てめえは雨乞いでもしてろよ
「おう、コラ」
「ななななんだよ」
相変わらず僕と理子、万力ゴリは誰もいない中庭で昼食を取っていた。なぜか日常化してしまった異様な景色。僕は不本意ながらも毎日毎日こうして芝生にぺたんと座って昼休みを過ごしているわけだが……
「なんで毎回理子がパシリなんだよ」
「し、知らないよ。ちゃんとじゃ、ジャンケンしてるじゃないか」
恒例となった食後のドリンク。三人でいつもジャンケンして決めているのだが結果は理子の全敗、神がかっている。弱すぎる。僕とゴリは一度も買いに行った事がない。理子に気にした様子は全く見えないのだがこのゴリヤロウは大いに不満のようだった。
「てめえが気ぃ利かせて買って来いよ。カワイソウだと思わねえのか?」
最近気が付いたのだが、このゴリ妙に理子に甘い。しっぽを振るように大きな目で懐くのが可愛くて仕方ないようなのだ。極度の寂しがりでちっちゃい捨て犬のような理子だが、ベタベタ甘える訳ではないしむしろ体育会系の機敏さを見せることも多い。生まれ付いての後輩気質。性善説を信じさせてくれるヘンな女。ゴリ程ではないが僕だって好感は持っている。
だがしかし。
「ぼ僕は勝負は勝負だと、お思う。いインチキしてるわ訳じゃなないし」
男女逆差別など許してたまるか。全ては理子のツキの無さ!己の生まれ持った星の力!パシリ属性がデフォだった理子はその性能を遺憾なく発揮しているだけなのだ!
「……てめえ、明日グーだせ」
「いイカサマか?そそそれは逆に理子にし失礼なんじゃ」
「オレもグー出す。で、てめえと俺で決勝戦でどうだ?」
「い、異議ナシ」
理子のパー率は確かに高い。僕もゴリも気が付いていたが……多分明日も理子が買いに行くことになるんじゃないかと思う。なぜなら僕やゴリが気を使ってグーを出すとき、決まって理子はチョキを出す。だから全敗なのだ。勝負運はとことん無い。
「おまたせー!買って来たよー!」
芝生をさくさくと駆けてくる理子。舌を出している幻覚が見えるほど子犬っぽい。
「そんな走んなくてもいいぞ!危ないからな」
新婚パパかお前は。溺愛すんな。
「はい!梶先輩の牛乳!シューゾー君はアイスティー!!」
印籠のようにパックジュースを突き出し誇らしげな理子。
「悪いな……って理子、お前自分の分は?」
「のど渇いてたからさっき飲んじゃった!」
と理子はカラのパックをプラプラさせる。ポイ捨てせず律儀に持っている所が理子らしい。
「じゃあコレ飲め」
「おおい、それぼ僕のあアイスティーだろ!?」
「てめえは雨乞いでもしてろよ」
「いいいつまでかかかかるんだよそれ!?」
本当に理子が可愛いんだなあ、と目の前のデレたゴリをみて思う。微笑ましく無いわけではないが、それを相殺して余りある気持ち悪さ。目なんかもうたれっぱなしだし。
「じゃあシューゾーくん!ちょっとちょーだい!」
「いいいよ」
ぷすりとストローを刺しちょっとだけ飲むと理子はパックを僕に両手で手渡した。動作のどこを切り取っても不思議とアザトサは感じられない。稀有な才能だと思う。
「てめえ、まさかそれ飲む気じゃねえだろうな」
ゴリの腕周りが一瞬さらに太くなったように見えたのは気のせいか?
「ちょっとイケてっからって調子乗んじゃねえぞコラ」
…………。
……………………。
「あ!ぼぼ僕牛乳飲みたくなってきた!せせセンパイ交換しシマセンカ!?」
「言えよ!さっさと言えよ水クセえなおい!!」
僕のパックをひったくるように奪い取りチューチュー吸い出すゴリ。危機回避。警戒信号消えました。
見た目は完全にDQNのくせに中学生みたいなヤツだ。
理子はニコニコとゴリに懐き屈託なく話しかけ、ゴリは赤ん坊を前にどうしたらいいのか困惑する休日のパパの顔で照れ笑い。芝生のチクチクしたすわり心地と草の香り。
こんなのも悪くないかも。めずらしく僕はそう思った。