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まじかるココナッツ。  作者: いろいろ
第0章 ホルクスの街と英雄街
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17幕:ココと蒼葉の未知との遭遇 1 『スライムは美味しくない。』

 薬草採取もひと段落し二人で昼食休憩に入り落ち着いたところだった。

 ココの一言からすぐに件の林の方から阿鼻叫喚な悲鳴が響き渡った。


 同時に何度も鈍い音が響き渡り二人の方へだんだんと近づいてくる。

 林の樹木や何やらを破壊しながら。

 このままでは数分もせずに接触しそうなほどの距離の中に自分たちがいることを蒼葉は悟った。

 出遅れた今の状況じゃ逃げれないかもしれない。

 直感で自分たちの置かれた状況が全く好ましくないことを悟り拳を握り締める。


「ココ!!第ニ種警戒!!」

「けいかい、、、にー!!」


 冒険者ギルドで伊達に1ヶ月も自主訓練をしてきた訳ではない。

 自衛のために遊びも入れつつ二人はほぼ毎日、休日以外は訓練に明け暮れた。

 他にもソフィアに仲介してもらい冒険者の先輩方にこれでもかと様々なことを教わった。

 時に二人で時に第三者を交えながら様々な状況に応じた自分たちの動き方や取り決めや禁則事項、魔法や魔術を使った戦闘に至る戦術的なルールまで幅広く。繰り返し何度も何度も想定できない事態も含めて二人で特訓してきたのだ。

 今思えば何でこんなことまでやってきたのだろうかと余計なことを盛り込んだことも多々あって自問せざるを得ないほどに。


 6歳くらいの小さな女の子にとってそれはストレスが溜まる日々に違いなかっただろう。

 ここまでココが爆発しなかったことが驚くべきことである。

 なにせ自分が知る同じ年代の年齢の子供たちはそんな日々を過ごしていない。事実、ローロの周りの子供たちはローロを含めてもっと子供らしい時間を過ごしいるのだから。決してココに子供らしい時間を過ごさせないよう強制していたわけではない。

 それでも休日以外、蒼葉とココは二人で訓練に明け暮れた。

 ただし彼女はまだまだ小さな子供であり、そのまま続けてしまえばすぐに潰れてしまうのは明確だった。

 事実、ココは鬱憤を晴らすために所構わず魔法を何度も使いそうになった。

 だから訓練という名を変えた遊びをこれでもかと盛り込みギルド内の地下訓練室で隠れて発散させるように誘導した。本当はもっとうまいやり方があったのかもしれない。もっと彼女を労わりながらやれたかもしれない。

 だがうまくことを運べるほど蒼葉自身には余裕がなかった。


 だからこそ蒼葉は頼ることにした。

 彼が知ることは所詮付け焼き刃のその場凌ぎである。

 自分にできないのならできる人に頼ればいい。つまり餅は餅屋である。

 その道を走る先駆者が周りにはいるのだから。

 料理もピアノも彼一人で最初からできたわけではなく、自分の周りの誰かに教わってきたのだ。

 だからギルドを訪れる様々な人たちを頼り自身たちのか細い経験を支える糧を増やそうとしてきたのである。


 何が蒼葉をそうさせたのだろうか。

 それは他ならないあの日の出来事が要因の一つにあることは違いなかった。

 蒼葉はココと出会ったあの森での出来事を、あの時の出来事がどうしても目に焼き付いて離れなかった。小さな女の子が血を流しながら蹲り暴力を受ける非道な光景を。

 彼女のことを知ってから、そして自分がこの世界のことを知らなすぎることを自覚してからますますこの先来るかもしれない何かに怯え自覚するようになった。


 彼女自身が持つ信じられないほどの才能と特異性を。

 自分が持つこの世界との乖離性を。

 二人を取り巻いている状況を調べれば調べるほど理解すれば理解するほど。



 右手を腰の短剣へ左手をいつでも取り出せるように添える。左手はすでに小さな簡易の盾を取り出している。途中だった食事はそのままにして林から距離を取りつつ視線を逸らさずに身構える。警戒態勢を取りながらいつでも逃げ出せるように。


 第二種警戒

 ココと蒼葉が取り決めたルールの一つである。

 いつでも逃げることができるように身を守りながら警戒態勢を取ることであり、数字が小さいほど警戒レベルが大きいことを表している。当然、蒼葉、ココともに個別の役割があり事前に何をするかを決めている。そして隙あらば逃げに徹するのである。



