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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第89話


 そして次の日。


「喜べクソ虫共! 今日の訓練を終えたら、褒美に睡眠をくれてやる! さらに大サービスだ! 明日は休日を与える!」


(やった! 1日中寝ていられる!)


 マサヒデは思わず拳を握ってしまった。


「ただし! 明日の間に町に出て、服を買ってこい! エイデン大佐の驕りだぞ! 喜べ! 最高級のタキシードを買っても許されるとの事だ! 領収書はポール=エイデン大佐宛で済む! 必要がなければ、その汚い訓練服でも良い!」


 服? 何故、服が要るのだ?


「来週からの屋内実戦演習では、ベタな人質救出などやるつもりはない! 貴様らは潜入工作員となる! 捕縛された状態から脱出し、機密情報を奪取した上で、味方の突入より前に脱出する! ちょっぴり辛めのエスケープだ!」


 味方の突入より前に?


「最高の特殊部隊員と、最高の武術家である貴様らなら、鼻歌を歌いながらでも出来るはずだ! 赤ちゃんコースの貴様らには更にサービスだ! 小道具も買ってきて良いぞ! ただし! 市販の物に限る! つまり、一般市民が持っていても全く怪しまれない物だ! 何処かに隠しておいても良い! 本来なら何も持たせんが、赤ちゃんコースだからな!」


 これは難しい。

 捕縛される前ならともかく、捕縛された状態からか・・・

 軍とはこういう稽古もするのだ。


(いや、これは勉強になるぞ。凄い稽古だ!)


「無距離戦闘術には、このような脱出にも考えられた技術が多々ある! 貴様らがどれだけ出来るか見せてみろ! 我を満足させたら、我の持つ無距離戦闘術の技術を、手取り足取り、全て伝授してやる! 全て! 全てだ! 1ヶ月などとケチな事は言わん! 全てを伝授するまで、何年でもプライベートレッスンを組んでやる! 2階級どころか3階級、4階級特進も夢ではない! エリート街道まっしぐら! 基地のど真ん中に銅像が立ち、米衆連合軍の伝説の男と呼ばれる事になる! 皆がお前らの銅像の足にキスをしていく! 元首から直々に勲章をもらえるぞ!」


 これだけ言うという事は、それだけ難しいという事だ。

 生半ではこなすことは出来まい。

 俄然、楽しみになってきた。

 軍人達も、目に見えて眠気がぶっ飛んだ顔をしている。


「質問はあるか!」


 はい、とマサヒデが手を挙げた。


「言ってみろクソ虫!」


「何故、味方の突入前なのでしょう。味方と一緒に敵を始末した方が良いのでは」


「呆れるほどマヌケな質問だが、貴様は一般人だから許してやる! 軍では味方にもその存在を知られてはならぬ者がいる!」


 イザベルが軍人達の方を向き、


「貴様らなら分かるな!」


「「「はい! 教官!」」」


「そういう事だ! 突入されて顔を見られたら、脱出が出来ても、貴様も味方部隊も始末される運命だ! 仲間を殺したくなければ、味方の突入前に脱出するしかないのだ! 当然! 突入組は顔を見た敵部隊の全員を排除が必須だ! 他に質問は!」


「脱出前に突入されても、顔を見られなければ良いのですか?」


「構わん! ただし! 合格はやるが、そんなナメクジ野郎は赤点ぎりぎり! 僻地の事務仕事で銃の代わりにペンを握り、雲を数えて退役を迎えるレベルだ! そんなクソ虫に、我のプライベートレッスンを受ける資格も権利もない! 他に質問は!」


