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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第92話


 屋内実戦演習開始前。


 この演習中に死んでも文句なし、という書類にサインをし終わり、全員が並び直す。


「全員がサインするとは、勇敢な事だ。ところで、これは何に使うのか?」


 イザベルが『人生負組一直線』と書かれた、のぼり旗の前に立つ。


「救出部隊。犯人役を全滅させろ。

 犯人役。全滅せずに、機密書類を1700まで隠し通せ。

 脱出役。救出部隊に顔を見られず機密書類を奪取、それを持って建物を脱出。

 ・・・と! この任務に失敗した者が使う!」


 ばん! とイザベルが旗を叩き、ばたた、と旗が鳴る。


「この旗を天高く掲げ、基地内1周だ! この基地には民間の輸送業者も忙しく出入りしている! 明日には町中で噂になる事は間違いない! 嬉しかろう!」


(冗談でしょう?)


 ではない、と分かっていても、言いたくもなる。

 民間の人達にもその姿を見られるのか!?


 カオルの顔から血の気が引く。

 マサヒデを相手に脱出が出来るのか!?


 ぱん! ぱん!

 イザベルが手を叩く。


「全員、装備を取れ!」


 始まるのか!? 始まってしまうのか!

 軍人達が長机に向かい、腰にポーチを着け、銃を肩に背負う。

 マサヒデも遅れて帯を取って、急いで巻き、木刀と脇差を取って腰に差す。


「清聴! タイムリミットはヒトナナマルマル!」


「「「はい! 教官!」」」


「犯人役! ロビーに拘束用の椅子とロープ、機密書類、水と食料、建物の図が置いてある! 好きな場所に脱出役を拘束し、好きな場所に機密書類を置き、好きな場所にトラップを設置しろ! 準備に30分の猶予を与える! 30分しかないぞ!」


「「「はい! 教官!」」」


「脱出役! 行動開始は30分後からだ! それまでは指1本も動かすな! 大人しく拘束されていろ!」


「はい! 教官!」


「救出部隊! タイムリミットまでは、好きなだけ救出計画を考え、好きなだけ偵察を行い、好きなだけアタックしろ! タイムリミットまでに確実に犯人役を殲滅するのだ!」


「「「はい! 教官!」」」


 イザベルが後ろのテントを指差す。

 建物から、おおよそ200間(約360m)くらいか。


「救出部隊はあのテントを作戦室とせよ! この建物の図、食料などを用意してある! 犯人役! 30分後に建物外への攻撃を許可する! ただし、作戦室内でのヒットは無効とする!」


 イザベルがポケットから笛を摘み出し、


「犯人役と脱出役が全員建物に入ったらカウントダウン開始! 30分後に合図を出す! 全員、行動開始!」


「「「はい! 教官!」」」



----------



 玄関に入ってからが慌ただしかった。


 ばたばたと椅子の横に置いてある缶詰と水筒が入った袋をひとつづつ取り、腰に括り着ける。マサヒデも帯に袋を巻く。


 犯人役は、マサヒデ、アルマダの騎士のジョナス、海軍兵1人、陸軍兵3人。


「カオルさんの分はないんですね」


「私は捕縛された者ですし」


「あ、そうか」


 陸軍兵の1人が、ロープの束を取り、椅子に手を乗せる。


「椅子は使うか」


「ううむ・・・」


 軍人達が顎に手を当てる。


「トラップに使うか? トラップセットには何が入っている?」

「設置式爆弾2と、ワイヤーがある」

「が、2セット」

「うむ」

「アザラシ部隊なら、トラップは得意だよな。任せて良いか」

「俺はトラップのスペシャリストだぜ。お陰で分隊じゃ卑怯者呼ばわりされる始末だ。そのくせ解除は俺任せときた。場所の選定に10分くれ」


 海軍兵がトラップセットを受け取る。


「よし。取り敢えず椅子は廊下に持って行こう。使うかどうかは後で決める。トミヤス君、取り敢えず脱出役を廊下に。まだ部屋には入れないように」


「あ、はい」


「2人、2階の全部屋のカーテンを閉めて来てくれ。ドアやカーテンがない部屋、隣の部屋に続くドアなどは覚えておいてくれ。後で図に書く。カーテン代わりになりそうな物があれば、それで窓を塞ぐ。使えそうな物も覚えておいてくれ。終わったらここに」


