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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第59話


 米衆連合も、もうすぐ中央部に入る。


 山脈近くの草原地帯を抜ければ、また砂漠。

 だが、まだ甘い砂漠、と言ったところか。

 ぽつぽつと草は生えているし、木も生えている。


 このまま街道をまっすぐ進んで行くと、一旦街道が南に向かって隣国に入ってしまうので、途中で外れて砂漠を突っ切ってまっすぐ東へ向かうのだ。

 マサヒデ達は街道脇に野営地を作り、輸送隊、キャラバンを待っている。


 昨晩の進路予定会議では・・・



----------



 カオルが焚火の側に地図を開く。


「このまま街道を進むと、新メヒコ領に入ります」


 とん、とカオルが指を置いた所は、赤枠で領地を囲まれた所。

 排斥派の領地、避けるべき領地という印。


「ううむ」


「この辺りは街道を外れると、何もありません。砂漠のみです。1本だけ川が流れていて、その周辺だけは草原地帯というだけです。川は大きなものではないので、浅い所を探せば馬車でそのまま行けるかと」


 先日の排斥派の小さな街道休憩所のような町からは、街道が東へ伸び、北東に向かっていて、今はその北東の所。そこからまた東に伸び、少し行って南南東に街道が向かう。


 領地の境のすぐ前に、町があるが・・・

 マサヒデがその町の上に指を置く。


「ここで物資の補充はしない方が良いですよね」


「はい。先日と同じように、排斥派が出てきます。内陸に近い程に魔族差別の意識は強くなるとお考え下さい。しかも、すぐ隣は魔族差別丸出しの領地です。店に入っただけで鉄砲を向けられるのもおかしくないかと」


 アルマダが髪が落ちないように、手を頭に乗せて地図を覗き込む。


「しかし・・・何もないですよ。本当に、村も何も・・・その町の前で買って行っても、街道を外れたら、補充は困難ですね。食料はどうしましょうか」


「狩りと隼で賄いましょう」


「狩りですか・・・」


 アルマダが渋い顔をする。

 先日の風の岩の前での狩りを思い出したのだ。

 何も居ない、ただ隼が何かを掴んでくるのを、岩陰で寝て待つだけ・・・


 イザベルとシズクの2人組の方は、見事に大きなバッファローを2頭も狩って来たのだが。1頭の毛は、今はシズクの座布団兼毛布代わり。もう1頭分は馬車の中に丸めてある。

 マサヒデとアルマダが、何とも言えない顔で、シズクの下に敷かれたバッファローの毛皮を見る。


 2人の顔を見て、カオルがくすっと笑った。


「次は私も狩りに参加致しますし・・・」


 そして、シズクとイザベルに手を向け、


「シズクさん、イザベル様は分かれてもらって、広く探しましょう。これならばボウズという事はないかと」


「まあ・・・助かります」

「・・・そうしましょう」


 カオルはカオルで蛇やらサソリやらを大量に捕らえ、毒腺を集めていたりしていた。

 そして、壺いっぱいの蛙も・・・

 うう! とクレールが腕を抱き、顔をしかめる。


「うふう! カオルさん! また蛙ですか!?」


「美味しいと仰られていたではありませんか」


「ですけども、あの光景は今でも忘れられません! 壺いっぱいの蛙なんて!」


 言われて思い出したか、ラディも落ち着かない様子で、手の甲をすりすりとこすっている。鳥肌が立ったのだ。


「私が言える事ではございませんが」


 まだ失敗を気にしているのか、カオルはそう前置いて、顔を引き締める。


「この先、排斥派の強い領地を避けていくと、どうしても人の居ない地域を通る所はあります。勿論、堂々と通って行き、排斥派達を殴り倒して行く事も出来ますが、相手は一般市民でも鉄砲で武装して来ます。被害者なしには行けません」


 マサヒデが訝しげに眉をひそめる。


「一般市民が鉄砲ですか?」


「日輪国では鉄砲は非常に高いですが、この米衆連合では安い物です。1家庭に1丁は必ずあります。金貨1枚で鉄砲は買えます」


「ええ!?」


 マサヒデが声を上げると、イザベルがカオルを見て頷き、マサヒデの懐を指差し、


「マサヒデ様がお持ちの四分型拳銃も、大量生産の品とはご存知で」


「あ、ああ、確かに、それはマツモトさんから聞きました」


「それはこの米衆で作られている品です。全改造を施された物でも、この米衆で買えば金貨5枚といった所でしょう。勿論、観賞用の、金やら象牙やらを使う物はもっとしますが」


