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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第73話


 選手入場口。


 セコンドにマサヒデがつく事になり、イザベルと係員の3人で、暗い入場口で、腕を組んで立っている。



----------



「せこんどって何ですか?」


 マサヒデが手を挙げて質問すると、係員が頷いて、


「試合中、選手に助言をしたり、活を入れたり。勿論、舞台に入るのは禁止で、あくまで声をかけるだけ。この闘技場で一番大事な仕事は、ここまで、と思った時に、タオルを投げ込む事です。死ぬ前に。完全に極まっていても、我慢して降参しない方もおられますので」


「ああ。じゃ、私がやりましょう」


「マサヒデ様!」


 イザベルが嬉しそうに尾を振った・・・



----------



 と、いうわけで、マサヒデが一緒に来たのである。


「ファッテンベルク様、魔王軍の軍歌が流れます」


「は?」


「軍歌が流れましたら、中にお入り下さい」


「ええ?」


 イザベルもマサヒデも、素っ頓狂な顔をしている。

 軍歌が流れる?

 あ! とマサヒデが思い出して、ぽん! とマサヒデが手を叩いた。


「ほら、イザベルさん、ほら! 獅子王とヤマグチの試合の時! 何か音楽流れてましたよね!」


「あ! 確かに!」


 その通り、と係員が頷いた。


「それに乗って、入場を願います。中央に舞台が。そこに審判がおりまして、その前に立って頂ければ」


「うむ。分かった。魔王軍の軍歌は久しぶりに聞くな」


 マサヒデが懐からタオルを出す。


「危ないと思ったら、これ投げるんですね」


「はい。あ、別に相手が危ないからと投げてはなりませんよ。ファッテンベルク様が危ない、という時にだけ。所謂、白旗というやつですので」


「あ、そうでしたか! いや、危なかったな」


「審判は、あくまで武器を持っていないとか、そういう反則の所を見ているだけと思って下さい。明らかに戦闘不能とか、気を失っているとかは止めますが、ギブアップせずにじたばたしておられると、止めませんので」


 マサヒデが頷いて、イザベルに顔を向ける。


「ん、分かりました。じゃ、イザベルさん。注意です」


「は!」


「当たり前ですが、死なないで下さい。あと、殺さないで下さい。以上です」


「は!」


「それと、厳しく見てますからね。下手な所があったら、明日は飯抜きです」


「は!」


 これだけ? と係員が胡乱な目をしていると、ぱん! と暗い闘技場の真ん中に明かりが向けられ、男が照らされた。


 この光景は知っている。

 マスダと戦った時、こうだった。

 これから、客を盛り上げるのだろう。


「ご来ー場ーの! 皆様あー!」


 ざわついていた闘技場が、しんと静まった。


「これより! 本日のスペシャルイベントー! トミヤス流! 対! セントッ! エントーニョイ、闘技場ッ! 選抜ッ! 対決ー! 開始ー致しまーす!」


 は? とマサヒデが係員に顔を向ける。


「あの、私ら、この闘技場と戦うんですか?」


「客を盛り上げているだけですので」


 間を置いて、審判がこちらを指差した。同時に、ぱ! と光が当たる。


「むう、眩しいですねえ」

「う、目が」


「エッセン=ファッテンベルク! この名を知っているか! 魔の国の! 軍人貴族の! トップ! そおれがエッセン=ファッテンベルクだあーッ! そしてッ! 軍人純粋培養のこの女! イザベル=エッセン=ファッテンベルクーッ! 入ー場!」


 ぱーぱぱぱぱー!

 たーたらたたた、たーたらたたた、たーん!


「へーえ。これが魔王軍の軍歌かあ」


「は! マサヒデ様! 参りましょう!」


「はい」


 壮大な音楽が流れる中、イザベルが花道に踏み出すと、うわあー! と声が上がった。


(あらら)


