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勇者祭4 米衆連合国編  作者: 牧野三河


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第37話


「居たあー!」


 シズクが大声を上げて前を指差す。


「イザベル様! 居るよ! 3つ!」


 ざく、ざく、とイザベルの馬が進んで行く。


「3頭と言え、3頭と・・・では、小さな群れだな。1頭は必ずや仕留めよう」


「うんうん!」


「馬か? 牛か?」


「背が高くないから、牛だよ。多分」


「そうか! 晩飯は豪勢になりそうであるな!」


 シズクが腰の革袋から石を取り出す。


「うひひ。1頭は私が仕留めるぞ!」


 イザベルも弓を出し、ぐっと引く。


「では2頭だな。1頭はシズク殿が持て。もう1頭は半分に斬り、シトリナとルチルに乗せて、一杯であろう」


「よおーし!」


 どす! とシズクが駆け出そうとしたが、


「待て! 走るな。逃げてしまうぞ。駆け出すと馬より速い」


「ううん・・・焦らすね」


「何、美味い料理は待たされるものであろう? ふふふ」


 あはあ、とシズクが笑みを浮かべる。


「だね! うひひひ・・・今日は牛の直火焼きかあ!」


「ははは!」


「うへへへ! よだれが」


 じゅ、とシズクが口を拭く。



----------



 そして見えてきたのはバイソン。

 シズクがバイソンを指差す。


「イザベル様、あれ牛?」


「そうだ」


「なんか違う。前の方、毛布みたいだよ」


「そうだな」


「なんか背中出っ張ってない?」


「ああ」


「あれ牛い?」


「そうだ。何度言えば分かるのだ」


 矢筒から鉄矢を取り出す。特注の総鉄製。当然、威力も貫通力もある。もっと強い弓なら熊も正面からぶち抜けるのだが・・・そんな弓は買えなかった。貧乏の悲しみ。


「ま、いけるかな・・・シズク殿は、自慢の石投げで、頭を吹き飛ばしてしまえ」


「あいよ」


「では、我は右の奴の正面に回る。シズク殿は他のを狙え。同時にいくぞ。まず口笛を吹く。バイソンはおそらく我の方を見て、ぴたりと動きを止める。投げるのだ」


「あいよお」


 ぽっくり、ぽっくり、と馬を群れの側面に進めて行く。右側のバイソンはこちらを向いている。

 弓を引き、ぴゅー! と口笛を吹くと、バイソンの群れが顔を上げた。


 びん!

 もう1本。

 びん!


 そして、ぶうん! と凄い音を立てて飛ぶ石。

 どかん! という音と、べち! とバイソンの頭半分が割れる音。

 ぶほ! と残りの1頭が鳴き声を上げ、どすっ、どすっと走っていく。


「よしと」


 イザベルが弓を鞍に納めると、どすん! どすん! と2頭のバイソンが倒れた。

 シズクの方を見ると、満面の笑顔で手を振りながら馬を引っ張ってくる。


 1頭は半分に斬らねば。

 馬を下り、背中の剣を抜いて、シズクを待つ。


「おーい!」


「ははは! シズク殿! 見事だ!」


 どったんどったんとシズクが走って来て、倒れたバイソンを見下ろす。


「でけえなー・・・角も普通の牛よりおっきいね」


「うむ。群れで突っ込まれると死ぬな」


 シズクが後ろ足を持って引っ張り上げる。


「後ろ、馬みたい。お腹から前は太いのに」


「うむ。毛が長いから、余計に太く見えるな。やはり、この広い野で生活しているから、速く走れるように、後ろ足が馬のようになっているのだろう。2里(約8km)を全力で駆けられる程、体力がある。その速さは馬と同じか速いくらいだ」


