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シチュエーション

 

  「「なんか、初めてって感じがしないな、俺達──・・・」」



  夜、脚本家兼舞台役者の片山かすみから渡されたプリントを音読していた。



  明日は久々に片山かすみと、部活で会える日だ──

  寝る前にそれを思い出した。

  演劇部の部活動は、平日の放課後に毎日活動している。

ただ、片山かすみは、小さい頃から有名な劇団に所属しており、舞台に向けての稽古で忙しい。行ける曜日が限られている。その曜日が明日の水曜日だ。


 俺は寝る前に2枚のプリントの掛け合いの台詞を暗記することにした。

  明日の部活動の後にきっとやるだろうから、台詞を覚えておかなければならない。


  そういえば、このプリントを渡してきた時──

  『岸辺くんが夢に出てきて、一緒にやって欲しいシチュエーション思い浮かんだんだよ。』

  ・・そんな事を言っていた。

  ひょっとして、片山かすみにとって、俺は気になる存在???ふと初めて喋ったあの日、下着姿で立っていた片山かすみが頭に浮かんでくる。

 

  「「君の事がまだ好きなら、会いに来るよ──」」


  最後に抱きつかれたあの一連を思い出して心が踊りそうになるのをどうにか抑え、さっきから原稿を読んでいる。


高校卒業した後も俺が役者を続けることにしたら、片山かすみは喜ぶのかな・・・

ただ彼女にとっては、舞台のキャスティングの為に必要としているだけなのかも─── いや、それだけでも役者の腕を認められているようで嬉しいのだが。




 


  ──胸の高鳴りが止まらない。



  携帯を手に取り、【片山かすみ】と表示されてるアイコンをタップして『明日だよな?部活の後にやるって話は。』的な、何かメッセージを送ろうとしたが・・・やっぱり辞めておいた。時計を見ると深夜2時を過ぎている。



  集中し何度も何度も台詞を声に出して読んだ。覚えていなくて、片山かすみをがっかりさせるのは嫌だった。

そして完璧に台詞を入れ込んでから眠りについた──







 ───次の日

  水曜日の部活動には、やはり片山かすみの姿があった。

  バイトや塾で忙しい高校2年生が大半を占める部員たちは、部活動が終わるとすぐに帰り始める。部長の明日香や、奈々と七海もふざけ合いながら部室を出ていった。

  しばらくすると静かになった部室には、俺と片山かすみだけが残っていた──


  少し緊張しながら片山かすみの方へ近付いて行く。向こうも俺に気付いて微笑んだ。「にこり」と。ふわりとウェーブのかかったショートカットが揺れた。




「良かった。岸辺くん、掛け合いをする事ちゃんと覚えていてくれてたんだねっ!」

「・・片山さんが作ってきた掛け合いの台詞、ちゃんと覚えてきたよ。」

「えっ! 本当!? じゃあさっそくなんだけどはじめよう! 」


  片山かすみはそう言うとくるっと体の向きを変え、数メートル先で俺に背中を向けて立った。背中からもう役に入ってる様子が伝わってくる。


 なら、始めないと。

 俺の台詞からこの掛け合いはスタートする───


 【これは入院している患者A(女17歳)と、

知人のお見舞いで病院にやってきたB(男17歳)の物語。】

  大きな手術を前に恋人が病院に来るのを待っているA──知り合ったばかりのBは、それを知って何とかしてあげたいと考える──・・


──頭のイメージを切り替え、脳内に場面が見えた瞬間、俺は登場人物Bになりきる・・・

ここは病院で、目の前に立って居るのは入院中で同じ年齢の女の子がいる──



 病院内で出会って、ふとしたきっかけで会話するようになり、段々仲が良くなっていく二人。


 「なんか、初めてって感じがしないな、俺達──・・・」

「わたしもそう思うよ。人生の終わりももう近いかもしれないって言うのに、君みたいな大切な友達が出来ちゃった。

 ・・・手術、怖いなあ。お医者さんから、手術の成功率は30%なんだって。」


 こちらに体を向けて、女の子は何処か遠くを見つめている。

「──もう、会えなくなるのかもしれないなら、最後に会いたいな、大好きなあの人に。」

「・・君の事がまだ好きなら、会いに来るよ。」

「そう、かなあ?

入院して最初の頃はよく会いに来てくれていたのに、気が付いたら1年・・・来てくれなくなっちゃった。わたしの病気知って怖くなっちゃったのかな。」


 まだ知りあって間もない俺に、身体を震わせながらここまで打ち明けてくれる名前の知らない女の子。

 『何とかしてあげたい』という気持ちが膨れ上がって来る。



「なあ、ちょっと今から外に出れない?せっかくの天気だから・・・あ、看護師さんに外出許可が必要なら待ってるから・・・」

「うん?外に出るのは全然かまわないよ。じゃあ、許可もらって来るね。」


 そう言うと、女の子は小走りで去っていった。

 ───片山かすみは部室から出て行った。・・さあって次は病院外のガーデン広場のベンチで座って会話するシーンだな。椅子を4つ繋げてベンチとしよう。


 ・・さあ、気持ちも作ったことだし、いつでも来い!と思っていたのだが、なかなかに戻りが遅い・・・






 ガラッとドアが開くと、さっき出ていったはずの奈々の姿があった。


 「ちょっと忘れ物しちゃって・・お邪魔しますー。」

 奈々に続いて片山かすみが入ってくる。

「・・ってことだから、一時中断しよう。岸辺君。」


 奈々は俺と目が合うと一瞬疑わしい表情をした後、すぐに何か企んだ表情を見せ俺にくっついてきて耳元でボソッとつぶやいた。


 「忘れ物は、岸辺君なんだけどねっ」

 と言い、片山かすみと俺を見比べて

 「やっぱり無かったわーわ・す・れ・も・のっ でも暇だし、二人で何やってたか見て行こうかな?」

 「簡単な掛け合いを岸辺君とやっていたんだけど、奈々ちゃんも交代でやる?」

 「そーなんだっ たのしそうだね。うん、やるっ!」

 「・・珍しく、放課後の練習とか付き合うんだな。」

 「・・・・」

 俺の言葉はさっと流して、軽く身体をひねったり声の状態を確かめたり。制服の首回りを緩めたりスカートをもう一回り内側に折るなどしている。

「・・・・むんっ!」

 ・・後半変わった気合の入れ方だ。


 片山かすみと俺の関係を怪しんで嫉妬しているのか、あるいはラブ・ロマンス演劇のヒロインの座をかけて張り合っているのか・・・


 なんにしても、やる気があることは良いことだと奈々を見て思ったのである。


 

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