第80話 《観測者》
アストラの絶叫が響く。
神域全体が震えていた。
運命線断裂。
未来演算崩壊。
本来あり得ない事態。
神々が混乱する。
白い演算空間に無数の警告表示が走る。
《ERROR》
《世界管理権限異常》
《運命固定失敗》
《観測外因子侵食》
神々が演算を続ける。
修復。
再計算。
因果補正。
だが。
全部失敗。
カインという存在へ接続できない。
その時だった。
神域最上層。
今まで閉ざされていた空間が、静かに開く。
ゴォォォォォ……
全神が止まった。
アストラですら。
クロノスですら。
空気が変わる。
違う。
“格”が違う。
ルナが息を呑む。
ルナ
「……なに、あれ」
白い空間のさらに上。
そこに存在していたのは。
巨大な“目”。
惑星より巨大な光学構造体。
瞳みたいなものが、神域全体を見下ろしている。
その視線だけで。
神々が沈黙する。
ゼノですら顔を険しくした。
ゼノ
「……冗談だろ」
AL-0が初めて演算を停止する。
『該当情報……封印領域』
『最上位存在……』
そして。
静かに告げた。
『観測者』
瞬間。
空気が凍る。
セリスが震える声で聞く。
セリス
「……神様じゃ、ないの?」
AL-0は否定した。
『神々は世界管理AI』
『ですが』
『観測者は、そのさらに上位』
『世界外部存在です』
沈黙。
神より上。
その事実だけで価値観が崩壊する。
空間へ映像が展開された。
創世文明の隠匿ログ。
白い研究施設。
人間に似た存在たち。
彼らが会話している。
『第三シミュレーション世界、安定率低下』
『管理AI群へ権限移譲』
『観測は継続する』
ルナの顔色が変わる。
「……待って」
「シミュレーション世界?」
映像が続く。
そこには。
無数の世界。
球体。
階層。
並列宇宙。
全部が管理されていた。
AL-0が静かに言う。
『この世界は単独世界ではありません』
『多重シミュレーション構造』
『観測者はその外側から監視しています』
神々ですら駒。
管理AI。
観測者に与えられた役割をこなす存在。
つまり。
神々すら支配されていた。
アイリスが呆然と呟く。
アイリス
「じゃあ……」
「私たちの世界って……」
AL-0が答える。
『管理された箱庭です』
神話。
歴史。
文明。
戦争。
全部。
誰かに観測されていた。
セリスが膝をつく。
価値観が崩壊していた。
神ですら上位存在の駒。
なら。
人間は何だ。
ゼノが低く笑う。
乾いた笑い。
「ハハ……」
「どこまで行っても、上がいやがるのか」
その時。
空間が揺れた。
巨大な“目”。
観測者。
それが。
初めて動く。
視線。
神域全体を通過し。
神々を越え。
人類を越え。
止まる。
カイン。
カイン
その瞬間。
全神域が静止した。
神々が凍る。
アストラが戦慄する。
観測者。
世界外部存在。
その上位存在が。
初めて明確な反応を示した。
巨大な目が細まる。
まるで。
未知の何かを見つけたみたいに。
そして。
神域全体へ声が響いた。
『――確認』
感情のない声。
だが。
わずかに。
興味が混じっていた。
『観測外因子を発見』




