表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/102

第91話


 セント=エントーニョイ陸軍基地、食堂にて・・・


 イザベルが減った体重を取り戻すように、もりもりとマッシュポテトを流し込みながら、カオルと訓練計画を練る。


「単なるエスケープ訓練では足らぬと思うのです。皆、鍛えられております。マサヒデ様やハワード様は、拘束さえ解いてしまえば、例え素手でも、1人で全員なぎ倒す事も出来ましょう」


「はい」


「その後、悠々と機密書類を探し、軽く脱出・・・目に見えるようです」


「ううん・・・実際の状況を考えてみましょう。まず、突入時間は、拘束された者にも知らせない。犯人側にも知らせない。現実なら当然の事です。これで難易度が跳ね上がりましょう。いつ突入してくるか分からないので、脱出側も焦りますね。味方にも見られてはならないのですから。開始から5分後には来るかもしれない。味方からも隠れつつ、機密書類を探さねばならない」


「なるほど」


「編成は陸海の混成。同じ陸軍、海軍で組ませては、息がぴったり合うに決まっておりますが・・・まあ、くじで良いでしょうか。あまりイザベル様が編成に口出しすると、拗ねる者もおるやもしれませぬし」


「選ばれるくらいの者、拗ねるような輩はおりますまいが、くじは良いです! 流石カオル殿です!」


「装備は・・・如何致しましょうか・・・鉄砲はどうなされます?」


「ペイント弾を使用します。絵の具が飛ぶような弾です」


「ううん・・・」


「最初は木製弾頭の模擬弾を考えておりましたが、もろに頭に当たると死ぬ危険性もございますし」


「ううん・・・ナイフなど、刃物は?」


「訓練用の刃を潰した物を。まあ、当たっておらぬなどと言う輩はおりますまい」


「爆弾は」


 イザベルが、ううん! と声を上げ、スプーンをマッシュポテトの山に突き刺して、腕を組む。


「そこなのです! まず突入と言えば爆弾を投げ込み、一気に畳み掛けるもので」


「実際の・・・人質など、味方の救出の際は」


「閃光爆弾を使用致します。光と音で、目と耳を潰す爆弾です」


「ならば、本物を使ってしまいましょう」


「それが、音が凄いのです。鼓膜が破れる事も多々ございまして。室内ですと尚更。後の訓練に響いてしまいますゆえ」


「ううん・・・難しいですね・・・此度は爆弾なしですか」


「されども、それでは実戦訓練にならぬと、頭を抱えております」


「ううん・・・では、使用する爆弾をお持ち下さい。火薬量は、私が調節致しましょう。光は出ても、音はさほど出ぬように細工致します。細工はイザベル様がしたという事で」


 カオルは普段から火薬を山程隠し持っている、火薬のプロなのだ。

 今着ている訓練服の下にも、分からないように隠しているに違いない・・・


「助かります」


「では、一番手を下さいますか。皆の度肝を抜き、兵の皆様に気合を入れましょう」



----------



 翌朝、卯の正刻(6時)。


 一般参加は7人。マサヒデ、アルマダ、カオルの3人と、アルマダの騎士4人。

 陸軍兵5人。

 海軍兵5人。


 総勢17人が訓練棟B南入口にずらりと並ぶ。

 2階建ての石造りの建物で、横にかなり大きく、部屋は左右にいくつも並んでいる。


 ぱしーん!


 イザベルの鞭が、長机を叩く。

 長机の上には、銃と、爆弾と、鍔付きの木刀、木剣。帯は木刀用か。

 棒が入った恐らくはくじの箱。あれで何役をするか決めるのだろう。

 それと、大小のカバンとポーチ。


 何より目を引くのが、『人生負組一直線』と力強い筆で書かれた、大量ののぼり旗。


「本日より、屋内実戦演習を始める!」


「「「はい! 教官!」」」


「まず、人数の編成! 救出役は10名! 1分隊にも足らぬが、参加人数が足らぬ! 何とかせよ! 犯人役! 6名! 何とかせよ! 残りカスの1名! 脱出役! 何とかせよ!」


「「「はい! 教官!」」」


「うむ! では一般参加組! 1人ずつ持ち物を机の上に置け!」


 誰も前に出ない。

 おや? とイザベルがマサヒデ達を見る。


「全員、何も持っておらぬのか? 隠していても後で分かるぞ?」


 誰も引っ掛からなかったのか・・・・

 流石マサヒデ様とご友人!