「そんなに安いんですか!?」


「はい。文化の違い、といった所でしょうか・・・」


 イザベルが立ち上がってラディの横に座り、ラディの長鉄砲、八十三式を取る。


「これは職人が1丁1丁、丹念に部品をひとつずつ、打ち、削り出して作られた、まさに芸術品とも言える鉄砲。刀で言えば、注文打ちの品。日輪国産の鉄砲は、そのような物です。数打ち鉄砲もありますが、工作精度の高さは、他の国の物とは段違い。注文打ちではないが、一流刀工の打った刀のような物。よって、値段も相応です」


「ふむ」


「対して、米衆の鉄砲は、数打ちで性能がそこそこ良い、という鉄砲を求めます」


「安いフギ物や、マサムラのような物です。戦乱期の刀のようですね」


 と、カオルが補足して、マサヒデ達が頷く。


「ああ、なるほど」


 イザベルが続ける。


「米衆連合は大国で、兵も多いので、自然とそうなります。職人が1丁1丁丹念に作っておりますと、兵に行き渡らないのです。日輪国は兵が少ないですが、優れた職人が多いので、ひとつひとつに質を求めても、十分行き渡ります。そうして生産された結果、日輪国産の鉄砲は高く、米衆産の鉄砲は安くなります」


「ううむ・・・」


「さらに、税金もあります。日輪国は鉄砲に非常に高い税をかけております。日輪国は世界から見ると、武術大国です。鉄砲が庶民に行き渡れば、当然、武術、魔術は衰退します。すると、米衆の後を追う形になります。小国が大国と同じ形を後追いとなりますと、当然敵わぬわけで」


 なるほど、とアルマダが頷く。


「自国の武器が何であるか、と考えると、日輪国が庶民に高い鉄砲の税をかけるのは当然ですか。武器より技術を取った体制にしている」


「はい。文化的にも、技術的にも、そちらが優位に立てます。この辺りは軍を見ると顕著です。日輪国の兵は1人1人が精強ですが、兵数は圧倒的に少なく、攻めるのは難しい」


「ふうむ。面白いですね」


「そして、世界のどの国も舌を巻く、情報省の忍の存在。日輪国はこのふたつで世界から大きく見られております」


 そう言って、イザベルがカオルを見ると、カオルが照れて恥ずかしそうに下を向く。


「魔の国の兵も、日輪国と良く似た体制です。国民の人数は米衆以上ですが、兵数は遥かに下。ですが、1人1人が鍛えられた魔族で、兵の質を求めます。まあ、領地持ち貴族の私兵がございますので、それも含めると、遥かに少ない、は言い過ぎですが」


「大国なのに何故です」


 クレールが笑った。


「あはは! マサヒデ様は、新しくお父上になるかもしれないお方のお考えが、分かりませんか?」


「いや・・・いや、何故でしょう?」


 ああ、とアルマダが頷いて笑う。


「私は分かりましたよ。ラディさんは?」


 ラディが首を振る。


「いえ。シズクさんは」


 おお? とシズクが腕を組む。


「いやあ・・・分っかんない。なんで? 簡単に勝てるよね? トモヤ分かる?」


「おう。ワシは分かるぞ。ほれ、人の国と魔の国が戦争しておった時、魔王様は勇者に何と言うたかのう」


「ああ!」


 マサヒデが声を上げて、ぽん、と手を叩いた。


「もう領地が欲しくないからですね? 仕事が大変だからです」


「そのとおーり! あははは!」


 クレールが笑い声を上げると、


「えっ」


 と、アルマダが小さく声を上げた。


「えっ?」


 皆がアルマダの方を見る。

 アルマダは違うのか?


