〔ハル編〕蚊帳の外なあなたや私(姉サイド)
「おーい、古都」
「カナ」
最近カナは休み時間の度に私のクラスに顔を出すようになっている。昼休みは中庭で賑やかに昼食をとり、授業後は例の『部活』に寄せられた悩み相談。
とりわけ笑顔が増えた気がする。
以前のカナは取り巻きを2、3人いつも引きつれ尖った目つきで周囲を威嚇していた。
斜に構えて諦観の染み込んだ薄ら笑いを浮かべていた彼女はもう居ない。
「周蔵なんか言ってた?」
「え?」
こと周蔵の事になればこうして顔色を変え私のところにやってくる。
いじめられてないか、とか。
問題は起きてないか、とか。
誰かの為に行動するカナは以前より楽しそうだし、絶対良い変化だと思う。
その方が人間として魅力的だし、何より一緒にいて楽しい。
でも……そうは思わない人間も確かにいる。
この子は極端なくらい以前の友人関係を断ち切っているのだ。おそらく一方的に。
学校の中でも外でも派手に立ち回っていたカナは自分で思うよりも目立つ存在なのだ。私の耳にはカナの変化を快く思わない人間も少なからず居ると漏れ伝わってくる。
中にはぶっそうな人種も居るらしいのだが……当の本人はこれ、このとおり周蔵の動向を探るのに心血を注ぐ。
「今日はあのバカ6時には家に居なかったのよね。学校には行ったみたいだったけど、どうかしたの?」
昨日少し遅れて帰ってきた周蔵はどこか様子がおかしかった。
ずっと考え事をしているようでほとんど口も利いていなかったように記憶している。
「古都覚えてる?1年の時にすぐやめてった双子。まあ実際は休学らしいんだけど」
「えと……ヒナタさんだっけ?おとなしい感じの」
「よく覚えてんなぁ。んでさ、その1人が復学してたみたいで」
「へえ。病気だったと思ったけど、良くなったのかしら」
「詳しくは知らないけど、周蔵ソイツに相談持ちかけられてたらしいんだよ。どんな事かな?……メンドクサイ事になってなきゃいいけど。で、古都に聞きに来たんだけど……知らない?」
「聞いてないなあ。ま、昼にでも聞いてみたら?」
うーん、と腕組みして首を傾げるカナ。
何か心配事でもあるんだろうか?
「そいつ……カワイイらしいんだよなぁ。ちょっととっつきにくいらしんだけど」
「そうなんだ」
そっちの心配か。
そういえば悩み相談の手紙の中には周蔵へのラブレターやファンレターが混ざりこんでいると聞く。まったく世も末だ。
あんなバカのどこが気にいったのか?その点ではカナにも聞いてみたいトコロではある。
ううん、と唸るカナを眺めているとやはり綺麗な子なんだなあと再認識させられる。
以前のトゲが無くなりヒネた表情もしなくなった彼女は、あのバカにはもったいない位に輝いている。
「……ん?なに?」
私の視線に気付いたカナは心配するのを一時中断し、私に向き直る。
「いや、カナ最近綺麗になったよね」
「いぃ?そうかな、変わんないって」
変わっていないと思っているのは本人だけだ。そしてそれを面白く思わない人間がいるのも事実。その時は私も及ばずながら力を貸そうかな、などどおこがましくも思ってしまう。
そんなことを考えていると予鈴がおごそかに響き渡る。
「じゃね、またお昼に中庭で」
ニッコリ笑って軽やかに走り去るカナ。
「ヒナタ……か」
席に座っていた私はくるくるとシャープを回しながら双子のことを思い出そうと試みる。
「……うぅん」
くるくるくるくる。
思い出せなかった。