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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第二章 王国と大森林
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辺境伯カラグ

 コプロのおっさんと話をつけて、数日。協力者とも面会し、魔術で真意を調べ、大丈夫だと判断している。

 冒険者の活動も行い、今は銀級となっている。違法奴隷解放を目的としているので、金級昇格試験は保留。雑用依頼も受け、街の住民とは顔見知り、多少のことなら良い方に解釈してくれるだろう。


 等級の上がり方は、歴代最速ではないが、才能のある奴だと言うことがわかる程度の速さだというのは、他の冒険者から聞いた。街の住民も噂するとなると、辺境伯も気にかける。


 そんなわけで、俺は辺境伯の屋敷に本日、お呼ばれしていた。カーラとセイは留守番。街の屋台巡りでもしているのではないだろうか。


 金糸で刺繍された赤いソファーに腰掛ける。待合室というか、応接間である。正面には、似たようなソファーとその間に黒檀の机。足元には、幾何学模様の刺繍がされた赤茶色を基本とした絨毯。ソファーに腰掛けたときの正面の壁には、どこかの草原を描いた絵画が飾ってあった。


 コンコン


「どうぞ」


 そう言いながら、立ち上がる。

 一応、客人である俺を無下にはしないだろうが、さて、どんな奴だ?


 カチャ


 扉が開き、スタスタと正面に立つ男。銀髪のオールバック、眼光は狼のように獰猛そうだ。高身長で、肉体は引き締まっている。貴族というよりも、ヤクザの組長のような印象を受ける。


「はじめましてだね。私が、ここシャバニア辺境伯領を治めるカラグ・ダルタニアン=シャバニアだ」


 見た目に反して、物腰は柔らかい。愛想笑いも浮かべている。


「ええ、はじめまして。私は、ジャック・ネームレス。しがない、冒険者です」


 礼儀など学ぶ機会のない冒険者ならば、この程度のやり取りで、驚愕されてもおかしくはない。だが、カラグが驚いた様子はない。しかし、変化がないわけではない。その目は、品定めするように、細められていた。


「まぁ、座りたまえ。あぁ、お茶がまだのようだね。エルバ、持ってきなさい」

「畏まりました」


 特におかしなやりとりではない。待たされた時間は、三十秒ほど。これで格の違いをわからせるため、お茶も出さずに待たせたというのは、言いがかりでしかないだろう。

 エルバがすぐに、お茶を持ってきた。その茶器は銀製。これも別段、おかしなことではない。銀が高価な素材である以上、貴族としてワンセットくらいは持っているだろう。陶器は、帝国の特産品だからこんな辺境には、滅多に出回らないことも理由の一つか。


「どうぞ」


 エルバが、まず、俺にお茶を差し出す。あくまで俺は冒険者、本来なら、主人に先に差し出すべきだ。


「良い香りだろう。法皇国でのみ、栽培されている茶葉だ。さぁ、冷めないうちに一口」


 カラグの前にも、お茶を差し出し、エルバは部屋から退出した。この部屋には、俺とカラグのみ。カラグは、相変わらずの愛想笑いで、お茶を勧めてきた。


 精霊魔術(シャーマニズム)風霊(シルフ)()悪戯(トリック)


 防音の結界を張り、笑みを消す。


「聖水とは、ご挨拶だな。俺が気づかないと思ったのか?あんた、人狼(ルー・ガルー)だろ?」


 俺の言葉に、カラグが真顔となる。


「そう言うあんたは、吸血鬼(ヴァンパイア)だな?心音がない」


 なるほど、心音がないか。超再生をするときは、血のチカラを送るために動くんだが、平常時は必要ないからなぁ。

 バレた理由を思いながら、聖水で入れられたお茶を一口飲む。


「な!?」


 それにカラグは驚愕の表情を見せた。


「あぁ、大丈夫だ。俺は吸血鬼だが、新種でな。正の魔力も宿している」


 それを聞いて、カラグの浮かべた表情は引き攣った笑み。正の魔力を宿すということは、強大なチカラを宿す吸血鬼から弱点が消えたということだ。当然の反応だろう。


 そんなカラグを真理眼(イデア)で確認すれば、こうだ。


『個体名:カラグ・ダルタニアン=シャバニア Lv.26

 分類:亜人(デミ・ヒューマ)

 種族:人狼                  』


『人狼:魔力の影響を受けた雄狼が、人並みの知能を手に入れ、人の姿を持った魔化物(モンスター)。人に紛れ、夜な夜な、人狩りをして生きる。稀に、人と同じ生活をして、生きる者がいる。』


 おそらく、カラグは稀な者だろう。

 屋敷の者たちのほとんどが、男は人狼、女は魔女(ウィッチ)だった。カラグの群れということになるのか。ちなみに、魔女は雌狼が変化した者だ。


「さて、カラグ」


 強さを重んじるのが、魔化物という者。俺やカラグのように、人に近い価値観を有していても、魔化物同士ならば、そのルールが顔を出す。

 俺はわざと、偉そうにソファーに凭れ掛かる。


「俺が上だな」

 

 その言葉を聞いて、カラグはやはり、引き攣った笑み。だが、俺の強さは理解しているはずだ。それは、先程のお茶を差し出す順番に表れている。

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