表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
98/139

約束する勝利

 マサミチは、少し緊張した様子で刃を潰した鉄剣を構えている。鉄剣は、両手で扱う長剣の一種だ。だが、鍛えた者ならば、片手でも問題なさそうなので、バスタードソードと言うべきか。獣王の扱った大剣に比べれば、細身の剣だ。力押しも可能だが、技量も求められる、まぁ、普通の剣だろう。


 対して、俺が構えるのは拳だ。いや、構えてすらいない。ダラリと自然体になって、マサミチを観察していた。

 魔力の動きが独特だ。自然と手にする鉄剣に、魔力が送り込まれている。おそらくは、固有特性によるものだろう。腰のあたりで不自然な動きを見せる魔力は、鞘を探しているのか。


「マサミチ殿、ジャック殿、準備はよろしいですか?」


 審判役であるアナスタシアが声を発する。

 法皇やイジネたちは、少し離れた位置で観覧していた。


「あぁ」


 俺が返答すれば


「……はい!」


 勇者もまた、唾を飲んでから声を張った。


「これは、手合せです。両者、命の危険のないようにお願いします。……」


 注意事項を手短に、アナスタシアが右手を振り上げる。


「始め!!」


 そして、次の瞬間に振り下ろし、開始の合図を放った。


「でやぁあ!」


 先を取ったのは、マサミチ。まぁ、俺は様子見の態であるので、当然だが。


 踏み込みは強く、鼓舞の雄叫びとともに、3歩目で間合いを詰めた彼は鉄剣を振るう。


 錬金魔術(アルケミー)城壁創造(クリエイト・ウォール)


 それに合わせて、実在する壁を用意した。


 それは容易く、()()()()()()()の鉄剣に斬り裂かれた。まるで、豆腐かバターのように。


 普通は、砕かれるんだがな。


「えっ!?」


 その現象に、勇者自身が驚愕し、身を退く。その隙を突き、俺は魔術を行使する。


 精霊魔術(シャーマニズム)風刃(ウィンド・カッター)


 目に見えない風の刃が、背後から勇者を襲う。


「ここか!」


 魔力でも感知したのか、勇者は背後の【風刃】に鉄剣を合わせた。

 風の刃は断たれたのではなく、霧散した。魔力ごと霧散したように見えた。


 ザリッ


 背を向けたことを思い出したか、勇者が回れ右する。しかし、俺は動いていない。


「なんで、動かないんですか?」

「観察だよ」


 勇者の問いに、そう答えた。


「……いきます」


 沈黙、それ以上はないと思ったか、勇者が仕切り直す。今度は、突進ではない。静かな接近。鉄剣は下段に。


 ザザッ


 足摺の音を聞きながら、俺はやはり魔術を行使する。


 精霊魔術【雷蜘蛛の巣(エレキ・ネット)


 人の目には、一瞬のこと。地を這う雷が勇者を襲うはずだった。


「せい!」


 勇者は、俺の魔術行使と同時に鉄剣を地に突き立てていた。【雷蜘蛛の巣】は、やはり魔力ごと霧散し、勇者には届かない。


「!?」


 勇者の驚愕が目に映る。今までのことを翻して、俺は勇者の方へと踏み出していた。


 拳を握る。人外の身体はすでに、間合いを詰めていた。勇者の鉄剣は未だ地に突き立てられており、抜くことは不可能。


 勇者の目の前に留まると同時、すでに捻られた状態の身体の発条を解放する。

 未だ、戦い慣れぬ少年なれば、この一撃を受けても仕方のないこと。されど、俺の正拳突きは、勇者の右手に包まれようとしていた。


 勇者は、武器に頼らず、手を離したのだ。だが、左手は未だ、柄を握る。勇者の魔力がやはり、奇妙な動きを見せる。鉄剣を起点にして、右手に魔力が送り込まれる。


 接触。右手はしっかりと、俺の吸血鬼の膂力を受け止めていた。勇者に崩れはない。

 【魔装(アームズ)】に近いが、操作している様子はない。これが約束する勝利、なのだろうか。


 右手の奇妙な魔力が霧散した。未だに、接触はしたままだ。


 心霊魔術(サイキック)気絶(スタン)


 霊体(アストラル)の脳が揺さぶられたはずだ。


「ぐっ!?」


 これは防げていない?だが、気絶するのではなく、ひどい立ちくらみ程度の反応。固有特性が働かなかったわけではないようだ。


 隙を見逃す気はない。くるりと身を翻し、背後を取る。勇者の首を左手で握り、心臓の位置に右手を添えた。


「え……」


「それまで!」


 勇者の呆け声とアナスタシアの静止の声は同時だった。


 パッと手を離してやる。


 タタッといった感じで、前につんのめりつつ、勇者がこちらを向いた。


「あの……えっと……」

「チカラに引っ張られるな」

「……はい」


 どうやら、自身のチカラに多少の自覚はあるらしい。或いは、この戦いで自覚したか。

 どちらでもいいか。問題は、強くなるかどうかだ。魔王の言葉によれば、魔王を倒し得るのは勇者だけ。


 マサミチには、頑張ってもらうしかない。

次回から、投稿時間をまた、変更するかもしれません。不定期更新なのは、変わりませんが。読者層を広げるためにですが、果たして、本当にそれで広がるのでしょうか?


兎にも角にも、応援宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