第69話 《世界外因子》
割れた月。
その光景は世界中へ絶望を刻み込んだ。
夜空に走る巨大な亀裂。
そこから漏れ出す白い光。
神々の侵攻は、ついに天体規模へ到達していた。
王都では誰もが空を見上げている。
泣く者。
祈る者。
諦める者。
世界は本当に終わろうとしていた。
その頃。
王城地下。
神代施設最深部。
AL-0がカインたちを案内していた。
巨大演算空間。
無数の白いモニター。
天井を埋め尽くす神代文字。
そして中央。
封鎖されていた最後の領域。
AL-0が静かに告げる。
『最終権限解放を実行』
『観測外存在KAINを認証』
直後。
施設全体が発光した。
ゴォォォォォ……
巨大な扉が開く。
中には。
一つの白い記録装置。
神代文明最終機密。
ルナが息を呑む。
ルナ
「これ……」
「神代文明のブラックボックス……」
AL-0が頷く。
『閲覧権限は本来存在しません』
『しかし現在、優先事項を変更』
『世界存続を最優先とします』
カインが前へ出る。
その瞬間。
装置が起動。
白い映像が浮かび上がった。
ノイズ。
そして。
白衣の人々。
創世文明。
以前見たログと同じ。
だが。
今回は違う。
緊急記録。
切迫していた。
『……実験体番号KAINの反応を確認』
空気が止まる。
カインの目が揺れる。
『観測外因子との融合率、想定を超過』
『管理AI群による修正不能を確認』
映像内の研究者が焦っている。
『このままではシミュレーション世界そのものが干渉を受ける』
『外側情報が侵食している』
ルナが息を呑む。
「……外側?」
映像が切り替わる。
そこに映ったのは。
黒。
理解不能な空間。
星すら存在しない場所。
ただ。
“何か”だけがいた。
見た瞬間、脳が拒絶するような異常。
映像が乱れる。
『観測不能』
『定義不能』
『世界外因子接触を確認』
その単語。
世界外因子。
セリスが震える声で呟く。
セリス
「……世界の、外?」
研究者の声が続く。
『KAINはシミュレーション内部生命体ではない可能性があります』
『外部情報汚染』
『あるいは――』
ノイズ。
映像が激しく乱れる。
そして。
最後。
白衣の人物がカメラへ向かって言った。
『もし彼が覚醒した場合』
『管理AIでは停止不可能です』
『なぜなら彼は』
一瞬。
映像へ意味不明な文字列が走る。
AL-0ですら処理不能。
そして。
最後の言葉。
『“外”由来だからです』
映像終了。
静寂。
誰も喋れない。
カイン自身ですら。
呼吸が浅い。
外由来。
つまり。
この世界の存在ではない。
本当に。
人間ではない可能性。
カインが掠れた声で呟く。
「……俺」
「何なんだよ」
ルナも答えられない。
天才ですら理解不能。
AL-0が静かに言う。
『現時点で断定不可』
『しかし観測外存在KAINが世界外情報を保持している可能性は極めて高い』
アイリスが眉をひそめる。
アイリス
「じゃあ、カインはこの世界の敵なのか?」
その問い。
重い。
だが。
AL-0は即答した。
『不明』
『しかし少なくとも』
赤い瞳がカインを見る。
『彼は現在、人類側へ立っています』
それだけが事実。
その時。
空間が揺れた。
白い光。
運命神アストラが現れる。
アストラ
だが。
いつもの冷静さがない。
彼女は映像記録を見つめていた。
そして。
初めて。
何も言わなかった。
沈黙。
神が。
否定しない。
それが。
何より答えだった。




