小鬼退治
目の前には、自然にできたのだろう穴。その周りに立つ二匹の醜悪な生き物。肌は緑色で、イボだらけ、背丈は人間の子供ほど。
真理眼。
『個体名:No Name Lv.4
分類:妖鬼
種族:小鬼 』
『小鬼:魔力溜まりから発生する魔化物。狡賢く、奇襲を得意とする。大したチカラは無いが、混血が可能な人間の女を攫って、数を増やす。』
二匹の強さに大差はなかった。
冒険者登録完了後、早速とばかりに依頼を受けたのが、大森林とは別の森で確認された小鬼退治だった。あの騒動で、俺の強さは実証済みということで、特に警告はされなかった。
「小鬼って、なんであんな醜悪なんでしょうか?」
カーラの脳天気な疑問には答えず、今まで忘れていたことを確認する。
「そういや、お前って戦えるのか?」
「へ?言ってませんでしたっけ?私、こう見えても、拳闘士の端くれですよ」
こいつ、この見た目で徒手空拳なのか。
「あっ、でも、小鬼を素手で触るのとか、いや、なんで。お兄さんにお任せします」
カーラは笑顔で言い切った。こう言われると、放り込みたくなるのが、人の性。
「じゃあ、お前、今から向こうに投げるな」
「えっ!?冗談ですよね!え、ちょ、なんで!?いつの間にか、持ち上げられてるぅ!?いや、待って、お兄さん!なんで、今回、私、余計なこと言ってないですよね!?」
「悪いな、俺の性癖は、鬼畜なんだ」
「そんな、なんて理不尽!?」
「そりゃあ!」
カーラのドン引き顔を見ながら、良い笑みで実際に投げる。
「イヤァアア!!!」
絹を裂くような悲鳴が響き渡り、小鬼たちはそちらに顔を向け、呆けた。
「こんのぉ!」
吹っ切れたか、体勢を立て直したカーラが、足から小鬼に突っ込み、蹴りをお見舞いしていた。小鬼の首からは、嫌な音がなり、折れたことがわかる。
見事に着地したカーラはそのまま、隣の小鬼に肉薄。やはり、触るのは嫌なのか、足払いをかけ、地面と接吻する羽目になった小鬼の顔を容赦なく、踏み潰した。
「ギ……」
断末魔はか細く、小鬼たちは何が起こったか、把握できていたのだろうか?
「お兄さん、なんてことするんですか!私は変態じゃあないんですよ!」
「良いじゃないか、別に。大した問題にはならなかったんだから」
抗議の声を上げるカーラだが、俺の飄々とした態度に無意味を悟ったか、頬を膨らませるだけとなった。
「チッ!」
カーラの態度をニヤニヤと眺めていれば、セイが警告の一鳴き。
さっきの騒動で、気づいたか、巣穴から多くの気配が近づいてきていた。カーラもそれを察したか、俺の側に来る。
「後は、お兄さんがしてくださいね」
「そうだな、この数を素手でやらせるのは流石になぁ」
そうやって、悠長に構えていれば、巣穴から出てきたのは、他の小鬼よりも一回り大きい個体。錆びた剣を握っていた。
『個体名:No Name Lv.12
分類:亜人
種族:悪鬼 』
『悪鬼:小鬼が進化した魔化物。小鬼よりも強いが、ある程度の経験があれば、脅威ではない。問題は、それなりの数の配下とともに襲いかかってくること。』
なるほど。確かに、脅威ではないな。
他には、杖らしき棒切れを持った小鬼の魔術師や頭になんらかの獣の頭蓋骨を被った小鬼の首長などの派生種もいる。
「ふむ、結構な群れだな」
「そうですね、お兄さんが依頼受けなかったら、駆け出し冒険者たちが何人か犠牲になったかもですねぇ。まぁ、まだ王は生まれてないようなので、運の良い人なら、それなりの功績とともに帰還できるとは思いますが」
カーラと雑談しつつ、魔力を集中する。一応、延焼なんかを考慮して、使う魔術を決める。
精霊魔術【風刃】
精霊に魔力を捧げ、現象を操る精霊魔術。その基本的な攻撃魔術の一つ。
圧縮され、激しく渦巻くことで風の刃を形成し、それを対象に放つことで斬り殺す。在野の魔術師ならば、一体を屠ると込めた魔力が四散し、その魔術が終了する。
しかし、俺の魔力ならば、そんな面倒なことにはならない。一体、また、一体と【風刃】は次々に小鬼の群れを斬り殺す。たった十秒ほどですべての小鬼の首と胴が斬り離された。
「おぉ、グロいです。討伐証明は耳でしたっけ?」
「あぁ、右耳だ。それでわかるらしい」
聞きながら、小鬼の死体に近づき、カーラが耳を切り取っていく。俺も参加し、セイは耳のなくなった小鬼の死体を齧ってみて、不味かったのか、自分の口内に【浄化】をかけていた。
……何やってんだ、お前。
その後、巣穴の中を探索。生存者はおらず、すでに生き絶えた女性ばかりだったので、身元確認に役立たそうな物を回収して、遺髪を取り、【鎮魂火】で弔った。
……。
帰還後、小鬼の耳、遺留品と遺髪を冒険者協会に提出。悪鬼の討伐を確認したため、銅級に昇格。報酬を受け取り、宿に戻った。




