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WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第8話 ひとりぼっちの神隠し 【 全 13 回 】
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あいつも一応は女。男子トイレの中まで追っては来れねえ

 かくして、アキトを先頭に、つかさ、かおるあきら、ありすたち五名は、消息不明となった寧音ねねの捜索へ向かった。


 アキトは何やらぶつくさ言いながら、せかせかとした歩調で前を行く。その背中へ疑わしげな視線を注ぐのは晶とありすだ。


 つかさは心配になって、アキトの横へ並び、他の人たちに聞こえないよう、こっそりと声をかけた。


「大丈夫なの、アキト?」


「何が?」


 言い返すアキトの口調は明らかにカッカしている。


「だから、徳田とくださんを捜すなんて言って、何か心当たりはあるのって訊いてんの」


 つかさは後ろを振り返りつつ、言い直した。


 ただの売り言葉に買い言葉、何の考えもなしに行動を起こしたと彼女たちが知ったら、それ見たことか、と責められるに違いない。犯人扱いされてアキトが怒るのは当然だが、ここは冷静に対処するべきだ、とつかさは考えていた。


 するとアキトは、


「そんなものはない」


 と、あっさりのたまわった。


 ある程度、予想していた返答ではあったが、つかさは危うくコケそうになる。


「ないって──じゃあ、どうすんの!?」


 晶たちに聞こえないよう、さらに早足でアキトを引っ張りながら、つかさは一人であたふたした。


 やはりこの男は、直情的に見つけると言っただけだったのだ。このまま闇雲に捜しても発見できる保証はないのに。それに時間が長く経過すれば、再び晶たちがアキトを糾弾し始めるだろう。その場面を想像すると、つかさは頭痛を覚える。


「おい、つかさ。まさか、お前までオレを疑ってんじゃないだろうな?」


 アキトは剣呑な目を向けながら、つかさに尋ねた。つかさは首を横に振る。


「そんな、いくらアキトがドラキュラでも、そんなことはしないと信じているよ」


「だから、オレは 吸血鬼ヴァンパイア だってば!」


 相変わらずドラキュラと 吸血鬼ヴァンパイア を混同しているつかさに、アキトは小さな声で訂正した。後ろの連中に聞かれたらマズイ。


「──とにかくだ。オレがあのメガネを見つけて、絶対にあの女どもの鼻を明かしてやる!」


 アキトの鼻息は荒かった。別に寧音の身を案じているわけではないのだ、とつかさは呆れ返る。


「いや、それだけじゃあ、オレの腹の虫が治まらねえ。ここは全員真っ裸にひんいて、オレの下にひれ伏せさせ、あの処女どもが味わったこともない快楽に溺れさせて、ヒーヒー言わせてやるぜ! うひひひひひっ!」


 そのシーンを夢想しているのか、アキトの顔はだらしなく緩んだ。


 それを横目に見つつ、つかさは、はぁーっ、と力が抜けたようなため息を大袈裟に洩らす。仮に、アキトが寧音を発見することに成功しても、あの彼女たちがそれを許すわけがないのは、少しでも考えれば分かることなのに。


 そうこうしているうちに、一行は坂時町さかときちょう児童公園に辿り着いた。


 住宅街の一角にぽつりと作られたこの児童公園は、子供用の滑り台やブランコ、鉄棒、砂場、球体の回転遊具などが置かれている一方、ベンチや公衆トイレ、それに小さな池といったものも配置されており、比較的立派なものだ。


 公園にある簡素な時計塔は夕方の五時を指している。すると何処からか、定刻になると流れるようになっているのか、オルゴール調の優しげな「夕やけ小やけ」のメロディーが聞こえてきた。


「仙月。昨日、アンタがここへ来たのも今くらいの時間?」


 晶が腕組みをしながら尋ねた。


「ああ、だと思うぜ」


 アキトは公衆トイレの方へ歩きながら答える。


「で、ここで寧音を巻いたって言うのね?」


 今度は薫だ。アキトは面倒くさそうに、そうだ、と認める。


「でもぉ~、あの尾行に慣れた寧音ちゃんを巻いちゃうなんてぇ~、何か忍術みたいなものでも使ってんの~ぉ?」


 トロそうな口調で感心しつつ、ありすが疑問をぶつけた。


 するとアキトが振り返って、不敵な笑みを漏らす。


「ふっふっふっ、知りたいか? えっ? 知りたいか?」


 アキトはもったいぶった態度で、ありすに尋ね返した。その不気味さに、ありすは少し怯えて、身を固くする。


「こら!」


 パシッとアキトの頭がまたしても叩かれた。薫の竹刀の仕業だ。校外にまで持って出歩くとは、まったく剣道部のかがみとしか言いようがない。


「話したくて話したくて、うずうずしてるんでしょ? だったら、とっとと話しなさいよ!」


 剣道の腕前と同様、薫はズバッと言った。アキトが何か言いたげな目をすると、薫は脅すように凶器の竹刀をチラつかせる。口答えしたら、問答無用で竹刀の連続攻撃が襲って来るに違いない。


