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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第三章 魔剣舞闘会
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手合わせ

 冒険者協会アドベンチャーズ・ギルドに戻った俺たちだが、持ち帰ったのが吸血鬼(ヴァンパイア)の眷属である吸血魔(アルプ)の骸ということで、騒ぎになりかけた。


 仕方なく、王印付きの書状を見せて、支部長(サブ・マスター)に事情を説明する羽目になった。まぁ、仮にも王印であるので、その後は、問題なくことが運んだ。依頼は完了。報酬を受け取り、宿に戻った。


 ……。


 今はまた、セルバが馭者をする馬車に乗り、獣王都への道程を進んでいた。あれから、都市を二、三抜けて、次に見えるのが獣王都である。


 ヤトが俺の膝上に座り、隣にカーラ。向かい側にエリーさんで、その隣がイジネという状態であった。


「もうすぐ、獣王都ねぇ」

「そうだね」


 エリーさんがポツリと言ったことに、カーラが同意を示す。その言葉に、イジネが耳を動かしていた。拳も握り込まれている。


 結局、気晴らしにならなかったあの依頼の後、別の都市でエリーさんに引っ張られて買い物に出かけて行った。だが、気が紛れるのはその瞬間だけらしく、ふと見れば、思い詰めたような様子を見せていた。


「……セルバ、休憩を挟めるか?」

「もう少し、行きますと小川がありますので、そこで休憩と致しましょう」

「わかった」


 俺が休憩を願い出ると、セルバはスラスラと返答した。俺の様子を、ヤトが不思議そうに見ていた。その頭を撫でてやれば、嬉しそうな声を上げた。


「チッ!」


 僕も!とセイが声を上げるので、そちらも撫でてやろうとすれば、横からカーラの手が伸び、その膝上に拐われて行った。


「チッ!?」

「セイちゃんはこっちですよぉ」


 別に、乱暴なわけではないので、セイも大人しく撫でられた。


 ……。


 しばらくすると、セルバの言うように小川あり、道から逸れて馬車を停めた。


 馬車を降りると、セルバは馬を連れて水を飲ませに行き、エリーさんたちが軽食の準備を始めた。不器用なイジネは、指示待ちだ。一人、空を見上げているイジネに近づき声を掛ける。


「イジネ、手合わせしないか?」

「……気を遣わせたか」


 自嘲気味に目を伏せて、イジネは言う。それに構わず、言葉を続けた。


「なに、暇だろう。軽く運動したほうが、食事もうまい」

「ふふ……そうだな、確かにそうだ。よし、やろう」


 あくまで、俺の都合のような言い方に、笑みを溢し、イジネは了承した。皆の邪魔にならないように、開けたところに移動して、互いに剣を構える。


「神秘行使はなしだ。いいな?」

「もちろん、軽い運動だからな」


 その言葉の後、互いに口を噤んだ。合図はいらない。そんなものは、戦場にはないのだから。


 イジネの細剣(レイピア)は、低く構えられていたが、俺が瞬きをした瞬間


 ドン!


 と音がした。細剣の(きっさき)はこちらに向き、限界まで引き絞られた弓の弦のように今か今かと解き放たれるのを待っている。踏み込みは、流麗に、三歩で俺の元に辿り着いていた。


「てやぁ!」


 四歩目の踏み込むと同時、右手に握られた細剣が突き出される。狙い違わず、心臓ただ一点を狙うそれを、俺は夜刀姫(ヤトノヒメ)で弾くことにした。


 キィン!


 金属音が響き渡る。弾かれ、俺の右側を通り抜けた細剣。そうなれば、自然とイジネの身体が俺に無防備に晒される。右肩甲骨のあたりを狙って、右拳を振り抜いた。


「くっ……!」


 苦悶の声を上げイジネが吹き飛んでいく。だが、咄嗟に合わせたのだろうダメージは少ないはずだ。そもそも、吹き飛ぶような威力は今の拳にはない。


 ダン!


 と地を踏みしめて、イジネに迫る。合わせたことの証明のように、すでに体勢の整ったイジネは上段からの振り下ろし、俺は下段から振り上げだった。


 キィン!


 鍔迫り合いには、ならない。力負けすることを自覚するイジネは、衝突の後、すり抜けるように細剣を振り抜き、下段からの斬り上げを実行する。

 抜けられ中途半端な位置にある夜刀姫を手元に引き戻しつつ、俺は背後に跳んだ。


 イジネの斬り上げは空振り、俺も再び踏み込んだ。お互い、最小限の動作で、剣撃をぶつけ合う。一合、二合、三合……


 数十合目のとき


「はい、ストップ!準備ができたわよ」


 エリーさんのその言葉で、俺たちの動きは止まった。


「はぁはぁ……ありがとう、ジャック」


 息を荒げるイジネが礼をする。


「いや、こちらこそ」


 軽くそう言って、俺はさっさと軽食のほうに歩いて行った。


「どうだった?」

「強いな……」


 エリーさんの問いかけに、ポツリとイジネが言った。その様子に、多少、気が紛れたのだろうと、俺は笑みを浮かべた。

 背後からは、エリーさんも似たようなことを考えたのか、クスクスと笑う声が聞こえた。


「な、なんだ?エリー殿、何かおかしかったか?」

「いいえ、なんでもないわ。ほら、皆のところに行きましょう」

「あ、あぁ」


 その言葉に、イジネも歩き出した。

ストックがない……


以降は、不定期だと思ってください。悪しからず……ご了承お願いします

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