#002 AIの発展とメタAI倫理学
2100年の日本。かつての繁栄と技術革新の国は、今や新たな挑戦と変革の時代を迎えていた。人口減少と気候変動がもたらす影響は、国の隅々にまで及んでいる。しかし、その中でも人々は希望を持ち、未来を切り開こうとしていた。
東京は、かつての高層ビル群が立ち並ぶ姿から一変し、緑豊かなエコシティへと生まれ変わっていた。空中庭園や垂直農場が都市の至る所に広がり、自然と共生する新しいライフスタイルが定着していた。自動運転車やドローンが行き交う空中道路は、かつての渋滞を過去のものとし、人々の移動をスムーズにしていた。
AIとロボット技術の進化は、日常生活を一変させた。家庭では、家事をこなす汎用型AIが当たり前となり、医療分野ではAIが診断を行い、最適な治療法を提案する。教育現場では、バーチャルリアリティを用いた授業が行われ、子どもたちは世界中の文化や歴史を体験しながら学んでいた。
2100年、日本の国会はかつての姿から大きく変貌を遂げていた。
国会議事堂は、最新のテクノロジーで武装されたデジタル議会へと進化していた。議員たちはホログラムを使って遠隔地からも参加でき、AIが議事録を自動で作成する。議論はリアルタイムで翻訳され、多言語対応が当たり前となっていた。
市民の声が直接国会に届く仕組みも整備されていた。オンラインプラットフォーム(ReadBex:リーディベックス)を通じて、国民は政策提案や意見をリアルタイムで発信できるようになっていた。これにより、政治への関心と参加が飛躍的に高まっていた。
鈴木太郎は、ReadBexの開発に携わった一人者だ。ReadBexは、政治的・経済的トピックに対して無料で意見ができるSNSで、多種多様な意見を総合して政策の最適解を導き出そうとするものだ。これにより、社会保障の負担は最適化され、貧困に苦しむ日本人はいなくなった。中でも「X」に対する議論が盛んに論じられており、日本は世界で唯一「X」の非合法化を決めた国となった。
「X」の取り扱いについては、政治上の最優先事項として国民投票が行われた。与党の日本維新の会は、「国民の幸福を最大化する」として、「X」の普及を試みたが、「輸入の全面禁止」、「輸入はするが、利用は個々人の判断とする」、「全国民に普及させる」の3つの選択肢の中で国民から最も支持された「輸入の全面禁止」で可決された。
この国民投票の結果を受け、鈴木太郎は内閣に対して、国産の汎用型AIの開発を早急に進めるよう提言した。
国内では、介護、保育、看護、自動運転、農業、医療、教育、漁業、ロジスティックスなど、あらゆる分野で補助的なAIの導入が進んでいるが、汎用型AIの開発に成功した企業は存在しない。第一線では、ソフトバンクグループとNTTが協力して、汎用型AIの開発に取り組んでおり、人間以上に細かな動きができ、核融合技術による人間以上の動力を持つロボットの開発には成功したが、「X」のような人間らしい判断を行うアルゴリズムに倫理的な問題を引き起こす可能性を否定できずにいる。
日本国のAI規制は、倫理的な判断に係るテストに非常に厳格だ。500万件の倫理的な質問に対しての答えが、倫理学者の9割以上が適当だと判断しなければテストを通過できない上に、その答えを導き出したアルゴリズムが解読可能でなければならない。
鈴木太郎は、倫理学の出自である。2045年にAIはシンギュラリティを迎えた。シンギュラリティとは技術的特異点のことで、AIが自らの設計を改善し、より高度なAIを作り出す能力を持つようになることで、これが連鎖的に続くことで技術の進化が加速することを表す。シンギュラリティにより、観測可能な科学的な問いにはすべてAIが解答可能となった。
45年を迎え、全世界で哲学と倫理学が隆盛を極めた。なぜなら、シンギュラリティによっても、哲学的・倫理的な問いについては、人間らしい考察が必要になるからだ。また、AIの生み出す新しい用語について読解可能な注釈をつける必要が出てきた。このような分野は、メタAI倫理学という新しい学問領域として学問の中心的な存在にまでなったのである。