「チッ! わーったよ」


 結局、アキトは折れた。と言うか、やっぱり寧音の追跡を巻いた秘密をばらしたいという欲求が、かなりあるのだろう。


 アキトは公衆トイレの男子側入口の前に立った。


 公衆トイレと言っても、かなり大きな部類に入るだろう。造りもしっかりとしたものだ。ただし、年数が経っているせいもあって、全体的に小汚く、近寄っただけでも糞尿の染みついた臭いが漂ってくる。


 トイレの近くに立った薫たち女子は、鼻が曲がりそうな臭いに顔をしかめた。


 そんな彼女たちに、ざまあみろ、とほくそ笑むように見ながら、アキトは話し始めた。


「お前らもあのメガネから聞いているみたいだが、帰りにオレは必ずこのトイレに立ち寄って、尾行を巻いていた」


 やっぱり、という顔で晶とありすが顔を見合わせた。だが、ここで口を挟むようなことはしない。


 アキトは続ける。


「あいつも一応は女。男子トイレの中まで追っては来れねえ。とは言え、出入り口はここひとつだけ。ここさえ見張っていれば、逃げられっこないって思っていたはずだ。まあ、そこが付け目だったわけだが──お前ら、この裏へ回ってろ」


 そう言って、アキトは一人で男子トイレの中に入って行った。つかさたちは言われた通り、公衆トイレの裏手へと回る。


「じゃあ、今からそっちへ行くぜ」


 中からアキトの声が聞こえた。次に、「あらよっ!」という掛け声があがる。


 すると、公衆トイレの屋根と壁には換気用の隙間が開いているのだが、そこに人間の両手がかかった。


 まさか、と思っているうちに、今度はアキトの頭がニョキリと出る。そこからはイモリか何かの動きを見ているようだった。わずかな隙間からアキトが這い出て、ひらりと音もなく外へ着地する。


「すんっごい、すんっごい!」


 それを見たありすが一人で喜んで拍手した。あとの三人は呆気に取られた状態。


「何なの、アンタ? 中国雑伎団の出身とか?」


 薫は感心するよりもアホらしくなった。公衆トイレでこんなことをするヤツがいようとは。


 第一、トイレにある隙間と言っても、本当にわずかなものだ。あそこを通り抜けること自体、常人とは思えない。


 しかし、当のアキトは平然としたものだ。


「身体の柔軟性には自信あるぜ。こういう隙間は、頭さえ通れば何とかなるし」


「ネコか、貴様は?」


 晶もボソッとツッコミを入れる。


「と、とにかく、そうやってアキトは徳田さんを巻いていたわけだ」


 気を取り直して、つかさが言った。


 だが、これだけでは問題の解決にはならない。


「それは分かったけど──で、そのあと、寧音はどうしたって言うの?」


「さあ」


 あっさりとアキトが言ってのけたので、晶は思わず殴りかかりそうになった。それを感じ取ったつかさが、両者の間に割って入る。


「え、えーとさ……徳田さんがこの公園にまで来たのは確かみたいだから、ここから何処へ行ったのか、その手がかりをみんなで探してみようよ」


「ここを?」


 つかさの提案に、晶がうろんな顔をする。


「だ、だって、徳田さんが何処にいるか分からない以上、ここから始めてみるのが一番いいと思うんだけど……」


 ちょっぴり自信なさそうに、つかさは言ってみた。晶に反論されそうで、おっかなびっくりだ。


 だが、つかさの意見に賛同する者がいた。薫だ。


「そうね。それがいいかも」


忍足おしたり……」


 晶は薫を見た。


「このまま、何の手がかりもなしにあちこち歩き回っても仕方ないわ。寧音が消息を絶ったのはここ。つかさの言うことに一理あると思う」


 心強い味方につかさはホッとした。今までも、こうして何度も助けられてきた。


 ありがとう、という意味を込めて、つかさは笑みを向けたが、またしても薫は顔を背けてしまう。


 理由が分からないつかさは、何だか悲しくなった。薫とは何でも話し合える兄妹──薫としては姉弟──のように接してきたつもりなのに。


「じゃあ、手分けして捜そ。何か見つけたら、すぐに知らせるように」


 薫の言葉で、晶たちは三々五々に散った。すでに夕暮れ。何かの手がかりを探そうにも、あまり時間はない。それに何某かの手がかりが本当に残されているのか。


「薫」


 行きかける薫をつかさは引き止めた。足を止める薫。


「ねえ、何か、ボクのこと避けてない?」


 このところ自分が感じていることをつかさは薫にぶつけてみた。こんなことが出来る相手は、アキトと薫しかいない。


「別に」


 薫は振り向くことなく答えた。だが、その言葉は硬い。


「……どうしてウソをつくの? そんなの薫じゃないよ」


「………」


 薫は黙りこくった。長い間――


「こっちを向いてよ、薫……ボクの顔をちゃんと見て答えてよ」


 つかさは言った。



 キキキキキキキッ……



 ひぐらしの鳴き声が何処からか聞こえた。


 薫は諦めたように、つかさの方へ向き直ろうとする。


 だが、しかし──


「きゃあああああああっ!」


 そのとき、ありすの悲鳴が聞こえた。

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