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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第7話


 ひとしきり話が終わると、スティアンが懐から封筒を出し、マサヒデに差し出した。


「これは?」


「検問をフリーで通れる許可証。今日から1年有効よ。要らないと思うけど」


「ありがとうございます」


「街道を逸れて入れば検問なんか無いから、そこに関しては無用の長物。でも、あなた達、武器持ってるから持って行きなさい。武器の携帯許可にもなるから、捕まったら見せるのよ」


「あ、それは助かります」


 受け取って懐に入れると、スティアンが立ち上がった。


「楽しかったわ。じゃあ、旅の無事を祈ってあげる。どうかご無事でいられますように。はい、お祈り終了。頑張ってね」


「はあ」


「帰りには必ず寄ってちょうだい。盛大なパーティーを開いてあげるから」


 これで終わりか? マサヒデが呆けた顔をしていると、スティアンが肩に手を置き、


「足止めするつもりはないの。全員起きてきたら、さっさと出て行きなさい。ここに居たら、マツ様を悲しませる事になるわ。勇者祭はデッドオアアライブ(生死不問)なんだから、大きな町はさっさと抜けるのよ」


 元々そのつもりであったが、このスティアンに必ず足止めされると考えていた。それが逆に出て行けと言われるとは。

 マサヒデは顔を引き締め、スティアンの手を取って頭を下げ、


「お気遣い、感謝致します」


 くす、とスティアンが笑う。


「さり気なく女の心を掴もうとするのね」


 スティアンがすっと手を引き、イザベルの前に立つと、イザベルが立ち上がって、ぴしりと気を付けの姿勢を取る。


「また来てくれるわね」


「は! 必ず!」


「やっぱり、エリザベータに似てる。血なのかしら」


 す、とイザベルを抱き、すぐに手を離し、マサヒデを見た。


「逃げるのよ」


(逃げる?)


 はて? とマサヒデがスティアンを見上げた。


「この国は、連合国。小さな国の集まり。小さな天下の集まり」


「小さな天下・・・ううむ、なるほど」


「あなた達には見るに値しない、小さな天下よ」


「そうでしょうか」


「そうよ。でも、抜けてしまえば、大きな天下が待っている」


「魔の国」


 スティアンが頷き、両手を上に挙げた。


「あなた達には、大きな天下を見て欲しいわ! 逃げるように駆け抜けて行った! 尻尾を巻いて一目散に逃げた! 世間はそう言うかもね! でも違う! 見るに値しない天下など興味もない! この米衆連合は、ただ小石が並んでいるだけなの!」


「この米衆連合国が、小石ですか」


「そうよ! 大した武人もいない、無駄に広いだけの国よ! 何でもかんでも数と大きさ! 軍も数! 領地も数! 広いだけ! 自分が住んでる国ながら、情けないわ! 質が全然追いついてないのよ! でも、まだ追いついてないってだけよ!」


