足を踏み出した
軽い金属音を響かせて、片方の武器が宙を舞った。物悲しげに無機質な音を鳴らして、地面に墜落する。
「まだ、やるか?」
「いえ、ありがとうございました」
「おうよ。こっちも楽しかったぜ」
アトリンテとイジネの試合は、アトリンテの勝利に終わった。
評価としては、イジネは白金級に納まることとなる。
……
「ほら、こいつが挑戦許可証だ。で、こっちが神鉄の会員証だよ」
会長室なるものに移動し、早速、用事のある物を受け取った。
「『バベル』の情報はあるか?」
「さて、ここ何年も挑戦者は現れていなかったからなぁ。古いのばっかだ。アタシは、迷宮よりも強敵を追っかける派で、中に入ったことはないしなぁ」
なにやら、そのまま昔語りが始まってしまった。しかし、そばに控えていた受付嬢、いや、秘書だな。秘書さんが、資料を持って来てくれた。
アトリンテについては、マサミチたちに任せて、俺は資料に目を通す。
ふむ……大半が魔像系。罠の類は、仕掛け矢、槍、落とし穴、鉄球などなど、まぁ、定番と言えば、定番なところ、か。
秘書さんの淹れてくれたお茶を飲みつつ、ゆっくりと情報を整理した。
……
翌日。アトリンテが、というか、秘書さんが手配した宿の一室で目が覚めた。
隣のマサミチを叩き起こし、朝の鍛錬をやらせる。途中、アトリンテも参加して来て、マサミチには地獄だったろう。
備え付けのシャワールームで、汗を流し、イジネたちと合流。朝食を終え、協会の方へと向かう。
協会の建物は、それ自体が『バベル』への関所であり、この中の奥に『バベル』の入り口があった。
厳重に封をされた鉄扉の先、天使の姿が彫られた石製の門扉がこちらを見下ろす。
「おぉぉ……」
「……」
マサミチとイジネが圧倒されたように、半歩下がる。セイはイルに抱かれて眠っていた。
「行くぞ、気を引き締めろ」
「は、はい!」
マサミチの様子を観察しながら、俺たちは世界最大の迷宮『バベル』に足を踏み入れた。
……
ジャックたちが、『バベル』に足を踏み入れてから少し。
アトリンテは、自身の本能がなんらかの気配を感じ取ったのがわかった。
すぐさま、斧槍を持って、一階へと駆け下りた。
「会長、どうされました?」
ちょうど近くにいた職員が問い掛けた。だが、それに答える間はなかった。
受付の机を跳び越え、スイングドアから姿の霞む速度で侵入した狼藉者を迎え撃った。
ギッイィン!!
辺り一帯に響く激しい金属の衝突音。屯していた冒険者たちが瞬時に、戦闘態勢を整える。すでに、等級の低い者は、職員の避難を誘導し始めていた。
ここは冒険者協会総本部。一番弱い者で、金級なのだから、荒事には慣れているし、今回のような切迫した雰囲気もまた、大なり小なり経験済みだ。
内心、その様子に笑みを浮かべたい衝動を抑え、アトリンテは狼藉者に鋭い目を向ける。
龍人だ。だが、その瞳は紅く輝き、否応なしにその正体を悟らせる。
「テメェ!吸血鬼だな!!昼間から出て来てんじゃねぇ!」
咆哮しながら、アトリンテは斧槍を振り切った。相手は特に抵抗なく、吹き飛ぶ、否、僅かに浮遊した。ゆっくりと着地して、目深に被っていたフードを外した。
「『猛女』アトリンテか、いつもならば、じっくりと相手をできるのだが、今回は命令優先だ。押し通る」
「へっ!アタシに勝とうなんざ、百年ほど早いな!若造!」
「吸血龍騎ダロガ、参る」
両腕に真紅の爪甲を嵌めた男が動く。
それに合わせて、当然、アトリンテも足を踏み出した。
注目は当然、彼らの戦いに集まり、『バベル』へと続く扉を潜った影には誰も気づくことはなかった。
改めて、宣言します。私の作品は不定期更新です。(キリッ)
次からは、何時に投稿されるか、も不定期だと思ってください、はい。
まぁ、ちょっとリアルの方に集中すべきことがありまして。
未だ、コロナが治まる様子はありませんが、皆さん体調にお気をつけてお過ごし下さい。
私は、体力が手遅れです。外出たくねぇ……