「そうだな」「行こう」


「ジョナスさん、俺と1階のカーテンを閉める。私は右側、あなたは左側の全部屋を。同じく、カーテンがない部屋、隣部屋と繋がるドアは覚えておいてくれ」


「分かりました」


 ばたばたと軍人とジョナスが走って行く。

 残ったのはマサヒデ、カオル、海軍兵。


「トミヤス君、ついでにそのロープも持って行って右の廊下に居てくれ。では10分後に」


「はい。じゃ、カオルさん、来て下さい」


「はい」



----------



 救出部隊、作戦室テント。


 アルマダが遠眼鏡を下げ、隣の海軍兵に渡す。


「カーテンを閉め始めました。2階、1階、全部屋を閉めるでしょう」


「ふむ・・・」


 海軍兵も遠眼鏡を覗き、小さく左右に動かし、アルマダが2階を指差す。


「定石なら、やはり2階でしょうか? それとも、逃げやすいように1階ですか?」


「ううむ、今回の演習なら2階かな。2階への階段、階段付近にトラップを設置」


「定石通りに動くでしょうか」


「さあて・・・向こうは陸が3人。海が1人。恐らく指揮を執るのは陸の1人だ。陸のお二方、どう思う」


 陸軍兵2人が腕を組む。


「そうだな。連携力を高めるに、陸が指揮を執るだろう。編成は陸3人のスリーマンセル。海、ジョナスさんのツーマンセル。トミヤス君を脱出役につけるか」


「ううむ・・・陸3人のスリーマンセルは同意だが、海とジョナスさんはシングルで動くかもしれん。海は狙撃につくか。ジョナスさんは・・・いや、ジョナスさんを脱出役につけ、トミヤス君を遊撃にするか? その方が攻撃の手は強くなる」


 海軍兵が遠眼鏡を置き、怪訝な顔で、


「むう・・・先日の奇襲訓練の際、トミヤス君は銃弾を避けられると言っていたからな。ハワード君、本当かね?」


「ええ。正確に言えば、ちょっと違います。飛んで来た銃弾なんて、いくら我々でも避けられません。ただ、引き金を引く気配とか、視線、殺気は分かりますから、その瞬間に動けば良いだけです」


「気配・・・」


「要は、槍の突きを避けるのと同じです。鉄砲は真っ直ぐにしか飛ばないし、弾は小さいですからね」


「まあ、そう言われれば、そうかな?」


「お見せしましょうか? 皆さんも鍛えておられますし、コツさえ掴めば、そう難しい事ではないと思いますが」


 平然と『そう難しい事ではない』と言い切った。

 軍人達の肌がぷつぷつ粟立つ。


「・・・そうか・・・」


「ただ、屋内ならば簡単に対処出来ます。左右にばら撒けば良い。1発目は外れますが、何発もほぼ同時に飛んできたら、避けられはしません」


「む、なるほど」


「3人が横に並んでいるのを撃つくらいの感じで撃てば、どれかは当たるでしょう。焦って伏せて避ける、高く跳ぶなどの真似をしたら、良い的です。狙って1発です」


「ハワード君がこちらに居て良かったよ」


「ただし、屋内であれば、です。外に出られると動きますよ。マサヒデさんの動きは、目で追えるものではない。マサヒデさんの視界で外したらアウトです。遠くからの狙撃しか手がない」


「ふうむ・・・厄介だな」


「ですが、マサヒデさんには対策があるから、まだ良いです。それよりも、大きな問題はジョナスさんです。魔術が使える。イザベル様は、魔術は禁止とは言いませんでしたからね」