 ふん! スティアンが鼻を鳴らした後、小さく笑って頷き、もう一度、イザベルの方を向いた。そっと頬に手を置き、淋しげに笑う。


「じゃあね、イザベル」


 寂しそうに笑って振り返ったスティアンの目に、うっすら涙が見えた気がした。



----------



 スティアンが帰ってすぐ、階段からトモヤを先頭に、シズク、ラディとアルマダの騎士達が下りて来た。

 トモヤがマサヒデの近くに歩いて来て、


「マサヒデ。帰ったのか」


「ああ」


 トモヤがうんざりした顔をして、


「今夜はパーティーかの」


「いや。すぐ出る。パーティーはない」


「お誘いではなかったのか?」


「ああ。早いが、飯を済ませたらすぐ出よう。俺達は今食べた」


 アルマダが立ち上がる。


「カオルさん、地図の用意は大丈夫ですね」


「は」


「食べ物は」


「1週間分」


「結構。皆さん、すぐ食べて来て下さい。次の町までありますから、何日か野営ですよ。弁当も頼んで下さい。ついでに瓶詰めも買って行きましょう」


 ぱん! とアルマダが手を叩くと、皆がレストランに入っていく。

 マサヒデが後ろを向き、大きな窓から空を見て、溜め息をつく。


「やれやれ。出発だというのに、どんよりしてますね」



----------



 食事を済ませ、皆が荷物を持って馬車の周りに集まる。


「カオルさん、馬車見て下さい」


「は」


 ささ! とカオルが馬車の下に入り、中に入って椅子を開けたり、積荷をかき分けたり。さっと飛び降り御者台も調べ、


「大丈夫です」


「よし。トモヤ、乗れ」


「おうよ!」


 ぱしぱしと馬車を引く馬、黒影の首を叩き、トモヤが御者台に乗る。


「良いぞ! 皆様、お乗り下され!」


「よーし!」

「楽しみですね!」

「はい」


 ぞろぞろとクレール、シズク、ラディが乗る。

 マサヒデやアルマダ達も馬に乗り、マサヒデがトモヤの横につけて、


「町中では飛ばせんが、出来る限り急いで抜けるぞ。天気も良くないが、降り出してもそのまま抜ける。お前の雨具は」


 よ、とトモヤが腰を上げ、御者台を叩き、


「ここに入っておる」


「よし、では行くぞ」


 ぽくぽくと愛馬の黒嵐を進めて行くと、ぱしん! と鞭の音がして、がらがらと馬車が走り出した。

 アルマダがマサヒデの隣に並び、後ろにカオル、イザベル、馬車の後ろにアルマダの騎士4人がついて来る。

 マサヒデが溜め息をつき、くいっと菅笠を下げて、


「勇者祭でなければ、もう少し町を周りたかったところですがね」


「ええ。しかし、マサヒデさん。先程、様子が少し変でしたよ」


「先程?」


「スティアン伯爵とお話ししていた時」


「ああ・・・」


 スティアンが翼を広げた時の事だ。


「アルマダさんが来る少し前、勇者祭の方々が来たんです」


「ほう? それで?」


「クレールさんのお陰で、さっさと済んだんですけど、降参した方がちょっと態度が悪かったんですよ。で、一緒に居たスティアン伯爵が、ふわっと翼を広げたんです」


「ほう。翼を広げた。で?」


「その瞬間、怖ろしい気配というか・・・これは死ぬと感じましたね。あれはまずい。殺気も何も無かったんですが、蛇に睨まれた蛙とはあの事です。もう生き物として遥かに上なんだなって、はっきり分かりましたね。文字通り気圧されました」


「そこまでですか」


 マサヒデが首を振る。


「絶対に勝てません。まだ素っ裸で熊と相撲をとる方が楽です。私達全員でかかっても無理です。それから、アルマダさんが来るまで少し話してましたけど、私は心を鎮めるのに手一杯でした」


「ふむ・・・」


 アルマダが首を傾げると、カオルが後ろから、


「次の大通りを右です!」


「む、はーい!」


 石畳を走る馬車の音が響く。

 通りには、昨晩見た常夜燈が並んでいる。この町は夜も明るいことだろう・・・

 ちらりと左に見える海を見て、大通りに入る。

 ここから先は、ずっと陸路。

 町を出れば、だだっ広い平野が続くのだ。


「広い道ですね・・・」


 前に馬車が2台並んで走って、まだ道幅に余裕がある。

 道の真ん中には低木の植木が仕切りのように植えてあり、反対側も同じ広さだ。


「ううむ、分かってはいましたが、先が見えませんね。ずっと建物が続いている。抜けるのは夜になりそうですが、暗くなってもしばらくは走りましょう。町から離れた所で野営した方が良い」


「そうしましょう、か・・・」


 マサヒデが周りの建物を見渡し、顔をしかめる。


「ああ、くそ。ここを走ってたら狙われ放題だ。落ち着きませんよ」


 アルマダも緊張した顔で頷く。道は広く、左右は高い建物が並んでいる。上から狙い放題だ。


「ええ・・・飛ばして行きたいですが、町中ですからね・・・話を戻しますが、マサヒデさん」


「なんです?」


「魔王様の城には、龍人族の方々が多く勤めておられるのでは?」


「・・・」


 そうだった。皆が皆、あのスティアン伯爵のような強さなのか?