「・・・」


「ないようだな! 二列縦隊を組め!」


「「「はい! 教官!」」」


「軽く身体を温めるぞ! 基地を一周ランニング!」


 マサヒデ達が走り出すと、イザベルも並走して、また下品で物騒な歌が始まる。


「父ちゃん母ちゃん朝寝坊!」

「「「父ちゃん母ちゃん朝寝坊!」」」


「ベッドのシーツに染みがある!」

「「「ベッドのシーツに染みがある!」」」


「そこから生まれた俺達が!」

「「「そこから生まれた俺達が!」」」


「世界最強の歩兵隊!」

「「「世界最強の歩兵隊!」」」


「1! 2! 3! 4! 魔王軍! 歩兵隊!」

「「「1! 2! 3! 4! 魔王軍! 歩兵隊!」」」


「1! 2! 3! 4! 魔王軍! 歩兵隊!」

「「「1! 2! 3! 4! 魔王軍! 歩兵隊!」」」


「泣きやがれ!」

「「「泣きやがれ!」」」


「叫びやがれ!」

「「「叫びやがれ!」」」


「喚きやがれ!」

「「「喚きやがれ!」」」


「イイ声だ!」

「「「イイ声だ!」」」


「俺達見たのが運の尽き!」

「「「俺達見たのが運の尽き!」」」


「生まれた後悔させてやれ!」

「「「生まれた後悔させてやれ!」」」


「1! 2! 3! 4! 魔王軍! 歩兵隊!」

「「「1! 2! 3! 4! 魔王軍! 歩兵隊!」」」


「1! 2! 3! 4! 魔王軍! 歩兵隊!」

「「「1! 2! 3! 4! 魔王軍! 歩兵隊!」」」


「まずは目だ!」

「「「まずは目だ!」」」


「次は耳!」

「「「次は耳!」」」


「鼻も削げ!」

「「「鼻も削げ!」」」


「ついでに(※検閲削除)だ!」

「「「ついでに(※検閲削除)だ!」」


 すれ違う基地の軍人や、物資を運んで来たのであろう、荷馬や馬車を引いて行く市民達が、何だありゃ? という顔でマサヒデ達のランニングを見送る。



----------



 そして訓練終了後。


 マサヒデもアルマダも一言も喋らず、ふらふらと宿舎に戻った後は、ベッドに倒れ込んだ。毎日気を失うまで呑まされた上、3日ぶりの睡眠である。


 しばらくして、カオルが熟睡した2人の部屋に音もなく入ってきた。


 2人の刀と剣の柄に、薬を包んだ紙包みを静かに結ぶ。

 気付かずに、隙だらけで寝ている2人の寝顔を見て微笑み、そっと出て行った。



----------



 翌日。


 口を半開きにしたまま、マサヒデが目を覚ました。

 外から聞こえるのは、訓練の声だろうか。


(何時だ)


 よだれを拭き、もそもそと起き上がり、窓の外を見る。とっくに日は高い。


「・・・」


 ほぼ、丸々1日眠っていたのか? 眠っていたのだ。

 その事実が分かっても、ぼーっと日を眺めている。

 これは夢ではないだろうか。


 2段ベッドの上では、アルマダが腕を垂らして寝ている。

 シャワーを浴びて、もうひと眠りしようか・・・


「あ」


 そうだった。服を買ってこなければ。


「アルマダさん」


「・・・」


 ベッドに寄って、アルマダの腕を取って引っ張る。


「アルマダさん。起きて下さい」


「何です・・・」


「買い物ですよ。早く起きて下さい」


「ええ・・・?」


 ぱちん! とアルマダの肩をはたくと、アルマダが細く目を開け、煩いなあ、という顔を向けた。


「服を買いに行かないと。脱出の訓練」


「あっ」


 がば、とアルマダが起き上がり、するりとベッドから下りた。


「しまった。今何時です?」


「もう午の刻(12時)くらいじゃないですか。日が高いですよ」


「なんてことだ。もうそんな時間ですか」


「急いで町に行きましょう。早くしないと、門限に間に合わない」


「・・・」


 アルマダが自分の服を見る。

 泥だらけ。酒の臭い。

 顔に手を当てれば、乾いて白くなった泥がぱらぱらと落ちる。


「シャワーだけ浴びていきましょう」


「賛成です」


 アルマダがシャワー室に入り、マサヒデは着替えの着流しを引っ張り出して、ベッドの上に放り投げ、雲切丸を取った。


(あっ)


 紙が結んである。カオルか?

 『ふつか』と書いてある。二日酔いの薬だ。


(助かった!)


 と、思ったと同時に、急に頭痛と胸焼けを覚えた。


「う」


 小さく声を上げ、慌てて紙を解き、水差しを取った。



----------



 マサヒデとアルマダが町に出ると、思わず足を止め、行き交う人々を見つめてしまった。


「なんか・・・凄く久しぶりな感じしますね」


「ええ・・・現世って感じがしますよ」


 たった3日であったが、地獄の3日であった。

 明日から、また地獄が始まる。


「いけない。早く服屋を探さないと」


「探してたら間に合いませんよ。誰か捕まえて聞きましょう」


 すたすたと歩いて行き、通行人を止める。


「すみません。ちょっと道をお尋ねしたいのですが」


 ん? と通行人が振り向いて、うお!? と驚き、マサヒデを指差す。


「ああっ!? あんたトミヤス!? ハワードも!?」


 何だ!? と通行人が足を止め、あっと声を上げて集まってくる。


「そうですが、物凄く急いでるんです。今すぐ行かないといけない所があって」


「なんか事件!?」


「違いますが、すぐ。急いで。服屋は何処にありますか」


「服屋? どんな?」


「・・・」

「・・・」


 マサヒデもアルマダも顔を見合わせてしまった。

 どんな服が良いのだろう?

 値段は構わないと言っていたが・・・


「どんなでしょう?」


「いや、そこ俺に聞かれても」


 マサヒデは少し考えて、いつも通りの服でいいか、と思った。

 わざわざ目立つ格好で潜入する事はあるまい。

 マサヒデは自分の服を指差して、


「じゃあ、こういう着流し売ってる所は?」


「キナガシ? 商店街にいくらでもあるよ」


「その商店街は?」


「真っ直ぐ行くと、右手にアーケードがあるから。その中にいっぱい店が並んでるよ。服屋もたくさん」


「ありがとうございます」


 頭を下げて、集まって来た人をかき分け、マサヒデとアルマダは商店街に向かった。


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