表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

恋人ごっこ

 ──「デート中は俺のことを恋人のように思って。」



  須賀みかの手を繋いで歩き出す。


  恋人・・・恋人・・・

  恥ずかしさはあるが、ここは照れてる場合ではない。「恋人のデートを体験すること」が、スガちゃんの声優の演技のためになるのだから──リアリティーのある演技をするためには、同じ経験をして、より気持ちを作りやすくすることが大事だ。




  と、なると───

  手を繋いでいるにしても、スガちゃんの体とのスペースが空きすぎではないか。もっと体を近くに寄せて・・・

  ……このくらいか、と俺はスガちゃんとの体との間隔を無くすぐらい詰め寄った。

  腕や肩にお互いの体が触れ合う。真横に須賀みかの頭が見える。

  「スガちゃ・・」

  と、言いかけた所である事を思い出して言い直す。


  「──みか、さて、どこに行こうかな。」

  下の名前で呼んで言葉を投げ掛けてみた。だがスガちゃんはこっちを見ずに何も答えない。

  「・・・・・」


  (・・どうした・・)

  いつもクラスで見るスガちゃんは割とノリが良いはずだが、何故無言・・?

  これが即興劇(エチュード)なら、大体はこっちが下の名前で呼んだら向こうも俺の下の名前で呼び返して会話するものだが。

  じゃあ、もう一度──


  「みかは、どこに行きたい?」

  さっきよりフラットさを出して言ってみる。そしたら、返事がようやくあった。

  「ええ・・っとお、わたしは・・あまり出掛けたりしないからわかんないけどお、体を動かしたり出来る場所かなあ━っ 」


  不自然な、声の高さとぎこちない喋り方になってるが、返事があった。

  なんだ。君も緊張してただけかい。

  最近席替えで隣になって初めて話すようになったのだから、まだ俺と慣れていないだけだったのかも知れない。


  「体を動かしたり出来る場所か、それじゃあ“あそこ”だなっ! 」

  「へ!? “あそこ”って? 」

  「駅のすぐそばに、ボウリング場があるんだ。少しやっていこうぜ! 」

  「・・うん! あんまりやった事がないけど、行こうかっ 」


  弾んだ声を聞いたら安心した。テンション高くなると、独特なアニメ声が更にそれっぽくなるんだな。甘ったるくて可愛らしい。アニメ声優が天職と思えるぐらい、本当に良い声質を持ってると思う。


  「・・そう言えば、さっき、下の名前で呼んでいたの・・・・」


  ポツリ、と呟くのが聞こえてきて、

  「うん? 」と、俺は首をかしげる。


  「突然、そんな、呼び方されて、びっくりしちゃったよ・・・。さ、さ、流石、岸辺くんというか・・・」

 

  スガちゃんが、テンパってる。


  「下の名前で呼び返していいんだぜ? 互いの心の距離が縮まるし。それに『距離感』って、なかなか難しいしな。口調とか声の大小、高低は、その相手との関係性によって、結構変わってくるもんなんだ。

  それを考えると、隣にいる彼女に話しかけるなら下の名前で呼ぶのが自然じゃないかと、

  あ、ちなみに俺の名前は『勇人(ゆうと)』だよ。」


  「じゃ、じゃあ、今日はそう呼ぶね。岸辺くんのことを・・・勇人・・って。」


  またポツリと呟く。繋いだ手が更に熱っぽくなって体温を感じるのは気のせいか。それは俺のせいなのか・・ひょっとすると、俺を意識して・・・ まさかと思いつつ、須賀みかを見ていた。

 



  数分後、ボウリング場に着いた。

  2ゲームすることにして受付を済まし、指定のレーンの前に行く。

  「飲み物買いに行くけど、みかは何が飲みたい? 」

  「えっとね、レモンウォーターがいいな。」

  「わかった。ちょっと待っててね。」


  自動販売機へ向かいながら、ふと、さっきまでずっと繋いでいた手の感触が気になった。

  勢いで手を繋いでしまったが、なかなか平常心を保っているのが大変だった。今更だが、顔が赤くなっていく・・・


 

  さっき見た、須賀みかの横顔・・・も、

  やっぱり照れていて、顔が赤くなっていた。


  今日一日だけ、恋人のデートをやっているにしても、今後もまたクラスメイトとして関係で居られるのか、なんて考えてしまう自分がいた。

 





 



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