本選・第四試合
『続いての第四試合で本日は終了だぁ!だからといって、盛り上がらねぇ奴は、いねぇよなぁ。なんせ、最後に残った組み合わせは、そのどちらもがとびっきりの美女二人だもんなぁ!』
「「「「「ウォーーー!!!!」」」」」
「「「「「お姉様ーー!!!!!」」」」」
『ではでは、選手の入場だぁ!まずは!我らが獣王国の白金級冒険者ぁ!!極東は陸の孤島、武仙国家ミズホにて修行を果たした、武を極めし者っ!見る者を魅了する剣舞が如きその剣を振るうのは、酔いどれ女剣豪!「魅刃」のクズハ・ホワイトテイルゥウ!!!』
酔いどれ……?
入場口から、歩いてきたのは、徳利片手に堂々とした女剣士。頭には狐耳、臀部からは狐の尾を生やした狐人が、和服に身を包み、腰の左側に刀を佩ていた。
石舞台に辿り着くと、徳利を傾けて酒を呷った。粗雑なしぐさのはずだが、どこか色気を感じさせた。
これが狸人だったら、ただの信楽焼だが……。
「っんっんっん……ぷはぁ。なんだい?妙に静かだねぇ」
それはあんたが堂々と酒を呷ったからだ。予選は持ってなかったよな?
『流石、酔いどれ女剣豪ぉ!酒を飲んだ時のが、強いという噂は本当なのかぁ!?』
そんな噂があったのか。
「「「「「ウォーーーー!!!」」」」」
ここは歓声を上げるところなのか?えっ?あっなるほど、タイミングを逃したから、無理矢理捻じ込んだんですか、へぇ。
しかし、本当に酔ったほうが強いんでしょうか?
ふむふむ、蟒蛇だから、飲みたい時に飲んでるだけ。そう言えば、あなた随分、詳しいですね。
なるほど、あれのお師匠様ですか、へぇ。……えっ?
『続いて!東の覇者、帝国の白金級冒険者ぁ!ボボル、コヅネと帝国の冒険者は、立て続けに負けてしまっているが、大丈夫かぁ!?無表情な鉄仮面の裏で何を思っている!?弓術と魔術を操る暗森人の魔弓士ぃ!!「氷麗姫」シトナ・イカームゥウ!!』
「「「「「お姉様ーーーーー!!!」」」」」
クズハと反対の入場口から歩いてきたのは、肉感的な褐色の銀髪灼眼の美女。右手に握るのは、黒き大弓。身に纏うのは、所々を魔獣の革で守った狩人装束。
「オマエさんも飲むかね?」
「遠慮しておこう」
「そうかね?ふむ……っんっんっん……ぷはぁ、あぁ、うまいねぇ」
向き合った二人に緊張感はない。シトナはあいも変わらず、鉄仮面。クズハも徳利を傾けては喉を鳴らしている。
『それでは、魔剣大会・本選、第四試合開始ぃ!』
司会の宣言とともに、シトナが下がる。クズハに動きはなく、未だに徳利を傾けていた。
「【凍てつく雪原】」
予選にて、猛威を奮ったシトナの魔術が淡々と発動する。
「そぉれ」
気の抜ける掛け声とともに、クズハが跳躍。凍てついた石舞台に戻るのに合わせて、抜刀。自身が降り立つ分だけ、氷床を斬り取った。
着地する時には、すでに納刀の音が響いていた。
「っんっんっん……ぷはぁ」
酒を呷って、一息。踏み込んだ。
シトナに焦りはない。矢を番えぬまま、弦を引けば、氷柱の矢が自然と形成された。それはすなわち、無詠唱。
放たれた矢は違わず、クズハに迫りくる。当然、それが一本だけなわけはなく、二本三本、次々と時には同時に襲い掛かった。
「フッ……ハッ……」
異名に違わぬ剣の舞が、その尽くを斬り落とす。右へ左へ、狐が踊る。遂には、狩人へと接近を果たす。
「そりゃ!」
流れるような太刀筋が、狩人に牙を立てようと試みる。
されど、狩人に焦りはない。弓弦引けば、形成された氷柱の矢。その矢先は、今までのとは違い、膨らみがあった。そうちょうど、花の蕾のような。
「【氷華の円盾】」
弓に番えたまま、発動する防御魔術。蕾は開き、花弁が広がる。それは、円盾となって、狐の牙を確と防いだ。
「およ?」
防がれたならば、斬ればいい。しかし、一瞬、遅かった。防いだと同時、円盾の矢は放たれた。形状からして、遠くには飛ばないが、狐の体勢は崩された。ついでに、刀と円盾が凍りつくカタチでくっ付いた。
続け様に、矢は射られ、円盾の花弁が割られてゆく。背後に跳ぼうにも、自身が斬り落とした氷柱の残骸が鋭利な様子で転がっている。斬らなければ、着地は難しい。
「詰んだか?」
狐の暢気な声がした。刀が自由になったら、背後に跳ぶか、と飛んでくる矢を、くっ付いた円盾で防ぎ、刀を自由にしようと試みる。だが、自由になる前に狩人の準備が完了した。
割れた氷華も、斬り落とした氷柱も、斬り取った氷床も、氷片は宙を舞う。
「【氷嵐】」
魔術宣言に、氷片は一斉に襲い掛かった。
ギンギン……ギンギン……
何度、ぶつかり合う音が響いただろうか。嵐が過ぎ去れば、背後を取られた無傷の狐がいた。
「ふむ、気付かなんだ。あたしの負けだ」
納刀しての発言。その言葉に、シトナも魔術で形成した氷柱を消して、弓を下ろした。
『第四試合、勝者はぁ!「氷麗姫」シトナ・イカームゥウ!!!!』
「「「「「ウォーーーー!!!」」」」」
「「「「「お姉様ーーーー!!!!!」」」」」
「飲むかね?」
「……あなたの奢りなら」
「よしよし、では行こう!酒宴じゃ酒宴じゃ!」
狐と狩人は、二人揃って舞台を降りていった。
『明日は、準決勝と決勝だぁ!!本日は、私の忠告も虚しく、二日酔いで来れなかった馬鹿どもも!さっさと休んで、万全の体勢で観戦しに来いよぉ!!』
「「「「「ィエェーイ!!!」」」」」
応援宜しくお願いします!先のメンテナンスで、評価がしやすくなったしね!
ちなみに、地の文の師匠は多分、出てこないから、気にしないように。




