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WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第6話 スクープはつらいよ 【 全 8 回 】
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よっしゃ! 作戦開始やで!

 かくして戦鐘ゴングは鳴った。


「絶対に 仙月せんづき はんは何か隠しとる! ウチの勘がそう教えてくれとるんや!」


 いつになく寧音ねねは大真面目だった。その目は真剣そのもの。


 だが、その横にいる あきら は、そんな寧音の顔を見て、深いため息をついた。


「それはアンタがどう思おうと勝手だが――」


 晶はそこで、ひと呼吸置いた。一緒にいるありすまでが、次の言葉に注目する。


「──どうして、私らまで協力せにゃならんのだ!?」


 怒りを込めて晶は訴えた。


 ここは 琳昭館りんしょうかん 高校の校門から少し離れたところに路上駐車してあるワゴン車の陰だ。ちょうど道路の反対側である。


 今は登校時間で、多くの生徒たちが晶たちの方をチラリと一瞥しては、校舎の方へと去って行く。一応、通学路からは死角になっているはずなのだが、車の陰に隠れている三人の姿は、ある理由もあって目立ち過ぎていた。


「つれへんこと言わんといてや、晶はん。ウチら、友達やんか」


「うん、お友達~ぃ!」


 寧音が脳天気に言うと、続いてありすが楽しそうに応じる。晶は頭痛を覚えた。


「友達だからって、こんなことにまで付き合わせやがって! やるなら新聞部の連中を誘え!」


 晶は不満を爆発させた。今すぐにでも、この場から逃げ出したい気分だ。


 しかし、寧音は関西人のおおらかさとしたたかさを身につけており、頭に血が昇りやすい晶よりも弁が立つ。


「分かってへんなあ、晶はん。これは一世一代の特ダネなんやで。ジャーナリストゆーもんは、それを記事にするまで、たとえ身内でも明かしたらアカンのや。協力なんて頼んでみい。アッという間に横取りされてまうわ」


「そんなもんかねえ」


「それにや、特ダネを一人でモノにしたときの、あの快感……これがまたこたえられへん! 病みつきになるでぇ。晶はんも一遍、体験してみたらよろし」


「私は遠慮しとくよ」


 寧音の熱弁など、晶はそっぽを向いて半分も聞いてはいなかった。とりあえず、事を早く済ませてしまいたい。


「とにかく、放課後のメシは、約束通りおごってもらうからな」


 念を押すように晶は言った。こうして寧音を手伝うと決めたのも、この交換条件があったからだ。


 こうなったらファミレスで一番高いステーキセットを食ってやろう、と晶は心に決めていた。


「ねねちゃ~ん、ありすもだよ~ぉ。約束だからね~ぇ」


 同じく食べ物に釣られたありすが、寧音におねだりする。


 寧音は気前よく、ドーンと胸を叩いた。


「任せとき! ウチに二言はあれへんで!」


「やった~ぁ! ありす、何食べようかな~ぁ。ストロベリー・サンデーにしようかな~ぁ、それとも~ぉ、チョコレート・パフェにしようかな~ぁ。でも~ぉ、プリン・アラモードも捨て難いし~ぃ、フルーツあんみつもいいでしょ~ぉ」


「……何か聞いてるだけで胸焼けしそうやな」


「――あっ! ホットケーキ・セットもあったっけ~ぇ? う~ん、ありす、迷っちゃ~う。ねえねえ、晶ちゃんは何にしたらいいと思う~?」


「……不吉だわ」


「きゃっ!」


 いきなり予想外のところから声がして、ありすは大袈裟にビックリした。


「ミサはん!」


 それは同じクラスの黒井くろいミサだった。いつの間にやって来たのか、三人ともその気配にまったく気づかなかった。


 しかし、ミサは三人のクラスメイトを驚かせたことに何の痛痒つうようも感じていないようで、いつもの神秘的なポーカーフェイスを崩さない。


「……徳田とくださん、忠告したはずよ。あの男──仙月アキトに関わるのはやめた方がいいと」


 ミサは静かに言った。その言い方が冷たくも感じられる。


 せっかく取材しようとしていたところを邪魔され、寧音は苛立った。


「ミサはん。いくらあんさんの忠告でも、それだけは聞けまへんなあ。取材はウチの命や! あんさんの占いで、どないな結果が出たかは知らんけど、今のウチを止めることは誰にも出来ひん──」


