振動を辿る
外から風の音と虫の音が聞こえてくる。
深い瞑想の中で、その二つの音のみに意識を集中させる。
「わかる……」
沢山いる虫の位置がはっきりとわかる。
いち……にい……さん……
漏れがないように一つずつ丁寧に数えていく。
「……全部で四十三匹。風は南西から吹いている」
回答の正解を教えてくれる人物はいないが合っている自信はある。なぜなら二回数え直した。
閃光さんが言っていた。集中力を上げれば上げるほど、今の私は強くなる。
あと少しで何事もなく一日が終わる。お夕飯食べて、お風呂入ってベッドの中だ。
あと三日ほどでアクワ王国軍が再接近する。それまでは自分の強さを磨いておこうと思う。その必要性を黄色の勇者が教えてくれた。
だけど、このまま何も起きずに終わればいいと思う。王国軍は成果なしで帰還。それがベストだ。
キィーン
耳鳴りと同時に空気が震えた。嫌な感じがする。この感覚は以前にも体験している。
意識を集中し、空気の震えの発生源を探る。この断続的に起こっている振動を辿っていけば辿り着くはず。
「遠すぎる……」
振動を掴んだ意識が途切れそうだ。
「全開っ!」
心は静かなまま、魔力を放出する。
限界まで遠く。さらに広く。
この大陸全土に届くように。
見つけた。振動の道筋。
もう離さない。
私の意識は北へ北へと登っていく。
「捕まえた!」
想像はしていた。だが最悪だ。
「魔界のトビラ……このあいだの魔竜……」
すでに空間が裂け始めている。
そこから魔竜のエネルギーを感じる。しかも怒りの感情が混じっていた。
「この前、両足切り落とした事怒っているのかな」
当たり前の回答が出る疑問が口から出た。
追跡を終了する。
「フレデリカ様!」
盾と叡智の聖騎士が部屋に駆け込んで来た。
「うん大丈夫。わかってるよ。今探ってきた。たぶん例の魔竜だよ」
二人を安心させようと明るく振舞う。
「相変わらず下手ですね。あたしでもわかりますよ。その強がり」