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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第三章 魔剣舞闘会
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乙女

 特に問題はなく、シュテンたちは荷物を纏め終えた。


「それで、ジャックとやら、どうやって、なんしの迷宮(ダンジョン)まで行くんじゃ?」

「時空魔術だが」

「……」


 シュテンの問いに、答えてやったのだが、何かおかしかっただろうか?物言いたげな目が向けられた。


「なんしの迷宮は、ハフル大森林の南の奥の方という話だったが、魔力は足りるんか?」

「足りるぞ」

「……そうか。まぁ、良い」


 呆れた様子のシュテンを横目に魔術を発動させる。


 時空魔術【転移門(ゲート)


 開けた場所に、時空を穿って、裂け目をつくる。それを安定させ、門として成立させる。後ろから見ても何もないが、正面から見れば、向こうの景色が全く違うものとなっていた。

 理論としては、二次元上で考えるとわかりやすい。紙を二つに折って、穴を開けた。この穴が【転移門】である。


「【転移門】か……なんしのことだから、【転移陣(テレポート)】を使うかと思っておったわ……」

「失礼な奴だな。あれは、道を繋げるタイプだから、安定性に欠けるだろうが。そりゃ、大人数の移動には、【転移陣】のほうが楽だが」


 シュテンの言う【転移陣】は、三つある空間移動魔術の二つ目だ。【転移門】が安定させるために、出入り口をなるべく、狭くするのに対して、【転移陣】は指定座標の間に、空間外の道をつくり、瞬時に移動させる魔術である。そのため、大人数の移動に適してはいるが、急ぎでもない限りはあまり行使しない。空間外が認識の外であるため、はっきりとしたことが分からず、失敗しやすいのだ。

 ついでに、三つ目は【瞬間移動(ワープ)】である。非連続の時空を同位させ、移動する。つまり、時間が経過せず、真に瞬間で移動する。基本的には、個人で使う魔術で、複数対象でやると制御を十中八九誤る。戦闘用である。


「準備が出来次第。向こう側に行ってくれ。門番には、すでに連絡してあるから」

「わかった」


 俺の言葉に、シュテンは素直に頷き、同胞たちに指示を出す。そして、続々と人蜘蛛(アラクネ)たちが【転移門】に入っていった。まだ、小さい子供もいて、親の蜘蛛の背に乗っていた。

 

「ではな。なんしらの追っている連中のところに、同胞がいたら助けとくれ」

「あぁ、わかった」「はい、任せてください」


 シュテンが、最後にそう言って【転移門】を通っていった。居残りがないのを確認して、門を閉じる。


「……」

「どうした、ジャック?」


 ある一点を睨む俺に気付いて、イジネが問い掛けてくるが、それには答えず、夜刀姫(ヤトノヒメ)を構え、魔法を行使する。


 血魔法【鉄血の乙女(アイアンメイデン)


 夜刀姫から溢れた俺の血が、有刺鉄線の姿を取り、対象に向けて伸ばされる。対象は驚愕に固まり、抵抗もなく、捕まった。こちらに手繰り寄せ、乙女の姿を形取る棺桶に閉じ込める。


「……それは蝙蝠か?」


 棺桶の小窓から、中を覗き、イジネが確認してくる。


吸血蝙蝠(アルプ・バット)だ。吸血鬼(ヴァンパイア)の眷属だな。俺たちが森に入った時から、いた」

「……シュテンたちを襲ったのも、吸血鬼ということになるのか?」

「だろうな。そら来るぞ、相手はどうやらプライドが高いらしい。繋がりを切るよりも、こちらを倒すことにしたようだ」


「グラァ!」


 俺の言葉と同時、赤い目をした狼の群れが俺たちに襲いかかる。俺もイジネも余裕を持って躱す。


『個体名:No Name Lv.13

 分類:魔獣(ビースト)

 種族:吸血狼(アルプ・ウルフ)     』


『吸血狼:吸血鬼の眷属となった狼。再生能力を持ち、闇のチカラを操る。』


 ふむ、大した強さではないな。


「ふっ!」


 俺が吸血狼を調べてる間に、イジネが細剣(レイピア)を突き出していた。狙い違わず、その(きっさき)は吸血狼の眉間に吸い込まれた。再生能力を持つとは言え、生物の範疇である吸血狼は、それで絶命した。それを確認し、イジネは次の標的に踏み込んだ。


 俺も再び、襲いかかってきた奴らの首を斬り落としていった。横目に、確認したがイジネも危なげなく対処していた。


 瞬く間に、吸血狼の群れを駆除し終わると、俺は捕まえた吸血蝙蝠のもとに足を向けた。


 血魔法【血脈追跡】


 血の継承を辿って、様々な情報を取得する魔法。

 まず、見えたのは金髪で高飛車そうな女。これがこの蝙蝠の主人か。さらに、その先を見ようと魔力を増やそうとしたところで、眷属の繋がりが断たれた。


 流石に、気付くか。


「ジャック?」

「繋がりが断たれた。情報は、この蝙蝠の主人がカルロッタと言う名前の吸血鬼ということくらいだ」

「カルロッタ……知らない名だ。最近、生まれたか、表に出てくるのを嫌う性格の吸血鬼なのだろう」


 冷静なように見えるが、イジネの拳は握り込まれていた。かける言葉はない。しばらく、そっとしておくことにした。


 ……。


「クソが!役立たずどもめ!」

「荒れてるな、カルロッタ」


 黒曜の城にある一室。そこに、二人の吸血鬼がいた。


「……あら、乙女の部屋に入るのなら、ノックくらいしてくださらない、ダロガ?主様じゃないんだから」

「ノックはしたとも、お前が気づかなかっただけだ。それでどうした?」

「人蜘蛛の群れを見つけたのだけれど、邪魔されたわ。吸血鬼と森妖精の二人組にね」


 怒りを隠すこともなく、笑みを浮かべてカルロッタが言った。部屋の扉の前で、腕を組んで佇んでいたダロガは、それを聞いて片眉を上げる。


「どんな組み合わせだ、それは。まぁ、良い。主の呼び出しだ。そこで報告しろ」

「あら、それを早く言ってよ。お粧ししなくちゃ」


 自分たちの主人の呼び出しと聞いて、カルロッタが機嫌良く立ち上がり、部屋の中にある衣装棚を開ける。そこで、未だ留まるダロガに向かって叫んだ。


「ちょっと!乙女の着替えを覗かないでくれる!」

「……はぁ。速やかに、集合だからな」

「わかってるわよ」


 それ以上、言葉はなく、ダロガは大人しく部屋を出ていった。後に残ったのは、鼻唄まじりで、粧し込むカルロッタだけだった。

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