表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/50

第44話


「死んだのか?」


「とんでもない。生きているよ。怖ろしい治癒師だ」


「始末するか。間に合わなかったのさ」


「おい! お前達!」


「うるせえ!」


 がちゃん! と何か派手に倒れる音。

 かちん、と金属音。

 ぱちっと開いたマスダの目。


「うっ」


 向けられた銃口。

 ばちん! と反射的に手が銃を弾いた。


 弾かれた勢いでぐるっと回った黒服を抱く。

 ぱん! ぱん! ぱん! と乾いた音が立て続けに響き、抱きかかえた黒服の背中に穴が開く。


「く!」


「仲間あ殺して良いのか?」


 ぶん! と黒服の死体を投げると、発砲した黒服にぶつかり、薬品棚に突っ込んだ。

 びちゃ、と何かがこぼれ、黒服の頭から湯気が立ち上る。


「ああっ! ああーっ!」


 発砲した黒服が拳銃を投げ捨てて、死体の下で喚き散らす。

 ごろごろと左右に転がり、顔に割れたガラスが刺さっている。


「あらっ?」


 手がある。

 ぐ。ぱっ。

 動く。


 逆の手。

 ある。

 握る。開く。動く。


 足を上げる。足もある。


「せんせ?」


「・・・」


 医者は腰を抜かし、悲鳴を上げる黒服を見つめている。


「おい、先生!」


 マスダが声を上げると、は! と医者がマスダに顔を向けた。


「あんたが治してくれたのか?」


「ああ、いや・・・」


 はあ、と息をつき、医者が立ち上がって、マスダのベッドの横に歩いて来た。


「それは、トミヤスに付いていた治癒師が治したんだ」


「へーえ・・・」


 医者が布団をめくり、ぽんぽん、とマスダの足に手を当てる。


「足を上げてみろ」


「ん」


 す、と足を上げると、膝から下が付いているではないか。

 マスダが寝転んだまま首を傾げ、上げた足を指差す。


「あっれえー? 俺の足、斬られたよなあ?」


「ああ。だが治した。どうだ。傷跡はあるか?」


「いや、あるだろ」


 す、と斬られた辺りに手を当てる。

 確か、膝のすぐ下。

 倒れて、足が上がっていて、血が吹き出ていた。


「あれっ? ないな? いや・・・あれ?」


 起き上がって、あぐらの姿勢で足を伸ばして、目を近付けて見る。


「あれえ? ないぞ?」


「うむ。ぴたりとくっつき、血まで戻った」


「ええー?」


 片目でじっと見てみる。やはり傷跡がない。


「魔法使いかよ」


「治癒師だからな」


「いや、そういう意味じゃなくて・・・」


 ぐりぐりと足首、膝、と動かしてみる。

 何の引っ掛かりもなく、可動域もおかしくない。足の指も動く。


 腕。

 肘を上げてぐるぐる回す。

 背中に回してみる。

 手の平に指4本を乗せ、ぐぐっと逸らす。

 手の甲に乗せて、押し込んでみる。


「あらら。普通だな」


「頭痛や目眩は?」


 ん、とマスダが首を傾げ、掌底をこめかみに当てる。


「ちょっと頭痛はするな。大した事はない。目眩はない・・・」


 くる、くる、と左右を向く。


「うん、目眩はない」


 医者が頷き、額に手を乗せる。


「ううむ・・・少し熱があるな。念の為、1日はここで寝ていろ。倒れた時、後頭部をもろに打っていたぞ。頭を強く打った後に動いていると、後でいきなりぽっくり死ぬ事がある」


「そいつは勘弁してくれ」


「頭痛が治まっても動くなよ。寝ているんだ。治癒師が言うに、あと数秒で助からなかったそうだからな。後頭部の強打に大量失血、ショック死しなかったのが奇跡だ。虎族で良かったな。おお、そうだ、そうだ。寝る前にあれだけ頼む」