「アルマダさんは、なんと考えたんです?」


「いや、魔王様と、御城勤めの龍人族の方々が居れば、どんな戦だろうと事足りるでしょう? そもそも兵などいらない、飾りのようなものだから、治安維持に使うだけで十分。それで質だけはと」


 クレールがにやりと笑う。


「んふーん。ハワード様、それも正解ですけど、凄く弱いです。1割くらいです。9割は、魔王様が仕事をしたくないからです。今でも毎日山積みの書類と格闘中なんですから、仕事が増えたら、もう国の経営が出来ないからなんです」


「そんなに? そんなにお忙しいのですか?」


「はい! 魔王様って、お城の中でも鎧兜を着けてるんですけどー」


「ふむ? それが?」


「それが、警戒とかの意味じゃなくて、疲れてげっそりしてる顔を、人前に出したくないから! なーんです! 格好付けてるんですよ! あははは!」


 ふふ、と知っているカオルが小さく笑う。

 以前、マツから聞いた魔王様の普段の生活(※勇者祭418話)。


「朝から晩まで決済の書類とにらめっこして、お手紙も読んで、何かお祝い事や海外のお客様の為に、謁見やパーティーの準備もして。魔王様のお仕事に、労働基準法なんてありませんから、すっごく大変です!」


 アルマダは笑わずに、ううむ、と唸る。


「そうか。魔の国はあれだけの広さで絶対王政だから、そうなるのか。市町村、組合などは膨大な数だし、役所や領主、省庁を通しても、王まで上がってくる書類は凄い数になるのか」


「むしろ魔王様が国民の下僕ですよね」


「国の下僕、啓蒙君主というやつですよ。優れた統治者でないと出来ない形ですね。やはり魔王様は偉大です」


 ん、とマサヒデが首を傾げる。


「日輪国も、ヒラマツ王がいるではありませんか」


「ええ。ですが、統治する国の規模が違いますよ。マサヒデさん、世界の3分の1くらいは魔の国なんです。日輪国がどのくらいの大きさか分かってるんですか?」


 マサヒデがさっぱり、と首を振る。


「いや、全然。この米衆よりは小さいって分かりますけど」


 アルマダはやっぱり、と首を振る。


「日輪国は、世界の陸地の面積の、1厘(1%)以下です」


「えっ!?」


「約1/4厘(0.25%)です」


「ええっ!」


「魔の国をざっくり世界の1/3、30厘として、仕事量はヒラマツ王の何倍ですか? 計算してみて下さい」


「ええ? ええと、4倍で1厘だから、30倍して、120倍・・・ですか?」


「どんなに工夫したって、凄い量になりますよ。領地、増やしたいですか?」


「いえ」


 アルマダが笑った。


「やはり、領地を増やしたくないから兵が少ないのですね」


 クレールがにっこり笑う。


「そういう事です! ハワード様、魔王様に、魔の国の一部を領地として頂いては如何ですか? 日輪国の飛び地として。お兄様がお2人おられるのですから、さっさと献上してしまって、分家など作られては。代わりに武術家として好きにやらせて下さい、なんて」


 むっ、とアルマダが小さく声を上げる。

 その手があったか!


 もう何年かしたら、自分は家に戻され、領地の一部を任されて、最終的に他家への養子だと予想はついている。

 そうなったら、もう家を出ようかとも考えていた。

 アルマダは武術家で生きていきたいのだ。


「む、む・・・魅力的ですね・・・父上も喜ぶ、陛下も喜ぶ、魔王様も喜ぶ、私は好きに剣術が・・・ううむ・・・もし頂けたなら、父上に打診してみます」


 ううむ、とアルマダが腕を組んで黙り込んでしまった。

 カオルが再び地図に手を置き、マサヒデが覗き込む。


「話が脱線致しましたので、戻しましょう。この国の排斥派は危険なので、やはり当初の予定通り、なるべく差別の見える領地は避けるべき。そして、そうやって進むには、市町村のない、人の居ない所を進む事になります」


「はい」


「ですので、街道を外れると物資の補充は非常に困難。キャラバンに会うことは稀です。我々のように魔族を連れたキャラバンなどは、もしかしたら会う事はあるやもしれませんが、何しろ道なき平野で広い。どこを通るか分かりません。狩りなどでは得られない物資。着替え、塩や香辛料を買い込みましょう」


 もしかしたら、に力を入れてカオルが言う。

 当然だが、まず会えないだろう。


「しかし、この先の市町村は寄れない・・・キャラバン待ちですか?」


「そうです。食料以外が揃うまで、しばし、ここで野営を致しましょう。幸い、ここらはまだ草もありますから、飼葉を使わずに済みます」


「飼葉、か・・・待っている間、草刈りもしておきますか。すぐに乾いて、良い餌になりますよ」


「良いお考えかと」



----------



 こうして、マサヒデ達の足はここで一旦止まったのである。

 野営地の周りで草を探して馬を連れて行き、ナイフで草刈りをして・・・


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