「来た――!」


 言葉に熱のこもる寧音の口を、晶はいきなり塞いだ。


「もがっ――! もがもご?」


 寧音は目だけを動かし、通学路を確認する。ターゲット出現だ。


 それは言うまでもなくアキトのことだった。隣には、何処かで待ち合わせをしたのか、つかさも並んで歩いている。


 二人は何事かを会話しており、今のところ、寧音たちに気づいた様子はない。


「よっしゃ! 作戦開始やで!」


 そう言うと、寧音は足下にあった物体を手に取った。


「……本気マジでやるのか?」


 晶がイヤそうな顔で、もう一度、寧音に尋ねる。


「当たり前や! ここで引き下がってどないすんねん?」


「けどよぉ……」


 晶は改めて、爪先から頭のてっぺんまで、寧音の姿を眺めた。


 寧音は制服ではなく、緑色をした恐竜だか怪獣だかの着ぐるみを着ていた。しかも手にしているのは、なぜかウシの被り物だ。その姿はとても滑稽だとしか言えない。しかも、やたらと目立つ。


 だが、これこそ寧音が寝ながら考えた作戦を実行するために、わざわざレンタルして来たものだった。


「……アンタ、怪物は山羊(ヤギ(みたいだって言ってなかったっけか?」


 無駄とは思いつつ、晶は当然の疑問を口にする。


 しかし、寧音は平然としたものだ。


「ええんや、ええんや、角さえ生えとれば。ほんの一瞬、ちょっと前へ出てって、どんな反応を示すんか見るだけやから。仙月はんが怪物のことを知っとれば、きっと何らかのリアクションをするはずやろ? それがウチの狙いなんや」


 確かに、この頭と胴体が異なるマヌケな着ぐるみを見れば、ある意味において誰でも反応するであろうが。


「早くしないと行っちゃうよ~ぉ」


 二人がやり取りする間に、アキトから目を離さなかったありすが、台詞セリフに反してトロい口調でかす。


「よっしゃ! 行って来るわ!」


 寧音は晶たちに手伝ってもらいながら、ウシの頭を被った。これで本人は怪物になりすましたつもりだ。


 アキトの前に怪物の姿で現れるというアイデア自体は悪くないが、こんな着ぐるみでどの程度のリアリティが出せるものか――


 それでも寧音は怪物もどきの格好のまま、アキトの目の前に立ち塞がろうと、ワゴン車の陰から飛び出した。幸い、アキトたちは会話に気を取られていて、まだ寧音の方に気づいていない。


 ところが──


「うわっ! たっとっとっとっ――!」


 着ぐるみの姿で走ったのがいけなかった。足が馬鹿でかく、股下が短いため、寧音は道路を半分渡ったところで足がもつれた。慌てて体勢を立て直そうとするが、重たい着ぐるみを着ていては、それも難しい。


 どてっ!


 三回ほどケンケンしたところで、寧音の身体は無様に正門の前に転がった。


 それを見ていた晶とありすは、あっちゃ~、と顔を覆う。


 さすがのアキトとつかさも、目の前にヘンテコな着ぐるみが飛び出して来て、一瞬ビックリした。しかも統一感の欠片もない、チグハグなキャラクター。唖然としたのも、むべなるかな。


「何だ、こりゃ?」


「さ、さあ……?」


 アキトの問いに、つかさは何と答えていいものやら困った。


 一方、着ぐるみ姿の寧音は起き上がろうともがくが、とても一人では無理だ。ひたすら手足をバタバタさせることしか出来ない。


「おい、こんなの放っといて、中に入ろうぜ」


「う、うん」


 つかさは、助け起こさなくても大丈夫かな、と心配そうだったが、アキトに促され、仕方なく校門をくぐった。


 続いて他の生徒たちも、地面でジタバタしている怪獣のような、ウシのような着ぐるみに一瞥を向け、失笑を洩らすものの、そのまま放置して次々と中へと入って行ってしまう。


「だ、誰か助けて~な!」


 動けなくなった寧音は必死に助けを呼んだが、着ぐるみを被っているせいで声がくぐもってしまい、通りがかりの生徒たちには明瞭に聞こえなかった。


 作戦は見事に失敗――その有様を見て、晶とありすは絶句するしかない。


 一人、冷静なのはミサだけだ。


「……ね? 私の言った通りでしょ? あの男に関わると、ロクなことがないわ。それでもまだ懲りずに取材を続けるなら、今以上に危険な災いが降りかかるかも。あなたたちも、もう一度、徳田さんを説得した方がいいわ」


 ミサの言葉に、晶とありすはゴクッと喉を鳴らした。どちらかと言うと、寧音に降りかかる災いよりも、それを予言してしまうミサの方が恐ろしい。


 そんな二人に構わず、ミサは校門へと歩き出した。そろそろ予鈴のチャイムが鳴る頃だ。


 校門のところで突っ伏したままの寧音は、通りがかった数人の小学生に笑い者にされながら、手に持った枝の先でツンツンとつつかれていた。

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