 ついに入口の青々と茂っていた広葉樹が真っ二つに裂けて砕け散った。

 すでに蒼葉たちは少しずつ後ずさりしながら林の入口から100m以上は離れている。それでも近くまで衝撃を感じ、そして砕け散った木片が二人の側まで降り注いだ。


 中から飛び出したのは人間サイズの黒い何かだった。

 その黒い何かの体は波打ち流動的な動きを見せている。

 まるで昔見た映画の金属生命体のようなアメーバであり、無理やり人間の形をしているような感じであり仰々しいほどボコボコと何かが湧き出ておりその都度表面が揺れ動いていた。


「ココ!!」

「うん、いくよー」


 蒼葉の掛声とともにココも魔力を練った。


魔法陣(まじっくさーくる)身体強化(すとれんぐす)

調査(さーちる)探査(ぷるーゔる)情報共有(いんふぉふぇある)


 ココは杖を両手に持ち直すと複数同時に無詠唱で魔力を操作した。

 小さな杖の先から漏れ出す淡い光が足元に魔法陣を生成し二人を包み込み、そしてココにより知覚された謎の生命体の隠された情報が紐解かれていく。


 魔力による魔法陣の結界を展開し二人の身体を強化、そのおかげで怪我しにくくなるし逃走しやすくなる。同時に相手の分析を行い情報を洗い流す。



「おにいちゃん、あれすらいむだよ。でもなにかがおかしいの。いじょう?してるんだって。あとつよいのと、それからおいしくないんだって」



【【調査(さーちる)探査結果(ぷるーゔる)】】


 種族:スライム

 レベル:不明

 状態:??? 異常状態

 スキル:不明

 ほか:異常化したスライム種。おいしくない。

 生息分布:不明



 確かにココの言う通りだと思う。

 情報結果とは違いどう見ても自分たちよりは見た目が格上のモンスターである。

 ほんと誰が雑魚モンスターと言ったのだろうか。


 ホルクス周辺、少なくとも林近くにスライムはいてもこんな不気味なモンスターは生息していない。

 蒼葉はギルドの図書室でモンスター生息分布は頭に詰め込んでいる。

 こいつは少なくともゲームでいうボス(イレギュラー)だろと蒼葉は内心ツッコミを入れてしまった。あとおいしくないって当たり前だろと。


 話は通じなさそうだし、人間じゃないから手段が限られる。

 接触する前に逃亡した方が良かったかもしれない

 つまり初動を間違えたかもしれない。


 そんなことを考えていた時、人型スライムが激しく身体を震わせて動き出した。

 手当たり次第身体中から黒い触手を伸ばし周囲のものを取り込んでいる。

 自身が倒した木々やら石やら、そして食べようとしていた二人の食事やら。

 まだ半分以上残っている大切な手作りのサンドイッチである。

 二人のためにレールナが作ってくれた愛情のこもったとても美味しいサンドイッチである。

 そんなサンドイッチが、ココのサンドイッチが瞬時に食べられてしまった。


「あーーーココのが、ココのサンドが!?つまみぐい、、き、んし、、、ぜ、ぜったい、、、ゆるさないもん!!」【激怒】


 途端にココがめちゃくちゃ怒り出した。

 いままで見たことないくらいの様相である。

 杖をブンブンと振り回しながら、、、

 食べ物の恨みは恐ろしいのである。


「ココ落ち着いてお兄ちゃんのが残って、、、」


 そしてすぐ近くの蒼葉の分も食べられてしまった。


「あのスライム野郎、、、レールナさんの手作りを、、、」【キレる寸前】


 前言撤回である。

 蒼葉が攻撃魔法を使えたならば真っ先に打ち込んでいたことだろう。

 そして確実に仕留めるまで乱発していたに違いない。

 それから残った死体にも続行して塵にしてしまっていただろう。

 そんなことを思うくらい彼も頭にきてしまった。

 本当に食べ物の恨みは恐ろしいのだ。



「ココ、あのクソ野郎に風球魔法(ウィンドボール)!!」【キレ気味】

「ごはんどろぼーー!!」【ブチ切れ】


 小さな杖の周囲に魔力が漂い大きな暴風の塊が圧縮されて小さなボール状の何かへと形成される。

 そして具現化した暴風の小さな球塊はブンブンと振り回していた杖から勢いよく放たれた。


 ただし不気味な黒い人型スライムではなく、、、あさっての方向へ。

 目の前の憎き敵ではなく全く見当違いの方へと。


 蒼葉はついつい風魔法の行く先を目で負ってしまったしココはふへ?といった顔をして杖の先を見つめている。

 怒りを発散する機会を失った合間、間が抜けた合間にふと視線があったような気がした。

 黒い人型の何かの視線と。


 そして禍々しい雰囲気を醸しながらはっきりと聞き取れるようにこうつぶやいたのだ。


「アノ、、ニ、、ニンゲン、、、オイ、、シソウ?」


 その瞬間、蒼葉は怒れるココを抱きかかえて全速力で逃げ出した。


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