幕間: 袁紹クンは逃げ出した
俺の名は袁紹 本初。
汝南袁家に連なる、期待の星だ。
なにしろ我が袁家は、四世三公の名門である。
その中でも俺は早くから取り立てられ、清廉との評判を得ているんだぜ。
おまけに母上が亡くなった時は、ちゃんと3年間も喪に服したし、さらに父上の分も服喪した孝行者だ。
(注.服喪にかこつけて、6年間もプータローしていたともいえる)
その後、洛陽に移り住んで、交友を広めていたら、叔父上に叱られたので、出仕することにしたのだ。
何進将軍の属官から始めた俺は、やがて侍御史、虎賁中郎将を歴任し、とうとう司隷校尉にまで昇りつめた。
やっぱりできる男は違うよな~。
困っちゃうな~、もう。
しかしこの頃になると、上司の何進将軍と宦官との対立が、抜き差しならないことになっていた。
おりしも劉宏陛下が崩御なされ、劉弁さまが皇帝に即位された直後である。
このまま宦官を放置すれば、朝廷の腐敗は進み、また実権を握られるかもしれない。
そう思った俺は、何進将軍に宦官の誅滅を提案したのだ。
将軍はそれに賛同してくださったが、彼の義妹である何太后が首を縦に振らない。
彼女にとって宦官は、便利な存在だからだ。
そこで俺は地方の軍閥を洛陽に呼び寄せ、その武威を見せつけることで、何太后に決断を迫ろうと、将軍に献策したのだ。
結局、その策は採用されることとなり、董卓、橋瑁、丁原を呼び寄せた。
しかしその武威を目の辺りにしてもなお、何太后は宦官誅滅に同意しない。
挙句の果てには、将軍までが実行をためらう始末だ。
「何進さま! すでに我々の計画は、宦官どもの知るところとなりました。ここで実行をためらっていては、今度は我々が寝首をかかれますぞ!」
「むう……そうは言ってもな。うかつなことをすれば、我らが逆賊にされかねんのだぞ」
「それでもです。ご決断を!」
「……もう少し待て」
「くっ……分かりました」
何を悠長なことを言っているのだ。
このままでは本当に我らの身が危ういのだぞ。
そう思って歯噛みをしているうちに、なんと何進将軍はノコノコと参内し、宦官の張譲たちに殺されてしまったのだ。
「何進将軍が殺されただとっ! 者ども、武器を取れ。今こそ宦官を皆殺しにする時ぞ!」
「「「おうっ!」」」
それを知った俺は、ただちに兵を率い、宮中へなだれ込んだ。
幸いにも他に誰か動いているのか、宮中には火の手が上がり、混乱している。
「宦官どもを1人残らず捕らえろ。逆らう者は殺してかまわん」
「「「ははっ」」」
そこからは怒涛の勢いだ。
俺たちは宦官を見つけしだい、斬り殺していく。
その間に間違いもあったかもしれんが、やむを得ん。
これは義挙なのだ。
(注.許可もなく宮中に踏み入った時点で、大逆罪である)
な~に、天子を手に入れさえすれば、なんとでもなる。
そう考えていたのだが、事態は思うようにはいかなかった。
「天子さまのお姿が見えません」
「なんだとっ! よく探したのか?」
「はっ、くまなく。どうやら誰かの手引きで、宮殿を抜け出したようなのですが……」
「ただちに見つけ出せっ!」
「はっ!」
まずい、まずい、まずい。
このままでは権力を握れないばかりか、冤罪すら押しつけられるかもしれない。
(注.すでにまぎれもない大罪人である)
その後、必死に天子の捜索を行ったものの、事態は予想外の展開を見せる。
「天子さまと陳留王(劉協)さまを、洛外で保護した。俺はこのまま、天子さまの警護を受け持つ。異論はないな?」
「ぐうっ……」
あろうことか、董卓が天子を連れて入城してきたのだ。
そしてヤツは天子を身近から離さず、その権威を笠に着ている。
ふざけるなっ!
関中の田舎者どもが、偉そうにしおって。
その後、天子が大赦を発したことで、我らの罪は沙汰止みになった。
まあ、漢朝のためにやったことなので、責められることはなかったと思うがな。(ドヤ顔)
しかしその後が、ヒッジョーによろしくなかった。
董卓のヤツめ、またたく間に洛陽の軍勢を支配下に収めたうえ、司空の座に収まったのだ。
そのために執金吾の丁原を暗殺するという、ヤツらしいやり方でだ。
まったく、なんて残虐な男であろうか。
そんな董卓の蛮行を止められずにいるうちに、とうとうヤツから呼び出しがあった。
まさかこの袁家の期待の星を、殺しはしまいと思って応じれば、奴めとんでもないことを言いだしたのだ。
「儂は天子さまには、劉弁陛下よりも劉協さまの方が、ふさわしいのではないかと思っている。貴殿もそうは思わぬか?」
「……そ、それはなんとも。あまりに重大な事ゆえ、叔父上に相談させてもらいたいと思います」
「そうか。袁隗どのにも、よろしく伝えてくれ。儂はこれから、貴殿らにはいろいと協力してもらいたいと思っておる。互いに手を取り合って、漢朝を立て直そうではないか」
「は……」
はあっ?!
なに言ってんだよ、このバ~カ!
俺がお前なんかと、協力するわけねえだろうが!
今回のことでよ~く分かった。
俺はこいつとは一緒にやれない。
こいつと同じ空気を吸ってると思うだけで、耐えられないものがある。
しかしそうなると、このまま洛陽に留まれば、いつ始末されてもおかしくないな。
よし、逃げるぞ。
行き先はとりあえず、冀州でいいか。
あそこにはいろいろと使えるヤツがいるからな。
そうと決まれば、ただちに脱出だ。
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ワハハハハ、董卓のヤツ、なんと俺を渤海太守に任命してきやがった。
やっぱり俺を敵に回すと、まずいと分かってるんだな。
しょうがないから受けてやるか。
そして力を蓄えて、いずれは……
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ワハハハハ、とうとう中原のあちこちで、董卓に対する反乱の火の手が上がりはじめた。
いやいや、反乱じゃなかったな。
義挙だ。(キリッ)
これは漢朝を正道に戻すための、義挙なのだ。
そしてその盟主に、俺がなって欲しいって言うんだからな~、困っちゃうな~。
まったく、できる男はつらいぜ。(フッ)
こうなったら俺の力で、董卓を誅戮してやろうじゃないか。
そして今度こそ俺が、この中華で最大の権力を握るのだ。
筆者の中で、後漢を滅亡に追いやった戦犯第1位の袁紹クン。
董卓たちを呼び出そうって言い出したのこいつだし、宦官を虐殺してるし、反董卓連合の盟主やってるしで、もういろいろとギルティ。
そのくせ反董卓連合の方が、いいもん扱いされてる歴史の不条理。
まあ、公孫瓚を倒して一大勢力を築いたあたり、それなりの人物だったとは思いますが。