「おい! クソ虫の色男!」


 言いながら、嬉しくてイザベルの尾が振られている。


「はい、教官」


「本当に何も持っておらぬか? タキシードはどうしたのだ? 女を口説けぬではないか」


 アルマダが一瞬だけ笑い、小さく頷いた。


「何も持っておりません。教官」


「自信があるようだな? 本当に良いのか?」


「どうせ裸に剥かれますので、必要ありません。教官」


 イザベルがにやっと笑った。


「これは驚いた! 流石は名門ハワード家のおぼっちゃまだ! 少しは頭が回るようだな! 何か買ってきおったら、ここで不合格であった! 褒めてやる!」


「ありがとうございます。教官」


「よし! では、編成を決めるか。最初は・・・だ、れ、に、し、よ、う、か、な・・・」


 びし! とイザベルがカオルに鞭を向ける。


「貴様が脱出役だ!」


 おやおや、とマサヒデ達、一般参加組が驚く。

 これは華麗に脱出してしまうだろう。

 いや、それが狙いか?


「右から順にくじを引け! 無印! 救出役! 赤! 犯人役だ!」


 す、す、す、と順にくじを引いていき・・・


「あ」


 イザベルが小さく声を出した。

 マサヒデが犯人役を引いてしまった!

 何!? とカオルとイザベルが目を泳がせる。


(しまった!)(しまった!)


 なんという失態! くじではないか! こんな見落としをしていたとは!?

 マサヒデを捕虜の見張りに付けられたら、逃げられない可能性大。

 そして、間違いなく付けられるだろう。


 カオルの華麗な脱出劇は、これでご破算・・・しかし、引かれた物は仕方がない。

 アルマダも一緒に犯人役でなかった事を喜ぶしかない。


「ん、うむっ! よし! 全員引いたな! では、装備の説明に入る!」


 イザベルが咳払いして、長鉄砲を取る。


「軍人組の装備の説明だ。米衆連合軍制式採用の物だ。銃は実銃を用意した。

 まず、16式自動長銃1型。最新式は羨ましいな。試射を願ってみるか」


 続いて、拳銃とナイフ。


「同じく制式採用の四分型拳銃。支給されるナイフ。新兵時代が懐かしかろう。刃は丸めてある」


 そして、手投げ弾をみっつ。


「ペイント手榴弾と、閃光爆弾、煙幕爆弾。

 この閃光爆弾だが、今回は特別製を用意した。

 光は出るが、音はかなり抑えてある。

 屋内戦で派手に音が出ると、間違いなく鼓膜が破れるからな。

 後の訓練に支障が出ないよう、夜なべして作ってやった。感謝しろ」


 ぴきん! イザベルがピンを抜いて、ひょいと後ろに放り投げる。

 数秒後、ぱん! と乾いた音が響き、物凄い光。


「わ!?」「うお!?」


 マサヒデ達が光に驚いて声を上げる。


「この通り、音は大した事はないので、安心して使え。

 顔の真横で爆発せねば、耳がやられる事はない。

 ペイント手榴弾も同じく音は小さい。ペンキをぶち撒けるには十分だ。


 今回、弾薬は、木製模擬弾頭ではなく、ペイント弾を使用する。

 予備弾倉、16式が4。四分型が2。派手にぶちまけろ。


 尚、ペイント弾は直撃でなければ当たりとみなさない。

 飛沫が飛んで、色がついたから当たった、はなしだ。

 本来は机や椅子程度は軽くぶち抜くが、しっかり当てろ。

 実弾なら貫通して命中です、は認めない。

 当たったら、装備を捨て、その場で伏せていろ。


 防弾装備はなしとする。

 防弾していても、16式や四分型の弾を喰らえば、骨折しながら吹っ飛ぶ。

 死なないだけで、まともな戦闘はまず不能だからな」


 小さなポーチ。


「救急医療セット。何故これが必要になるかは、すぐ話す。爆発物があるからではないぞ」


 大きなポーチ。


「これはトラップツール一式。と言っても、簡単なものだ。ワイヤーと設置式の爆弾。この爆弾も、音は抑えてある。勿論、引っ掛かった者はそこで脱落。これは犯人役の方に2セット。上手く使え。味方が仕掛けたトラップに掛かるマヌケは居まいな?」


