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屍は黙考する  作者: 龍崎 明
第四章 勇者と神子と神匠と
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冒険者協会 会長

 数日の旅程は順調に進み、俺たちは自由都市リベラルへと辿り着いた。


 まず、視界に映るのは、天を貫くように聳り立つ巨塔。これこそが、今回の目的である迷宮。天空へと続く塔『バベル』であった。

 『バベル』は、自然発生する通常の迷宮とは異なり、天父神エル自らが生み出した人類への試練とされるが、そのような神託があるわけでもなく、その発生時期も不明。一説には、世界の始まりよりあったとされ、記録に残る限りはすでにその存在はあった。

 しかし、不確かながらも、自然発生でないことが断定される理由はある。他の迷宮と違って、この迷宮に生息する魔化物が外へと出て来ることがないのである。そのため、リベラルは『バベル』を中心とした構造をしている。その入り口には、門番代わりに、冒険者協会の総本部が建設されていた。


 俺たちがまず、向かったのはその冒険者協会である。

 この時代にあっては珍しい五階建ての木造建築。冒険者協会発足よりも昔、魔術王の時代に建てられたのだとされる遺物だ。冒険者協会は知っての通り、世界規模の戦争の終結後、四大国の取り決めによって発足した、傭兵の受け入れ先なわけだが、この建物を使っていた冒険者協会の前身とも呼べる組織は存在した。


 探索者(シーカーズ)()血盟(クラン)


 『バベル』を探索することを生業とした集団だ。その性質上、リベラル以外に拠点を持ってはいなかったが、『バベル』探索によって培われた技術は、他の迷宮探索にも有用で、外部からの迷宮探索依頼も舞い込んでいたらしい。

 その評価は高く、よって冒険者協会発足にあたって四大国は、血盟に外部委託のような形で丸投げした。その要求を見事にこなし、今や冒険者協会は超国家組織として成立しているわけだ。


 そんな歴史ある建築の扉ですら、由緒正しい西部劇風のスイングドアだった。もしくは、こっちが本家なのかもしれないが。


 俺たちは、それを軋ませながら中へと足を踏み入れた。

 総本部に入り浸っているのだろう連中の鋭い視線が突き刺さる。ここにいるのは、最低でも、金級の冒険者。マサミチやイルは、怯んだような反応を見せた。だが、絡まれるようなことはない。


「行くぞ」

「は、はい!」


 マサミチに声を掛ければ、頼りない返答があった。それを気にすることはなく、俺は受付の方へと進む。


 同じ側の手と足が同時に動いてしまっている勇者に、イルが蹴りを入れていた。

 それをイジネが宥めながら、三人は俺の後をついて来る。


「ようこそいらっしゃいました、『月下の魔剣士』ジャック・ネームレス様」


 受付にたどり着けば、妙齢の受付嬢が淀みなく、挨拶した。


「それ、人違いだったら、恥ずかしいセリフだな」

「間違えることはあり得ませんので」


 表情を変えることなく、俺のからかいに対応した。


「流石、総本部勤めと言っておこう。今回の用件はこれだ」

「ありがとうございます」


 褒め言葉に、笑顔で礼を述べながら、俺の手渡した書状を受け取る受付嬢。

 書状は、法皇国で託された諸々の事情が認められた代物だ。四大国の連名書状でこの世界の人類圏では、まず逆らうことのできないチカラがある。


「少々、お待ち下さい。会長(グランドマスター)に話を通して来ます」


 そう言って、席を立つ受付嬢を見送り、そして、上階からの気配に呼び止めた。


「あちらさんから、来るようだぞ」

「えっ?」


 優秀とは言っても、戦闘員ではない受付嬢は戸惑いの声を上げる。しかし、彼女が言葉を返すことはなく、すぐに納得の表情を浮かべた。


 受付の職員側の奥にある階段からヌッと巨体を現したのは、女性だった。その気配は、静かなる猛獣のそれ。荒々しく伸ばされた黄金色の髪はそれでも輝かしく艶を放ち、吊り上がった赤銅色の綺麗な宝石のような瞳が強くこちらを睨んでいる。彫りの深く、荒々しくも美しい容貌もさることながら、その躯体は、しなやかで頑強な筋肉に覆われながらも、黄金律に整えられたスタイルを持ち、それを惜しげもなく曝け出す紅のビキニアーマーを纏っている。布地は背に広がった土色のマントの他は、ないも同然だ。その後腰には、剛弓とそれに番える剛矢を収めた矢筒があった。


「会長だ……」

「マジかよ……」

「なんか、怒ってねぇか?」

「馬鹿言え、いつものことだろ」

「よせ、オマエらの死に際になんぞ遭いたかねぇ」


 好き勝手に屯した冒険者が囁き合い、組織のトップの登場に職員が面食らったように動きを止めたり、尻餅をついたりした。


 その様子を気にも留めず、会長は俺たちの元にたどり着く。


「どうぞ、会長」


 一人、動揺した様子のなかった受付嬢が手に持った書状を会長に手渡す。それを受け取り、中身をざっくりと読んだ様子の後、受付嬢に突き返す。受付嬢は、それを当たり前のように受け取った。


「……アタシはアトリンテ・ペンテスラーナだ。冒険者協会の会長をやっている。それで、どいつが勇者だい?」


 期待を裏切らないハスキーボイスで、会長アトリンテが問い掛ける。


「ぼ、僕が!勇者、です……」


 マサミチが意を決して、名乗り出るも、アトリンテに睨まれ、語尾が萎んだ。


「ふむ……金級ってところか。テメェは、神鉄級でも良さげだな」


 勇者に辛辣な評価を下し、アトリンテは興味を失ったようで、今度は俺を睨んでそんな評価を下した。


「それで、『バベル』への挑戦はどうなる?」


 俺の態度を面白がってか、アトリンテの口角が吊り上がる。


「『バベル』への挑戦は原則、霊銀級以上の冒険者が一名、残りのメンバーも金級以上である必要がある。勇者とそっちの嬢ちゃんは事情が事情だから特例にしてもいいが、テメェとそっちの森妖精は実力を実際に示せ。そんで、特例で実力に見合った等級に昇格させてやる」


 多分に趣味も兼ねていそうな提案に、俺たちは頷くより他になかった。

 俺の等級は白金級、イジネに至ってはほとんど登録だけのような状態で銅級でしかなかった。冒険者協会にとって、マサミチとイルは冒険者ではないから特例が利くが、俺たちは冒険者であるために、特例をつくるのはなるべく控えたいことであり、そのトップがこう言う以上、どれだけ駄々をこねようと覆ることのない話だったのだ。


 めんどくせぇ。


「それで、試験官は?」


 ほぼ確定している答えのその問いかけに、アトリンテは豪快な笑みでもって答えた。


「喜べ!もちろん、アタシさ!元神鉄級冒険者の誇りに掛けて、アンタらの実力を測らせてもらおう!」


 それは紛うことなき戦闘狂の声音だった。

アトリンテさんは、人間ですよ?ゴリラって言っちゃ……ゴハッ!?


アトリンテ「なんか言ったか、テメェ?」


い、いえ……ドハッ!?


「嘘つけ!アタシのこと、ゴリラ呼ばわりしやがっただろう!」


ひっ、ごめんな……ベバッ!?


ジャック「何やってんだ、こいつ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王討伐が主目的の物語?
2021/02/06 17:59 退会済み
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