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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第三章 魔剣舞闘会
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役者が揃う

武闘大会と言えば、やはり、こう言った話が欠かせんでしょうと、個人的には思っとります。

視点が、三人称を意識してますがどうだろう?

 小山人(ホビット)

 成人しても、人間(ヒューマン)の子供程度の背丈にしかならず、顔の厳つい山妖精(ドワーフ)と違って童顔で、見分ける方法が耳が尖っているかどうかというところにしかない。そんな彼らは、人間と山妖精の混血児(ハーフ)である。


 見た目によらず、力持ちではあるが、だからと言って質量的な限界というものがある。目の前で、大柄な男の拳を、人差し指一本で受け止める姿はあまりに、非現実的だった。


「コヅネ……ヤクノ……?」


 呆然と男は、突き出された会員証(ギルド・カード)に記載のある名前を呟いた。すると、それを聞いた何人かが、騒ついた。


「おい、コヅネって……」

「もしや、帝国の……」

「あの『静謐』か……?」


 騒めきから聞き取れる断片的な情報から推測するに、どうやら、彼女は帝国で有名な冒険者らしい。異名も持っているようだ。『静謐』と。


「それで、いつまで拳を突き出しているつもりね?」


 穏やかな笑みを浮かべたまま、コヅネが男に問いかける。


「?……おお、おっと?!申し訳ねぇ!!白金級冒険者の方とは露知らず。えぇはい、あなたの言う通りでさぁ。急ぎの用事を思い出したんで、それじゃ!!」


 状況を理解した男はそそくさと去っていった。


「うんうん、これで一件落着ね」


 コヅネは一人沁沁と頷いていた。だが、彼女は気づいていない。彼女の参加を知った幾人かの者たちがこれは優勝は無理だなと登録手続きをせずに去っていったことを。結局、あの男が望んだように、弱者は自身の身の丈を知り、退いたのである。


 ……。


 コヅネと男が問答をしている時、とある酒場で二人の武人が久闊を叙していた。


 片や、艶やかな狐人の女性。帝国は東の属国。盆地にあって陸の孤島とも言われるミズホ公国の伝統衣装である着物を着ていた。佩いた刀剣は、ミズホ独自の製法で打たれる灰鉄剣とも呼ばれる刀であった。

 片や、寡黙そうな龍人の男。側に立て掛けられた槍は長大で、人間が振るうのは難しく、流石は龍人の槍と言ったところか。酒場の店主が床が抜けないかと気になって仕方ないくらいである。


「いやはや、久しぶりよなぁ、リシ殿。ん、何年ぶりさね。まぁ、ええか、取り敢えず、乾杯じゃ乾杯!」


 上機嫌に語るのは、女のほう。リシと呼ばれた男は、印象通りに手に持つ杯を掲げるだけ。それでも、女の機嫌が変わることはない。リシがこのような男であることは承知の上であるからだ。


「それでリシ殿、何して訪ねてきた?」


 しばらく、自身のことばかり話していた女は、やっと満足したのか、リシに話を振った。


「いや何、面白いことはなんもありはせんよ。ただ、仕事の関係でこちらに来ただけ、まぁ、物のついでと大会には参加するがね。クズハ嬢も参加するのだろう?」

「アハハ!!もちろんさね!しかし、白金級のアンタは金が掛かる。街から街への移動は護衛依頼と相場が決まっているが、法皇でも連れてきたかね?」


 リシにクズハ嬢と呼ばれた女は、相変わらずの上機嫌。酒量は増える一方だが、一向に潰れる気配はなかった。

 リシはと言えば、酒好きの龍人の例に漏れず、こちらも相当な酒量であった。また、一杯干して、クズハの問いかけに眉を歪めた。


「お?何か気に障ったか、リシ殿」

「冒険者に依頼の話を聞くのはご法度だろうに、クズハ嬢。酔うのも大概にせんか」

「ん?おぉ、そうだったな、あはは!!まぁ、許せ、リシ殿。今回、各国のお偉いさん方はお忍びで来たわけじゃないんだ。公然に知れとろう」

「まぁ、そうだがね。さて、気を取り直して、乾杯といこうや」


 リシも別に責める気はなかったのか、クズハの杯に酒を注ぎ、自身のにも手酌した。この日、この酒場の酒が飲み干されたかどうかについてはご想像にお任せしよう。


 ……。


 獣王都の城塞にある最高の客間の一つで、カルドニア王国の面々が(くつろ)いでいた。アデル王と魔導師団相談役は、獣王レオニダスとの会談に臨んでおり、今、此処にいるのは護衛としてやってきた中でそれなりの身分を持つ者たちだ。


「カットラス様、吾輩は街の方に繰り出したいのですが宜しいでしょうか?」


 そう問いかけたのは、小太りの男だった。どうにも、護衛のようには見えないが、これでも金級冒険者であり、異名持ちであった。

 問いかけられたのは、生真面目そうな男。堅そうな黒髪をオールバックにした壮年であった。魔術大国とあって影の薄い王国騎士団の団長であり、王国の留守を預かる魔導師団団長と双璧をなす男である。


