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第一話 脳内帝国の崩壊

はあああっつ。

風のない春のよく晴れた日。高校二年生になったばかりの山田阿斗は、校庭の葉桜を見ながら、うららかな天気とは対象的などんよりとした溜息をついた。

退屈だ、とにかく退屈だ。

授業も、光のどけき春の野も、この世界も。


僕はこの苦痛をどうやり過ごせばよい?


この苦痛はいつまで続く?


働くのも嫌だし、家に引きこもるほどの経済力はうちにはない。また、引きこもったとして何をする?漫画?ゲーム?なんかそれも怠い。


右斜め前の女子の背中のブラウス越しにブラジャーの留め金が浮き出たのを眺める。

恋愛はどうだろう。恋愛はいいかもしれない。でもどうやって始めていいかわからないし、始まる気もしない。手っ取り早く、誰か告白してくれればいいんだけど、それを待っていたら多分おっさんになってしまう。


それに、僕は17歳にもかかわらず、少しおっさん体型だ。猫背で太っている。中学は陸上をやっていたから引き締まっていたけど、今やぽっちゃりしている。


恋愛も無理ゲーだ。セックスとか都市伝説だ。


とにかく目の前の退屈をどうにかしよう。


僕はまず脳内帝国の建国を宣言し、広く国民に国名を公募した。まあ、国民は僕1人なんだけれど。


けつ

アンタルキア帝国

パブロフ北部都市連合

ウィーヴィア帝国


さっそく第一回脳内帝国上議会および下議会が招集され、国号は晴れてウィーヴィア帝国に決まった。


国旗は黄色地に羽が剣になった燕のデザインてし、国歌は残酷な天使のテーゼに決まった(国歌斉唱でみんなこめかみの血管きれそうになるだろう)。


帝都ウィーヴィアから湊町マッテルロスまでサビーア街道を敷き、北のバガロ族の侵入に備え、北方山地にガルフ壁城を建設した。

西の大国ヨランドとは良好な関係を築いているが、近年ヨランドで勢力を強めている一神教のヤミル教が国境付近で不穏な動きを見せている。


民間から交通大臣を登用したあたりで終業のチャイムが鳴った。




皆がお弁当など取り出してお昼の支度をしている。僕もお弁当とステンレスボトルのお茶を鞄から取り出して、ひとりで昼食をとろうと思っていると、後ろの席に座っていた女子がこちらを睨んでいる。


「え?何かイベント始まった?」


「見つけたぞ、諸葛亮!」


「は?」


声が大きい。確か、何とかという変な部活をしている鈴木さんだったか。教室がちょっとざわつく。


いや待て。

何だその恥ずかしい二つ名。


「人違いです」


「いや、お前しかいない。さっきからずっと見ていた」


見ていたの!?

怖っ。


「授業中、一度も黒板を見ずに遠い目をしていた。完全に軍師の目だ」


「ただ退屈してただけです」


「さらにノートに意味不明な国家建設計画を書いていたな?」


終わった。


いつの間に見られていたんだ。


「サビーア街道、ガルフ壁城、北方バガロ族対策……見事だ」


「見るなよ!!」


クラスの数人が吹き出した。


特に前の女子が肩を震わせている。

ブラジャーのホック見えてた子だ。

最悪だ。


「ふっ……やはりな」


女はニヤリと笑った。


「我がダイエット部に必要なのは、お前のような軍略家だ」


「ダイエット部?」


その単語だけ妙に現実感があった。


「正式名称・蜀漢高校健康促進研究会。通称ダイエット部!」


ビシィッ!と彼女は窓の外を指差した。


「この学校は終わっている!」


「はあ」


「購買は揚げパン!昼は大盛り唐揚げ弁当!放課後はタピオカ!帰宅後カップ麺!」


確かに。


「その結果、肥満率は年々上昇!このままでは蜀漢高校は滅ぶ!」


なんで学校国家みたいな扱いなんだ。織冠しょくかん高校な。


「そこで私は立ち上がった!」


彼女は胸を張った。


「二年三組、劉備小桃!」


なんか名前まで蜀だ。


「目指すは全国高校ダイエット甲子園優勝!」


そんな大会あるの?


「そして私は三顧の礼をもって、お前を迎えに来た!」


「いや初対面ですよね?」


「細かいことを気にするな、孔明」


「諸葛亮って呼ばないでください」


「わかった諸葛亮」


わかってない。


その時、教室後方から低い声が響いた。


「……また勧誘失敗してんのか、部長」


振り返る。


そこにいたのは、異様に太った男子だった。


ただのデブではない。


でかい。


圧がある。


座っているのに土偶みたいだ。


しかし不思議と動きにキレがある。


「紹介しよう!」


劉備先輩が叫ぶ。


「三年一組、関羽重虎!」


「誰が関羽だ」


「ダイエット部エース!半年で32キロ痩せた男だ!」


教室がざわついた。


「マジで!?」


「えっそんなに?」


重虎は面倒くさそうに頭をかいた。


「……リバウンドして今ほぼ戻ったけどな」


「なんでだよ!!」


僕は思わずツッコんだ。


すると重虎は真顔で言った。


「唐揚げは……裏切れねぇ」


妙に深い声だった。


劉備先輩はニヤリと笑う。


「放課後、旧校舎第三準備室に来い」


「行きません」


「来なければ」


彼女は僕のノートを掲げた。


『ウィーヴィア帝国建国草案』


終わった。


「全国に公開する」


「行きます」


こうして僕、山田阿斗の平穏な高校生活と、

脳内帝国ウィーヴィアは、

静かに崩壊を始めたのである。


初めて投稿いたします。読んでいただければ幸いです。

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