第94話 《外界言語》
王都上空。
空を覆う巨大な“眼”。
黒いノイズ。
崩壊する現実。
外界侵食はさらに進行していた。
人々はもう空を見ない。
見れば壊れる。
理解すれば侵食される。
それを全員が理解し始めていた。
だが。
その中で。
カインだけが空を見続けていた。
カイン
巨大な裂け目。
その奥。
黒いノイズが蠢いている。
普通の人間には意味不明な情報の塊。
だが。
カインには少しずつ“分かって”きていた。
「……文字?」
彼の視界。
ノイズの中に、何かの法則性が見える。
崩れた記号。
数学式みたいな模様。
けれど。
それはただの文字ではない。
情報そのもの。
概念そのもの。
外界言語。
ルナが息を呑む。
ルナ
「待って……」
「見えてるの?」
普通なら不可能。
理解した瞬間、脳が壊れる。
なのに。
カインは普通に立っている。
頭痛もない。
汚染もない。
むしろ。
理解が進んでいた。
ノイズが脳へ流れ込む。
ザザッ――
普通の人間なら発狂する情報量。
だが。
カインだけは耐える。
脳内へ直接、意味が形成されていく。
空間。
宇宙。
多重世界。
断片的なイメージ。
そして。
一つの真実へ辿り着く。
「……これ」
「別世界、なのか」
全員が息を呑む。
アストラが目を見開いた。
アストラ
「理解した……?」
カインは空を見たまま呟く。
「外界ってのは」
「この世界の外側じゃない」
「別の宇宙だ」
沈黙。
誰も声を出せない。
カインは続ける。
「たぶん……壊れてる」
「崩壊した宇宙みたいなもんが、こっちへ流れ込んできてる」
外界侵食。
それは侵略じゃない。
もっと自然災害に近い。
壊れた宇宙が、現在世界へ漏れ出している。
だから。
現実法則が崩れる。
存在定義が壊れる。
この世界と、外界のルールが違いすぎるから。
ルナが震える。
「そんな……」
「宇宙同士の衝突……?」
AL-0が演算結果を表示する。
AL-0
『情報一致率上昇』
『外界=異宇宙仮説を支持』
『観測外存在KAINの翻訳能力を確認』
翻訳。
つまり。
カインだけが外界情報を“読める”。
世界で唯一。
外側を理解できる存在。
ゼノが苦笑する。
ゼノ
「またお前だけかよ……」
その時だった。
空の裂け目。
黒いノイズが脈動する。
ザザザザッ――
空間全体へ異音。
カインの脳へ、さらに大量の情報が流れ込む。
無数の文字列。
意味。
概念。
理解不能な情報。
だが。
カインだけが読み取れる。
そして。
一つの言葉が形成された。
カインの瞳が揺れる。
「……これ」
セリスが聞く。
セリス
「何て書いてあるの?」
カインは空を見上げたまま。
ゆっくり呟いた。
「――発見」
その瞬間。
巨大な“眼”が。
確かに笑った。