「む! 確かに・・・言っていなかったな!」


「ジョナスさんの魔術の技術力自体は、初心者に毛が生えた程度ですが、相手は屋内。土の魔術で大量に壁やら穴やらを作られると面倒ですよ。壁やら穴やらは、初心者でも簡単に使える魔術です。隙間にトラップなどを仕掛けられると、更に面倒」


「ううむ、それは面倒だな・・・」


「そうされていたら、リーさんに対処させるしかないですね。壁があれば、下に穴を開けて落とす。穴があれば、土を盛り上げて埋める。向こうが魔術を使っても良い、と気付いていたら、少々面倒ですね」


「穴か・・・そうか。穴か」


 ふふ、と海軍兵が笑った。


「ハワード君、君がこちらに居て助かったよ。プランがひとつ出来た。建物の図は何処だったかな」



----------



 訓練棟B。


 全部屋のカーテンを締め切り、全員がロビーに集まる。

 カオルは手足を縛られて、大人しく奥の部屋で寝ている。


「さて、作戦会議といこう。目標の確認。1700まで全滅せずに、機密書類を隠し通す事だな。実に良い作戦を思い付いたので、皆、聞いてくれ」


 ほい、とマサヒデに『機密書類』と書かれたノートが渡された。


「トミヤス君。君が肌身離さず持っていなさい」


「は? 隠さなくて良いんですか?」


「別に、この建物内に隠せとは言われていないぞ。君が持っていなさい。なくしたら任務失敗なので、気を付けて。さて、アザラシ部隊はどこにトラップを置く予定かな」


 海軍兵が、とんとんとんとん、と、拍子良く指を置く。


「この4箇所が効果的だな」


「ううむ、良い位置だ・・・この時間で流石だ。ところで、トミヤス君は魔術は?」


「全くです」


 ジョナスが手を挙げた。


「私が少々」


 お! と陸軍兵が声を上げ、にっこり笑って頷いた。


「よし。我々の勝ちは決まったぞ」


 し、と陸軍兵が口に指を当て、声をひそめる。


「ジョナスさん、この部屋の窓」


 とんとん、と陸軍兵が1階の部屋の窓に指を置く。


「ここはカーテンがないので、急いで部屋の外に土の壁を作って埋めて来てくれ。部屋の外だぞ。薄いもので構わん」


「え」

「宜しいので?」


 マサヒデとジョナスが驚いて陸軍兵を見ると、ふ、と陸軍兵が鼻で笑い、指を立てて左右に振る。


「魔術禁止などとは言われていないぞ。そして」


 ばん、と建物の図に手を置く。


「この建物内から出るな、とも言われていない。場所の指定がないのだ。我々の任務は、機密書類を1700まで隠し通す事だけだ」


「ははは!」


 兵達がげらげら笑う。


「しー、しー。窓を塞げば、ここで守りを固めていると思うさ。アザラシ部隊、急いでトラップをらしく仕掛けて来てくれ。らしくで良い。済んだらロビーに集合。開始まで20分もないぞ。10分以内に頼む。さっさと裏から出て、あのテントから見えないよう、急いで基地を離れる。トミヤス君、ホテルでランチを奢ってくれるか?」


「待て、装備はどうする?」


「離れたら、穴でも掘って埋めておけば良いさ。門限前に基地に戻って来て、掘り出せば良い。そうそう、サダマキさんはかわいそうだが、首だけ出して、しっかりと穴に埋めて固めよう。ジョナスさん、これも頼む。済んだら脱出だ。仮に脱出出来ても、基地の外に出てしまえば、さすがに探せはしまいよ。さあ、ジョナスさん、アザラシ部隊。10分以内だ」


「分かりました」

「ランチが楽しみだな」


 ジョナスが小走りに部屋を出て行き、続いて海軍兵も出て行く。


 マサヒデがちらっとドアを見る。

 カオルの部屋は反対の奥。ドアも閉まっていたし、流石に聞こえまい。


(カオルさん、すみません)


 心の中で謝りつつも、久しぶりのまともな食事に、心が踊るマサヒデであった。


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