 木刀と、短い木刀、木剣。


「クソ虫師弟のトミヤスとサダマキはこれを使え。インテリ坊やの麗しきハワード様々方は木剣を使用だ・・・さて! 軍人共、ここで注意しておく!」


 つかつかとイザベルが軍人組の前に歩いて来て、マサヒデ達に鞭を向けた。


「クソ虫トミヤスの300人組手を見ていた者は知っているだろう。

 あのクソ虫は、木刀で鬼族を10間(18m)も吹き飛ばす。

 当然、トミヤス道場で双璧と呼ばれる、麗しきクソ虫様もだ。

 ちなみに、クソ虫トミヤスが10間も吹き飛ばした鬼族。

 あれは熊族の横綱、雷山と正面から殴り合って勝った、あの青い鬼族の女だ。


 何故、木刀であんなにクソ重い物体を吹き飛ばせるのか、さっぱり分からん。

 分からんが、事実は事実だ。理由は考えるな。受け止めろ。

 取り敢えず魔術でも薬物でもなく、技術だ、という事しか分かっておらぬ」


「・・・」


「たかが木の棒で信じられん、と、思いたくなる気持ちはよく分かる。

 我がそうであったからな。だが事実だ。

 確かめてみよう、などと、下手に飛び掛かったりするな。死ぬぞ。


 決して近寄らせるな。

 武器を落とせば、などと甘い考えも厳禁。


 グレート・マッカラナをぶっ飛ばした試合を見ていた者はいるか?

 素手で。真正面からぶつかって。かすり傷ひとつもなく。

 あのグレート・マッカラナにKOで勝ったのだぞ。

 紛うことなき人族であるのにだ。


 お優しく手加減はしてくれるだろうが、戦闘中では事故もありうる。

 もし頭にこの木の棒が当たったら、脳ミソが壁にぶちまけられる。

 救急医療セットが必要な理由が分かったな。

 まあ、使う間もないと思うが。


 もう一度、簡潔に言うぞ。


 あいつらにあの木の棒でほっぺを撫でられたら、間違いなく死ぬ。

 あいつらに素手でほっぺを撫でられたら、間違いなく死ぬ。

 だから、決して近寄るな。聞こえたか」


「「「はい! 教官!」」」


「あの目立たんクソ虫4人組と、今回の脱出役のクソ虫のメスもだ。

 あいつらも、王宮近衛騎士に即採用レベルの腕がある。

 その上、小賢しく魔術を使う者までいる。


 言うまでもないが、間合いに入られたら終わりだ。

 引き金を引く前に、頭に木の棒がめり込んで死ぬ。


 厄介な事に、クソ虫トミヤスや、麗しきハワード様程には腕がない。

 中途半端に腕が立つのだ! これ程に忌々しい事があるか!

 つまり! 手加減が上手く出来ん可能性が高い! 事故発生率が非常に高い!

 そして! 事故が起こったら、怪我では済まん事故になる可能性が高い!


 言いたい事は分かるか? 分かるな? 分かった者は返事をしろ」


「「「はい! 教官!」」」


「よし。我はしっかり注意したぞ。全員に注意をしたぞ。

 気合を入れようと、大袈裟に言っているのではないぞ。

 面倒な事に、全て事実だからな。下手な立ち回りをして死ぬなよ。

 さて。我はエイデン大佐とクレンナ中尉に叱られたくはないので・・・」


 ばさ、とイザベルが懐から紙の束を出し、長机の上に置いた。


「軍人共。この書類にサインしろ。

 今回の訓練で、この一般人共に事故を起こされても文句なし、というものだ。

 貴様らにプロの誇りがあるなら、この書類の出番をなくしてみせろ。


 尚、サインせずにこの屋内実戦演習への参加は許さん。

 屋内実戦演習の期間中、存分に英気を養え。

 安い商売女と甘い夜を過ごして、性病をもらってきても一向に構わん。

 だが、その性病を同僚のケツにうつして、我のせいだとは言うなよ」


 イザベルがマサヒデ達に顎をしゃくる。


「この一般人共は、我らは武人なり、サムライは死ぬことと見つけたりなどと言っておるから、こいつらに対してお前達が『事故』を起こしても、一切気にするな。


 レイシクラン家やハワード家がしゃしゃり出てくる心配もない。

 両家には既に諒解は得てある。一切の文句も出ない。

 言うまでもないが、我がファッテンベルク家もだ。

 では、サインする者はこの書類の前に立ち、ペンを取れ」


 実際はそんな連絡などしていないが、兵達も大貴族には安心して引き金を引けまいとの心遣いである。

 軍人達全員が書類の前に立ち、ペンを取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