、さらばイルギルの町。
美味しいお酒に美味しい料理。
素敵な女性との出会いはなかったがいい旅だった。
そして御者台に一番近い木箱の上で蒼葉は笑顔になった大人たちと後ろの空気の違いを改めて無視することにし馬車の揺れに身を任せることにした。
触らぬドラゴン祟りなしなのだから。
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