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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
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聖人

「お見事でした、ジャック殿」


 緩やかな拍手とともに、法皇が近づいてくる。


「世辞は結構だ、法皇。それでこの後の予定は?」


 アナスタシアが若干の苛つきを見せたもののそれだけだ。法皇は、気にした様子もなく、俺の問いに答える。


「一先ずは、お休みになってもらいたい。と言いたいところですが、魔王の宣言によれば、半年。準備期間を考えれば、猶予はそれほどでもありません。そちらがよろしいのであれば、自由都市リベラルへと向かっていただきたい。神託によれば、そちらにある世界最大の迷宮、天空へと続く塔『バベル』の攻略が勇者様の最初の試練です」


 神託、ね。それは地下の反応と関係あるのかね。まぁ、今はどうでもいいことだ。


「わかった。勇者の準備が出来次第、出発だ」


 俺の言葉に、反対はなかった。


 ……


 勇者の準備を待っていると、アナスタシアが近づいてきた。

 ここは、大聖堂に隣接する駐車場。俺たちは馬車を借り受けて、出発することとなっている。


「どうかしたか?」


 大聖堂の壁にもたれ掛かる俺から声を掛けた。


「……貴殿は、何だ?」


「また、その話か」


 四大国会議の折にも触れられた俺という種族の在り方。そこに気がつくのは、彼女の持つ聖槍のチカラが大きい。


『聖槍ロンギヌス:かつて、聖人の血を好んで啜った王侯吸血鬼エルダー・ヴァンパイアの成れの果て。四神教が保有する対不死者(アンデッド)兵器、血聖兵装の最高傑作。』


 真理眼(イデア)で確認すれば、このような情報が得られた。意識を残しているのかはわからないが、なんとも滑稽というか、憐れというか。

 吸血人(ダンピール)がそうであるように、不死者を倒すには不死者のチカラを使うのが手っ取り早い。だからこその結論だろう。


「貴殿の反応は確かに、不死者なのだ。気にしないわけにはいかない。猊下はなんらかの根拠を持って、貴殿を信頼しているようだが、それを教えてはくれなかった」

「そうなのか、俺も法皇に信頼される理由はわからんな。だが、そうだな、俺が不死者であることは正解だ。ただし、会議の折にも示した通り、俺は正の魔力を抱えた吸血鬼の新種、吸血聖人(ヴァンパイア・ホープ)だ」


 そう言いながら、俺は瞳に施した隠蔽魔術を解除した。


聖人(ホープ)だと?」


 俺の言葉に考え込んでしばらく気づかなかったが、頭がようやく言葉を飲み込んだのか、顔を上げるアナスタシア。

 俺の瞳を認識した瞬間、驚愕を表した。


「そ、それは、いや、まさか」

「他言無用だ。これがあるから、森妖精も俺と共にいる。どうだ、世界の天敵(ヴィラン)ではないと証明できたか?」


 アナスタシアは、何度も俺の瞳を確認した。だが、そこにあるのは純然たる事実のみ。幻術の類も疑ったかもしれないが、森妖精が信じているのは、イジネがいることや先の騒動で明らかなこと。肯定する要素としては、とても大きいことだ。妖精族は、決して、不死者を受け入れたりしない。彼らは、血族にも眷属にもなることはない。確かに、吸血鬼たちの天敵なのだから。

 やがて、理解したように落ち着いたので、隠蔽処置を戻した。


「理解、した。そうか、なるほど。今までの無礼、誠に申し訳ございません」


 頭を深く下げるアナスタシア。


「聖騎士団長がそう簡単に頭を下げるな、ここは外だぞ。誰かに見られたらどうする」

「しかし」

「さっさと、戻せ。他言無用ということは、そういったこともやるなということだ。周囲に違和感を抱かれるだろうが」

「わかりました」


 そう言って、頭を上げるアナスタシア。どこか、不安げだが、知ったことではない。知りたいと言ったのは、こいつなのだから。


「わかったのなら、戻れ。お前は法皇の護衛じゃないのか」

「そう、だな。戻らせていただく、手間をかけて悪かった、武運を祈っているジャック殿」

「あぁ」


 そう言って、アナスタシアは去っていった。


 ……


 その後、準備を終えた勇者とそれについていたイル、さらにそれについていたイジネが来たことで、すぐさま、出発となった。


 向かうは、人類圏の中心都市。四大国の緩衝地帯にして、独立自治区と認められた唯一の自由都市リベラル。

 そこにある世界最大の迷宮『バベル』の攻略こそが一先ずの目標だ。


「チッ!」


 食事を要求するセイに、テキトーな果物を与えつつ、俺たちを乗せた馬車は、快晴の元を進んで行った。

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