 医者がまだ悲鳴を上げている黒服を指差した。

 あちゃあ、とマスダが顔を両手で塞ぐ。

 薬棚が完全に壊れて、薬品の瓶も割れてごろごろ転がって、いくつかは煙を上げている。


「ああ・・・くそ、やっちまった。すまん。薬代は後で良いよな。寝てるんだから」


「ああ。構わん。高い薬もあるから、請求書を見て驚くなよ」


 マスダが立ち上がり、喚いている男の顔を踏み潰す。

 べしゃ! と血と脳漿と骨が飛び散る。

 ふたつの死体の襟を持ってずりずり引っ張り、ドアを開けて廊下に投げ、


「清掃員!」


 と、大声を上げて、ドアを閉めた。

 きゅ、と机に向かっていた医者が椅子を回し、飛び散った血を指差す。


「掃除代も払うんだぞ」


「ああ・・・くそ。なんか頭痛が酷くなった気がするぜ」


「おそらくだが、それは動いたせいではないな」


「ああ」


 溜め息をつきながらベッドに座り、横になって布団を被る。

 ぺしゃ、と額に手を当て、口を半開きにして目を瞑る。


「くそお・・・」


 呟くと、医者が机で書き物をしながら応える。


「気にするな。エキシビションだ。チャンピオンの座は動かない」


「そうじゃなくて」


「なんだ」


「トミヤスさんに、握手してもらいたかったんだあ・・・」


 医者がペンを止め、驚いた顔でマスダを見つめる。


「何?」


「俺ぁ、トミヤスさんのファンなんだ」


「何だって?」


 この凶暴な虎族が、裏の闘技場の主が、トミヤスのファン!?

 まさか。

 医者が呆れて首を振り、鼻で笑う。


「ふふふ。負け惜しみか? 面白いジョークだ。笑わせてくれるな」


 はあー・・・とマスダが深い溜め息をつく。


「冗談なもんかよ・・・あーあ・・・もう会えねえかなあ・・・もっかいだけ、会いてえなあ・・・」


「ほ・・・本当なのか?」


「本当だって・・・あー・・・もう来てくんねえよなあ・・・」


 ふう、と医者が溜め息をつきながら、目を丸くしながら、椅子に背をもたれかかせる。


「驚いたな。鳴く虎も黙るショウジ=マスダも、意外とミーハーな所があるのだな」


 同じ『なくこ』でも『泣く子』ではなく『鳴く虎』である。

 ち、とマスダが舌打ちして、壁を向く。


「死にてえらしいな」


「まあ良い。お前の恥ずかしい所を見れたからな。休日を2日増やしてやる」


「何?」


 マスダが医者の方を向くと、医者は無表情のまま机に向いて、ペンを取って先をマスダに向け、


「1日は寝る。1日でトミヤスの所まで走る。1日で戻って来い」


「ハードだな!?」


「お前さんの足なら、全力で走れば1日で追いつけるだろう」


「せめてもう1日くれよ! 全力で2日走り続けか!?」


「仕方ないな・・・3日か・・・3日なあ・・・」


 また医者がペンを置き、椅子を回してマスダに向く。


「3日も休み増やすくらいなら、ここ出て日輪国に密入国したらどうだ。トミヤス道場で待ってりゃ、トミヤスも帰って来るだろうが」


「ああっ!」


「トミヤスは日輪国で修行して、あんな強くなったんだろう。暇つぶしに道場破りでもしてりゃあ、すぐ戻って来る」


「おう、おう! そうだな!」


「だが、薬代と掃除代は、きちんと払ってから行くんだぞ。身分証も何も、全部自前で用意しろ。ここを出る手引きもしてやらん。俺は一切助けてやらんからな」


「ああ!」


 ばさ! とマスダが布団を跳ね飛ばしたが、医者が怒鳴る。


「おい! 1日は寝てろと言ったろうが! 死んだらどうする! もう動くんじゃない!」


「う、ううむ・・・」


 唸って、マスダが布団を拾ってベッドに戻る。


「飯と便所以外は寝ているんだ。まあ、1年か2年か待ってりゃ、日輪国に戻るだろう。お前に勝つ程だ。死にはしない。五体満足に戻れるかは分からんがな・・・」


 もそもそとマスダがベッドに潜り、ちらっと医者を見る。


「トミヤスさん、魔王様とお手合わせとかしないよな」


「それだと帰ってこんかもしれんな」


「・・・」


「ま、幸いボスが死んじまったし、幹部連中も、お前の扱いに頭を悩ませてるんじゃないのか。ここを出たいと言えば、上が喜んで身分証を用意してくれるかもしれんぞ。聞くだけ聞いてみたらどうだ」


「駄目だったらどうすんだ」


 医者はさらさらとペンを走らせながら、溜め息をつく。


「知るか。力づくで出てきゃ良いだろうが」


「あ、それもそうか」


 さらさらさら・・・

 ぱらり。

 さらさら、さらさらさら・・・


「俺、表で暮らせるかな」


「知るか」


「道場破り以外に、何したら稼げんだ」


 医者はペンを止めず、顔も向けず、ぶっきらぼうに答える。


「金なんぞ持ちきれん程あるだろうが。馬車何台分持ってんだ。貴族相手に金貸しでもしてろ」


「医者って頭良いんだな」


「当たり前だ。大学出ないと、医者にはなれないんだぞ。出た後の事なんざ、出てから考えろ。お前にゃ金も時間もあるんだ。分かったら、もういい加減に寝ろ」


「ああ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