「そうだな、あんたは道中の護衛だったからな。もう構わんだろう。それで、大会には出るのか?」

「えぇ、父の商会の宣伝にもなりますのでね」

「ふん、欲深いことだ。オグディーノ商会はすでに有名だろうに」

「王国ではとの但し書きが付きますので、それに商人の美徳は強欲であることです」


 笑みを絶やさぬ小太りの男はキッパリとそう言った。


「それでは、カットラス様。健闘をお祈りしておりますよ。王国は魔術だけというイメージを払拭できると良いですね」

「そちらもな。せいぜい、その見た目で相手の油断を誘うことだ、コレクティン殿」


 互いに憎まれ口のようなことを言いつつも、口元は笑みだった。方向性は違えども、互いに強さを追い求めた身。何か、共感するところがあるようだった。


 ……。


 大通りを歩くその女は、注目の的であった。艶かしい褐色の肌に、輝くような銀髪、吊り上がり気味の瞳は灼眼、スッと通った鼻筋に、ぷっくりとした唇。美貌のそれだけでも充分であろうに、その身体は豊かな胸に、しっかりとしたくびれ、引き締まった臀部から下はバランスの良い肉付きの脚と肉感的そのものであった。男は鼻の下を伸ばし、女ですらも惚けている。人外の美性は、正しく人外のそれ。それは人間ではない証拠に耳が尖っていた。


 暗森人(ダークエルフ)

 人間と森妖精(エルフ)の混血児。なんの悪戯か、森妖精とはまったく正反対の魅力を持って産まれる種族であった。


「おぉ、おぉ、シトナではないか。相変わらず、美しいのう」


 大半の者が気後れする彼女をシトナと呼んだのは、好々爺とした魔術師だった。


「『轟雷』の爺いか。何の用だ?」


 表情はまったく動かさない鉄仮面で、シトナは応対した。


「その言い様はないじゃろう。ほれ、ちょっと、宿にでも」


 そう言って、自然と臀部に手を持っていく老人だったが、シトナの鋭い手刀に弾かれた。


「相変わらずだな、爺い」


 鉄仮面はそのままだったが、その瞳にはどこか軽蔑の色があった。「あぁ、お姉さま……」と周囲の女性の幾人かがそう言って、恍惚とした顔をしていた。


「むぅ、少しくらいええではないか。老い先短い老爺の戯れよ、ふぉふぉふぉ」


 反省の色のない老爺から、視線を外してシトナはまた、歩き出す。


「ふぎゃ!?」

「ん?」


 シトナの豊かな胸に顔面をぶつけたのは、黒髪黒目の少女だった。


「おや、すまないな。大丈夫か?」


 何にしても、鉄仮面のシトナが優しげに少女に問いかける。


「はいぃ、私こそすいませんでしたぁ〜」


 何とも気の抜ける返事を返した少女は、ペコリと頭を下げる。


「おいおい、何やってんだ。浮かれすぎだぞ」


 少女の後ろから声をかけるのは、紫髪の幼女を肩車した黒髪の美青年。その後ろには紅髪の美女も立っていた。


「いや、今のはこちらが悪い。よく確認もせずに、歩き始めたのだからな」

「そうなのか?」


 青年が首を傾げると同じく、肩車された幼女もまた首を傾げるのは何とも微笑ましかった。


「そうなのだ、この変態から逃げようとしていたところでな」


 そう言ってシトナは、未だに側にいるはずの老爺を示そうとしたがすでにそこにはいなかった。


「美しいそこのお姉さん。どうです、この儂と少し、お茶でも」

「あらあら、お上手ねぇ」


 ふとそんな声を聞いてそちらを向けば、紅髪の美女を年甲斐もなくナンパしている老爺の姿。


「儂はボボル・エクレールと言いましてな。これでも、名の知れた……グェ……」


 自身のアピールを始めた老爺はしかし、すぐさま、シトナの拳骨を喰らい、潰れた蛙のような声をだすこととなった。


「度々、失礼した。この老爺とは腐れ縁なので、後で私が灸を添えておく」

「おぉ、シトナ。ヤキモチかね……かわい……グェ……」


 まったく学ばない老爺は、再びシトナの拳を喰らうこととなった。


「では、失礼する」

「あぁ、程々にな」

「あはは……すいませんでした〜」

「バイバイ!」


 青年たちがそれぞれに挨拶し、紅髪の美女は手を振るだけだった。

 それを確認して、シトナはボボルという老爺を引き摺りながら去っていった。

大会参加者のほとんどは、出落ちキャラだから、色々と濃くしたいんだけど、何というか私の性格としてはとびっきりの個性を与えるのが難しいんですよねぇ。


まぁ、それはともかく、次回から大会が始まりますよ(予定ね、予定)


皆さん、応援宜しくお願いします。

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