第72話 《因果律》
白銀神域。
世界停止空間。
そこへ。
新たな裂け目が走った。
空間が静かに割れる。
音もなく。
ただ現実だけが開く。
その奥から、一人の神が降りてくる。
少女の姿。
長い黒髪。
白と黒が混じる神衣。
瞳には無数の数式。
まるで世界そのものを演算しているようだった。
AL-0の警告音が暴走する。
『超高位管理存在接近』
『識別――』
『因果神ミラ』
ミラ
アストラと同格。
世界管理神。
だが。
役割が違う。
運命神が“未来”を管理するなら。
因果神は“結果”を管理する。
ミラはカインを見た瞬間、眉をひそめた。
『これが観測外存在……?』
声に感情は少ない。
だが。
不快感が混じっている。
世界法則へ干渉できない異物。
管理側から見ればバグそのもの。
アストラが静かに告げる。
『通常法則では拘束不能』
『注意してください』
ミラは小さく頷く。
そして。
カインを見る。
「……なんかまた増えた」
カイン、若干疲れていた。
神増えすぎ問題。
ミラは静かに右手を上げる。
瞬間。
世界へ無数の数式が浮かび上がった。
因果演算。
結果固定。
世界は本来。
原因があり、結果が発生する。
だが。
因果神は違う。
結果を先に決める。
そこへ世界を強制的に合わせる。
理不尽。
絶対能力。
ミラは淡々と言う。
『結果を設定します』
空間震動。
神域全域へ数式展開。
『観測外存在KAIN』
『敗北を確定』
その瞬間。
世界が“そうなる”はずだった。
例えば。
普通の人間なら。
次の瞬間には死ぬ。
抵抗不可能。
回避不能。
なぜなら。
“結果”が既に決まっているから。
だが。
――何も起きない。
静寂。
ミラが止まる。
『……?』
カインは普通に立っていた。
「え?」
「なんかした?」
成立していない。
因果固定失敗。
あり得ない。
ミラの瞳の数式が高速回転する。
再演算。
再定義。
再固定。
『再実行』
『観測外存在KAIN』
『拘束済み』
世界が軋む。
因果律そのものがカインへ絡みつく。
だが。
次の瞬間。
バキン。
数式崩壊。
因果断裂。
ミラの周囲でエラーが暴走する。
『ERROR』
『ERROR』
『因果接続失敗』
『結果固定不能』
アストラが目を細める。
ミラは初めて表情を崩した。
『……あり得ない』
神の声が揺れる。
カインは逆に困惑。
「いや、なんかごめん」
謝られても困る。
ミラは一歩前へ出る。
瞳へ無数の演算式。
世界規模因果処理。
神域演算補助。
全部投入。
『結果固定』
『観測外存在KAIN』
『存在崩壊済み』
普通なら。
これで終わる。
存在そのものが“既に崩壊した結果”へ変換される。
しかし。
カインは普通に立っている。
「……いやだから」
「何も起きてないんだけど」
ミラの背後で数式空間が崩壊した。
因果処理系統異常。
神域そのものが悲鳴を上げる。
なぜなら。
世界法則の前提が壊れている。
“結果を固定すれば必ず成立する”
その絶対ルールが。
カインだけ通じない。
つまり。
世界側が彼を定義できていない。
ミラが初めて後退する。
神が。
因果神が。
演算不能へ恐怖していた。
カインは少し気まずそうだった。
「……えっと」
「もう帰る?」
神へ帰宅提案。
意味不明。
だが。
ミラは答えられない。
演算が追いつかない。
そして。
因果神は震える声で呟いた。
『あり得ない……』




