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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第三章 魔剣舞闘会
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準決勝・第一試合

 翌日。本選にして、既に満席立ち見客まであった闘技場には、せめて、熱狂だけでもその身に感じようと、その周囲をとびっきりの馬鹿どもで埋め尽くしていた。


 それを恨みがましく思うのは、司会の忠告も聞かずに、二日酔いになったアホか、斜に構えることを覚えたクソガキくらいである。


『スゥ……』


 拡声器によって、響き渡った吸気の音に辺りは、束の間の静寂を得る。もちろん、それは次の瞬間には破られるのであるが。


『レェ!!ディィィイイス!!!アァァンッド!ジェントォゥルゥメェェェエンン!!!!泣いても笑っても今日が最終日!!魔剣大会の覇者が、産声を上げるぅぅう!!!』


「「「「「……ウォォォォオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


 空気よ、割れろとばかりの大歓声。ある者は、耳を塞ぎながら、ある者は腕を振り上げて、ある者は隣の人を揺すりながら、しかして、一様に笑顔を浮かべてこの祭りを楽しんでいた。


『それじゃあ、最早、無粋な前置きは横に置いて、早速、ご登場願おうかぁ!!』


 大歓声止まぬなか、その声によって舞台に注目が集まった。


『準決勝・第一試合!「月下の魔剣士」ジャック・ネームレスvs「斬魔」カットラス・ラインハルト!!!』


「「「「「ウォォォォオオオオ!!!」」」」」


 対戦カードの発表に、更なる沸き立ちをみせる観客。

 そんな、音の嵐のなかを堂々と二人の男が歩み出る。


 片や、艶やかな黒髪をした絶世の美青年。剣術と魔術の双方を修めた魔剣士でありながら、大会中、未だ剣を抜かぬどころか、ポケットに手を突っ込んだ姿のままであり、その余裕の姿に誰もが見惚れるだけの実力を示している。


 片や、黒髪をオールバックに固めた壮年の男。王国騎士団団長であり、その身に騎士鎧を纏い、一本の魔剣を佩いた精悍たる勇姿に曇りは無い。


 双方、同時に石舞台に上がり、間合いを取って向かい合う。


「まぁ、宜しく頼まぁ。ニイちゃん」


 軽い調子で、カットラスが挨拶すれば


「あぁ、よろしく。おっさん」


 ジャックも気を負わずに返した。


「剣は抜いちゃくれねぇのか?」


 表情は変わらず、されどその眼光は鋭く、カットラスが問い掛けた。

 その問いに、ジャックはニッと笑って


「抜かせてみろ」


 ただ、それだけを言った。

 カットラスから表情が消える。


「言うねぇ、()()が。そんじゃ、こちらは全力全開、全身全霊でやらせてもらいますよ?」


 カットラスとて、武人。この挑発に乗らなければ、これまで戦ってきた意味がない。声の調子はあくまで、軽く。猛猛と立ち昇る闘志だけが彼の怒りを顕著にしていた。


 それに対して、ジャックはやはり、ニッと笑った。


『両者、気迫は充分だぁ!それでは、魔剣大会、準決勝・第一試合開始ぃ!!!』


 ゴォ!!!


 と、吹いた風とともに、ジャックが身体を後ろに倒して回避行動を取っていた。


「逃げるなよ」


 グイブルシィを振り切った姿勢で、カットラスがニィと笑った。その身は既に、魔力の密度を極限まで高めていた。


 カットラスは、騎士とはいえ、魔術大国である王国の出身者。当然、魔力操作(マナ・コントロール)の派生技術程度は行使可能。彼のそれは紛れも無く、【魔装(アームズ)】であった。しかも、それは恐ろしく練度が高い。


 ダン!!!


 石舞台に罅割れを遺しながらの踏み込み、一息の間に接近、再びの剣は今度は小さく振るわれて、けれど、やはり回避され、だからこそ、それをわかっていた彼は連撃を繰り出した。


 右左上下斜め、刺突、剣腹による打撃ありとあらゆる攻め手が縦横無尽に駆け回る。常人ならば、そのどれもが避けようは無く、瀕死を免れない必殺の連撃。しかし、その悉くはジャックの余裕のある動きで回避され尽くしていた。


 カットラスの【魔装】は異常である。本来、魔力というものは、動きの固いエネルギーであり、【魔装】においては、それは体全体に平均的な魔力の密度上昇による強化で留まるといったカタチで現れる。しかし、カットラスは自身の動きに合わせて、魔力の配分を変えていた。脚を使うならば、脚へ、腕を使うならば、腕へ、剣を振るうならば、剣へ、その魔力は局所的な強化を齎らし、故に彼は魔術大国にあって、影の実力者と呼ばれる騎士なのである。


「ぐっ……!?」


 歯噛みするような驚愕。自身の最大能力を持って挑んだそれは、余裕を持って躱されている。あまりにも、そうあまりにも、届かない。


 何故、コイツは俺と同等……いや、それ以上の【魔装】を使えるんだ!?


 王国に産まれたならば、一度は抱く夢がある。そうだ、魔術師になろう。うんと偉い、宮廷に仕える魔導師が良い。だが、どれだけ、かの魔術王が天才であり、七つの魔術体系を作り上げたと言っても、やはり、魔術の修得には、才能が要った。何人もの王国民の子どもたちがその現実を前にして挫折する姿は珍しくない。

 カットラスもまた、才能の無い側の子どもだった。


「はぁ!!」


 一層の気合を込めて、裂帛の剣撃を放つ。

 眼にするのは、半身に構えて躱す相手の姿。


 カットラスに他の子どもと違う点があったとすれば、それは彼の憧れだったのだろう。彼が憧れたのは、魔導師そのものではなく、国を守るその姿だった。故に、魔術の才を持たなかった男は、清々しいまでにその進路を騎士へと変更した。


 届け!俺は!!俺はっ!!!国の守り手だ!!敗北は、許されねぇ!!!!


 魔力操作(マナ・コントロール)・派生技術【念動(キネシス)


 瞬時の判断は、否、それは判断ではなく本能と直感の為せる業。【念動】によって、無理矢理に変更された剣の軌道。余裕の構えで、紙一重の回避を選んだ魔剣士は、その悪足掻きに称賛を込めて、笑んだ。


 キィン!


 響き渡る金属音。


「ふっ……抜かせてやったぞ、ガキ」

「流石、年寄りなだけあるな、おっさん」


 ジャックが左手に握るは、愛刀たる夜刀姫(ヤトノヒメ)。その右手は、拳を握り、カットラスの腹部に埋まっていた。


「敗れた、か……」

「良い戦いだったさ」


 最後の意地を見せ、カットラスは遂に気を失った。倒れ掛かるその身を支え、ジャックは夜刀姫を天に突き上げた。


『勝者ぁあ!!ジャック・ネェェェムレェェエエス!!!!』


「「「「「ウォォォォオオオオ!!!!!」」」」」

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