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【連載完結】世界で一番醜い……だから私を見た人はみんな死ぬの。  作者: 逆立ちハムスター


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3/4

愛という名の浄化

頭の中に響く声が、私を責め立て続けている。

『醜い』『人殺し』『呪われた怪物』――無数の私自身の声が、幾重にも重なり合い、鼓膜を内側から突き破らんばかりに猛り狂っていた。

 私は耳を塞ぎ、うずくまる。このまま石になってしまいたかった。何も聞こえない、何も感じない、ただの道端の礫になれたなら、どんなに楽だろうか。


けれど、その嵐を切り裂いて、彼の声が届く。


「……あの時、君がくれた木彫りの人形、今でも持っているんだ」


カイルは、魔力の奔流にさらされ、頬から血を流しながらも語り続けていた。

 一歩。また一歩。彼は震える足で、私との距離を詰めてくる。


「雨の日に、二人で雨宿りをした教会の軒下。君の髪についていた滴を拭った時、君は恥ずかしそうに笑った。……覚えているかい、リリアナ」


やめて。思い出させないで。

 そう願うのに、彼の声が心に届くたび、頭の中の罵声が一つ、また一つと消えていく。波が引くように、静寂が訪れる。


ふと、私は自分の手を見た。

 耳を塞いでいた両手。その指先を覆っていた、岩のように硬く、どす黒い皮膚が……パラパラと、乾いた土のように崩れ落ちていく。


「……ああ……」


剥がれ落ちた皮膚の下から現れたのは、瑞々しく、透き通るような、人間の白い肌だった。醜い怪物の殻が割れ、かつての「リリアナ」が、内側から生まれ落ちようとしている。


気づけば、カイルが目の前にいた。

 彼は跪き、私の震える手をそっと両手で包み込む。彼の体温が、指先から伝わってくる。


「昔も今も、愛してるよ。リリアナ」


カイルが囁き、私に微笑みかけた。

 その瞬間、私の胸の奥に、かつてないほどの強烈な「熱」が宿った。

 それは、石化の呪いの冷たさとは正反対の、命の躍動。あまりに熱く、あまりに激しいその感覚に、私は「これこそが救いなのだ」と確信した。


安堵が全身を包み込む。

 私は彼にすべてを委ねようと、力を抜いてその胸に寄りかかろうとした。


――けれど。


不意に、支えが消えた。

 

 カイルが、私の手を離したのだ。

 ゴミでも捨てるかのような、無造作な動作。


「……カイル?」


見上げた先にいたのは、さっきまで慈愛に満ちた表情を浮かべていた男ではなかった。

 そこには、一筋の感情も、光も宿していない、凍てついた無機質な瞳。

 彼は無言のまま立ち上がり、一歩、また一歩と、私から離れるように後ずさっていく。


「カイル、待って……熱いの。体が、すごく……!」


内側から湧き上がる熱は、もはや心地よい温もりではなかった。

 それは私の内臓を焦がし、血管を焼き切るような、猛烈な「火」へと変貌していた。

 

 熱い。熱い。身体が燃えている!

 

 私は這いずりながら彼を呼んだ。けれど、カイルは足を止めない。

 暗い聖域の出口に向かって、彼はただ無表情に、人形のように淡々と離れていく。彼が通り過ぎるたびに、周囲に転がっていた石像たちが、眩い光を放って砕け散っていった。


「嫌よ……行かないで! 助けて、カイル!!」


ついには地面に倒れ込み、私はのたうち回った。

 自分の指先から、青白い炎が立ち上っているのが見える。

 石化の呪いが解けたのではない。石化という「保存」が解かれ、溜め込まれた魔力が、私という依代ごと「消滅」させようとしているのだ。


カイルの背中が、どんどん遠くなる。

 彼は最初から、私を救いに来たのではない。

 私という「呪いの塊」を焼き尽くすために、愛という名の点火剤を注ぎに来たのではないか。


「あああ、あああああああ!!」


何が起きているのか、分からない。

 なぜ彼が私を捨てるのか、分からない。

 

 ただ、理解できるのは――。

 あんなに愛おしかった彼の温もりが、今では私を殺すための地獄の火にしか思えないという、絶望的な真実だけだった。


私は嘆き、悲しみ、燃え上がる自分の肢体を眺めながら、意識を失っていく。

 カイルの足音は、もう二度と、私を振り返ることはなかった。

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