 かん、かん、とイザベルがブーツを鳴らして進む。

 ぴしりと背筋を伸ばし、しゃっちょこばっている。

 これが軍というものか。


 ロープが張られた舞台の前で、イザベルがぴしりと敬礼。

 パフォーマンスに映ったのか、客達の声が大きくなる。

 審判が手で「どうぞ」と招くと、イザベルがびしっと頭を下げ、ロープを潜って中に入り、審判の前でびしりと気を付け。


 マサヒデは舞台に入らず、腕を組んで横で見ていたが、さっきのブーツ。

 イザベルのブーツは分厚い鉄板入りではないか。


「イザベルさん」


「は!」


「あなた、ブーツ脱ぎなさい。それ、武器ですから」


「あっ・・・ああ!」


 イザベルが審判に頭を下げ、慌ててしゃがみ込んで、ブーツを脱ぐ。

 マサヒデは審判に顔を向けて、ごめん、と手刀を挙げ、


「すみませんでした。普段から履いている物で、うっかりしておりまして」


「お確かめを!」


 審判がイザベルからブーツを受け取り、う! と驚く。

 鉄板入だから、ずっしり重い。


「ファッテンベルク様、裸足になりますが、宜しいでしょうか。滑るかもしれませんが」


「構いませぬ」


 審判が頷き、マサヒデの所にブーツを持って来た。

 マサヒデが頷いて、ブーツを受け取り、足元に置く。

 審判が中央に戻って、咳払いして、すう、と息を吸い込むと、軍歌が止んだ。


「ファッテンベルクに対するはッ! 我らが米衆連合陸軍! 選り抜きのレンジャー部隊の選手だーッ!」


「「「わああー!」」」


「ジニーーー! マッカランッ! 入ー場ー!」


 たーたたーたーたーたー。

 たーたたーたーたーたー。

 たーたーたらーたー・・・


(おお、軍歌ってどこもこんな感じか)


 やはり壮大というか。

 花道を歩いてくるのは、6尺は軽く越えよう、筋肉むきむきの男。

 着ているシャツが張り裂けそうだ。

 全然無駄な脂肪がないが・・・


(やけに筋肉をつけているな)


 が、武術家視点。軍人視点では、そういう訳でもないか。

 力仕事も多いであろうし・・・


 これはイザベルとは対照的に、わいわい手を挙げ、にこにこしながら歩いて来る。

 米衆の者は祭好きと聞いたが、軍人もそうか。


 派手にロープを飛び越え、イザベルの前に立って、ぴしっと敬礼。

 はしゃいでいたマッカランが、イザベルを前に、急に固くなった。

 イザベルも女にしては少し背が高いくらいで、マサヒデより低い。

 このマッカランという男と比べたら、随分低いから、見上げている。


「米衆連合陸軍! 第175連隊所属! ジニー=マッカラン軍曹であります!」


 む、とイザベルが頷き、敬礼を返した。


「元魔王軍歩兵隊所属! イザベル=エッセン=ファッテンベルクである! 元の階級は少尉! マサヒデ=トミヤス様家臣として働いておる!」


「お手合わせが出きて光栄であります! 宜しくお願い致します!」


「うむ! 宜しく頼む!」


 敬礼を返す2人に、会場が沸く。


「イザベルさーん! 頑張ってー!」


 その声の中に、クレールの高い声が混じっているのが、イザベルには聞こえた。


「それではーッ! 両者! 構え!」


 す、とイザベルが深く前屈みに。

 マッカランも、浅く前屈み構えた。


「はじめえーッ!」


 かあん! と高く鐘の音が鳴った。

 同時に、2人がすすっと前に出る。


(おっとこれは中々)


 ちょっとマサヒデは驚いた。

 流石にイザベルの相手に選ばれるだけはある。

 若いが、相当やると見える。


 ふらり、とイザベルの手が揺れ始めた。

 しばらく見ていて、マサヒデの肩が落ちた。


(あ、ここまでだな)


 マッカランの目が、イザベルの腕の動きに取られている。

 技術は磨き上げているのだろうが、場馴れしていないと見た。


 マッカランの手が出た瞬間、肘で下から突き上げるようにイザベルの手も伸びた。


「かっ」


 喉元にイザベルの親指。

 そのまま首を引っ掴み、ごすん! 空いた逆の手の手刀が耳の下に入った。

 さっとイザベルがマッカランの脇に手を入れ、ゆっくりと下ろす。


「・・・」


 マッカランは言葉を発する事なく、正座するように膝を付いた。

 イザベルはマッカランの胸に手を当てて、そっと倒す。

 既に喪失していた。


 ゆっくりとマッカランを横たえ、審判に顔を向けると、審判が腕を大きく振った。

 かんかんかんかん! と鐘の音が鳴る。


「勝者ー! イザベル=エッセン=ファッテンーベルクーッ!」


「開始14秒。これは凄いですよ」

「いや、信じられません。まさかこれほどとは」

「トミヤス様一行の中では、治癒師の方を除けば、一番弱いと仰られていたと」

「ファッテンベルク様は狼族ですが、一番弱いと?」

「これでですか! いや信じられません。ご家臣という事ですし、ご謙遜では」

「それは次の試合で分かるでしょう」

「第2戦は、トミヤス様の内弟子のお方ですね・・・」


 大きな放映画面に映る解説の声を背に、マサヒデとイザベルは会場を出て行った。


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