「なるほどねえ・・・あったかそう。帰って、カオルに毛皮にしてもらおうよ」


「それも良いかもな。持ち上げてくれるか。ふたつにして、馬に載せよう」


 シズクが後ろの両足を握り、ぐっと持ち上げようとして、腰だけ上げるような形で止まり、


「ほい・・・よおー! 重いぞこりゃ!? 30貫目くらいあるんじゃないの!?」


「いや、そこまではなかろう」


 ぐ、ぐ、とシズクが足を引っ張る。


「でも、無理やり持ち上げると、足潰しちゃいそう」


「それは構わんが、千切れて落とさないようにしてくれ」


 シズクが足を持ったまま、ぐいぐい左右に広げ、お! と顔を上げて、


「あのさ、立てるから、途中まで斬ってよ。あとは、私とイザベル様で、横からぐっと引っ張れば、びりって破れない?」


「あ、それもそうか。別に綺麗に剣で真っ二つにせずとも良いな」


「イザベル様はロープで引っ掛けて引っ張らないとね。こんだけもこもこしてたら、いっぱいダニ居るよ」


 うわ! とイザベルが跳び下がる。

 獣人族のほとんどは、ノミ、ダニが本能的に嫌いなのだ。

 人族にも好きな者など滅多にいないだろうが、全身が固まってしまうほどに嫌いだ。


「それを言うな! 鳥肌で剣がブレる! ああ、ちょっと待て・・・くそ、忘れていたのに! ふうー!」


 イザベルが剣を納めて、ごしごしと腕をさする。



----------



 夕刻になって、マサヒデとアルマダが帰って来た。

 大量ではあったが、全て隼が取ってきてくれた獲物で、弓が引かれる事はなかった。


「ハヤブサちゃん! 馬車の屋根で見張りに戻るのです! 何か来たら報せるのですよ!」


 クレールが命令を出すと、ばさっとマサヒデの肩から隼が馬車の上に飛ぶ。

 マサヒデは自嘲しながら、馬を下りて、大きな袋を差し出し、


「大量ですよ」


「わー! 流石マサヒデ様!」


「私は1匹も狩ってないですけどね。全部、あの隼が捕まえてくれました」


「お役に立ちましたか! 良かったです!」


「ええ、まあ・・・」


 アルマダも馬から下りて、袋を肩に担いで持って来る。


「これだけあれば、困らないですよね。ところで、クレール様」


「はい!」


 アルマダがちらっとマサヒデを見て、クレールに目を戻し、


「仙術って、どういうものか知ってます? 仙人の術の、仙術」


「は?」


 突然の意外な質問。

 クレールがぽかんと口を開けてしまった。


「仙術ですか? まあ、書籍で知る限りは・・・」


「教えて下さいますか。捌きながらで」


「私で良ければお教えしましょう」


 ぎく! とマサヒデとアルマダが声のした方を向くと、馬車の影からロウが音もなく出て来た。


「・・・」「・・・」


 ロウの顔を見て、2人の顔が青ざめる。


「そんなに驚く事もないでしょう。目的地の途中だったので、寄らせてもらっただけです」


「ロウさんは、風の岩に行くんですって!」


 クレールは無邪気な笑顔を向けてくるが、マサヒデもアルマダもたまったものではない。

 は! と周りを見渡す。カオルがいない・・・


「カオルさんは?」


 うへえ! とクレールが顔をしかめ、怖気を立たせて身を震わせる。


「もっと蛇とサソリが欲しいって、探しに行ってしまったんです! ひいー!」


「・・・そう、ですか・・・」


 もしカオルが居たらどうなった事か・・・

 と、びくっとマサヒデが周りを見渡す。

 レイシクランの忍達はどうした!?


「ちょっと、クレールさん」


 マサヒデは獲物が入った袋を落とし、クレールの手をぐいぐい引っ張って行く。


「なな、な、なんですかあー!?」


 ロウと馬を挟むよう、馬の向こうに回り、身を屈め、口に手を当てる。


「忍の皆さんは」


「居ますよ」


 ぱん! ぱん! とクレールが手を叩くと、馬車を引く馬、黒影の後ろから、ローブを羽織った冒険者姿の忍が出て来て、マサヒデとクレールの所に歩いて来る。


(やはり!)


 歩いて来る感じが普段と違う。がちがちに緊張している。

 クレールにもはっきり分かったようで、訝しげな目を忍に向ける。


「あなた、どうしました?」


「いえ、クレール様、なんでも」


 そう言って、忍が目でマサヒデに合図すると、2人でクレールから離れる。


「マサヒデ様、あの者は」


「ロウ・・・名は聞きましたか。旅の仙術家とか・・・ヤバいですよ、あの人。絶対に手を出さないで下さい。父上並の動きをしますよ。全く見えないし、全く感じないです。敵意はないので大丈夫ですが、万が一何かあったら、消えて逃げに徹して下さい。そうなったら私達はどうでも良いので、クレールさんだけでも何とか」


「は・・・」


 察してはいたが、マサヒデにここまで言わせるとは、何者!?


「おお! 凄いですな!」


 サクマの声が聞こえ、は! と2人が焚火の方を向くと、ロウが微笑を浮かべながら、マサヒデの袋から兎を出している。見ていると、ぽんぽん、と腹に手を当てただけで、どばっと兎の口から血が落ちる。


「あれ・・・血抜き・・・ですか?」


 もしあれを人の身にやられたら・・・生きた身で食らったら。


「あれは死にますな」


 忍も同じ事を考えていたようだ。

 この怖れを知らぬはずの忍が、震えている。


「聞くだけ、聞けるだけ、話を聞きましょう。何か得られるかは分かりませんが」


「は・・・」


 忍がすうっと消えていき、マサヒデがクレールの所に戻る。

 クレールは少し心配そうな顔で、


「あの方が、何か?」


「いえ。先程、会ったんです。手解きを受けましたが・・・尋常の方ではありませんよ。絶対に怒らせないで下さいね」


「え」


「行きましょう」


「え、ええ? ええ?」


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