炎の濁流
「ただいま参上いたしました。フレデリカ様、英雄様とは知らなかったとはいえ、数々のご無礼お許しください」
叡智の聖騎士と一緒に現れたのは「閃光」さんだ。もしくは、剣の聖騎士と言う事もある。
「気にしないで。こちらこそ、いろいろ無茶しちゃってごめんなさい。それで早速なんだけど手伝ってほしい事があるの」
彼に手伝ってほしい事は二つだ。
まずは、このカプセルの人達を安らかに眠らせてあげる事。
その後は、この研究施設を一切の情報、痕跡を残さず潰すのを手伝ってほしい。
「で、閃光さん。ここの人達ってカプセルをこの機械から外せば終わらせる事ができるってことでいいかしら?」
「はい。フレデリカ様のご友人の方の時はそのようにいたしました。その方が苦しまず逝けたのであれば、この方法がいいかと存じます」
「うん。この方法でいきましょう。まだ生きている人達だから、丁寧に見送ってあげましょ。大変だろうけど私もやるからがんばりましょ。申し訳ないけど叡智さんは誰か来ないか見張りをお願い」
「わかりましたフレデリカ様。何かあったらお知らせいたします」
「お願いね。じゃあ閃光さん、始めましょ」
あれから三時間ほど経った。
あと少しで終わりそうだ。
私だけでも百人分くらいのカプセルを外した気がする。
手順的には、カプセルの上下が固定されている部分を剣で切り離し、床に寝かせるという流れ。
人一人を持ち上げて床に降ろすという作業は、なかなかの重労働だ。
剣の聖騎士さんは手際良くこなしている。私より全然ペースが早い。
私一人じゃ絶対出来なかった。剣の聖騎士さんにも、だいぶお世話になっている。
それからさらに三十分ほどで、すべてのカプセルを降ろす事ができた。
「ありがと、剣の聖騎士さ……いえ、閃光さん。とても助かりました」
「フレデリカ様の方こそ苦労されましたね。フレデリカ様はお優しいです」
「私なんて優しくないよ……いっぱい人殺しちゃってるし。私は英雄と言うより悪魔の方が相応しいかもしれないわね」
「いえ、そんな事はございません。フレデリカ様は、この方々の最後を安らかなものとされました。大変立派でごさいます」
「ありがと。それじゃあ上に上がって終わりにしましょ」
部屋を出て一度振り返る。
床一面にカプセルが置かれているのが見える。
「シャル……これでいいわよね?私に出来る事はこれくらいしかないから……」
研究所施設の入口まで上がると叡智の聖騎士さんが私達の帰還を出迎えてくれた。
「叡智さん、お疲れ様。閃光さんも」
「フレデリカ様。あたしの方は異常ありませんでした」
「見張りなんて役目押し付けちゃってごめんね」
「フレデリカ様の行った事に比べれば大した事ありません。それよりも一つだけ緊急ではありませんがご報告ございます」
「えっ?何かあったの?ちょっと後で教えて。先にこちらを終わらせてしまいましょう。閃光さん、お願いします」
「かしこまりました。では…………」
剣の聖騎士が地面に両手つける。
「爆炎奔流!」
炎の激流が、物凄い勢いで研究所の中へ流れ込んでいく。暴風雨時の濁流みたいだ。
「すごい……」
凄すぎて、こんな感想しか言えない。
「このまま地下が炎で満たされるまで流し続けます。この炎は一日は消滅しませんので、間違いなくすべてを無に還せましょう」
「閃光さん助かりました。ありがとう。あなたの判断でいいから、終わったら戻ってください。ゆっくり休んで下さいね」
「ありがたきお言葉。フレデリカ様もお身体大事になさってください」
「うん。じゃ叡智さん、さっきの話聞かせて」
報告ってなんだろう。気になる……
「はい、あたしについて来て下さい」
叡智の聖騎士の体が、フワリと浮かび上がり、一際高い建物の屋上に降り立った。