 そもそも、スティアン伯爵は、龍人族の中では強いのか、弱いのか?


「しまった・・・そうだった・・・」


 アルマダが首を傾げ、


「マサヒデさん。確かに圧倒的ではあるでしょうが、気圧されただけでは?」


「そうでしょうか」


「あなた、カゲミツ様にマツ様にと相手をしてきたんですよ。あの2人よりも上だと感じましたか?」


「む・・・ううむ、どうでしょう・・・」


 ふ、とアルマダが鼻で笑い、


「ただ、蛇に睨まれてしまっただけです。腰が引けてしまっただけですよ。見た感じ、武術の心得もない。私達なら、斬れば斬れます。当たればの話ですが」


「ふむ・・・斬れますかね。怖ろしく頑丈と聞きますが」


「ははは! シズクさんが斬れるなら、大体は斬れますよ! 骨までは無理でも、血を流す事は出来るんです。首に少し斬り込む事が出来れば勝てます」


「むう、確かに・・・」


「しかし、どうしても駄目な時は」


 アルマダが言葉を切り、ちらりと馬車を見る。


「あれを使うしかないですね。クレール様が持っている」


 魔剣。

 世に出ていなかった、誰も知らない魔剣。

 まだ魔剣登録の申請を出していないので、正式には魔剣と認められていない。


 怖ろしい魔力を秘め、どんな姿形にもなる。

 それが他の魔剣や称号武器であれば、その力さえも再現してしまう。

 その刃も怖ろしく、上から枝を落としたら磨き上げたような斬り口で落ちた。

 だが、怖ろしい程の集中力が必要で、今は魔力の補充用に使っているだけの魔剣。


「私に使えるでしょうかね」


「別に、他の特別な剣や刀にしなくても良いのです。あれは怖ろしい斬れ味になる。龍人族であろうと、容易く斬れるでしょう。一振り振るだけの集中力があれば、使える」


「戦いながら、その集中が出来るかどうか」


「一振りだけなら・・・今の私達なら、出来ると思います。カオルさんも出来るでしょう。イザベル様はどうでしょうか・・・」


「一振りだけですか・・・ですけど、それでは、追い詰められたりとか、誰かの危機とかで、いざ、と使えるものではないですね。そんな時にそんな集中力が出せるとも思えない。むしろ、戦っている最中の、ぐっと静かに気が上っている感じの時」


「ええ。そして、町を出れば、これからはだだっ広い平野が続く」


「稽古は出来ますか・・・」


「試すだけ、試してみましょう。マサヒデさんの奥の手が無願想流だけでは、心許ないと思います。魔族には長く生きている方も多いんですよ」


 は! とマサヒデがアルマダの顔を見る。

 無願想流はとっくに失伝しているが、それも4、500年前。

 長命な魔族であれば、本人は見ていなくても、父が、祖父が・・・


 あり得る。


 人の国の戦乱期が収まり、魔の国との戦争の前の間の、平和な時代。

 まだ偏見は強く残ってはいたが、魔族が全くいなかったわけではない。

 魔族にだって武術家はいる。日輪国は武術が盛んだから、来ていてもおかしくない。


 カゲミツも若い頃に武者修行の旅の途中、伝書を見つけたと言っていた。それは直系の子孫の物ではあったが、伝書は残っていたのだ。

 無願想流宗家のサマノスケの道場には、1000を超える門弟がいた。他に書き残していた者がいても、全くおかしくない。


「知っている者はいると・・・見た方が良いですかね」


「当然です。これは知るまい、なんてかからない方が良い。試合が放映され、マサヒデさんが無願想流を出した時、研究をするまでもなく、あ、あれは無願想流では? と気付く方はいるでしょう。多くはないでしょうが」


「・・・」


「奥の手は多い方が良い。鉄砲も少し練習しては如何です。幸い、イザベル様は元軍人」


「そうですね。鉄砲の弾、買って行きましょうか」


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