↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/20

小話 ある日の愛と罪

私はロアンソの家を訪れていた。特に目的はない。なんとなく、城にこもっていてもやることがないだけだ。今、城ではノストラが子供たちの指揮をとってくれている。……いつも私はそんなことをやっていないから、正直指揮はノストラの方が上手だ。もっと始祖として精進しなければ。そう思いつつ、ロアンソの家まで歩く。丈の高い草をかき分けて、町はずれの木造の家屋へと。

そうやってたどり着いた彼女の家は、いつもと変わりなかった。おそらく居るだろう。ドアについた窓から中を覗けば、靴が置かれている。いつも、ロアンソが履いているブーツだ。動きやすそうではない。が、丈夫だから愛用しているんだそうだ。

ロアンソに姿を見せる前に、やはり身なりは整えておきたいと思い、懐から手鏡を取り出した。うむ、やはり私は美しい。さっさっと黄金の髪を横にかき分け、顔に汚れなどが一切ついておらず、また、透き通るような肌艶が維持されていることを確かめる。服装も人間の店でしっかりと選び、浮かないようにした。準備は完了だろう。

「お〜い、ロアンソ。私が来たぞ。入れてくれないか?」

大声で彼女を呼ぶ。すると、家の奥の方から軽やかな足音が聞こえてきた。そして、扉が開かれる。軋む音を立てながら開いた扉の向こうには、いつもと変わらぬロアンソがいた。しかし、どうも今日はハンター服でないらしい。銀髪を後ろでまとめ、なんと言ったらいいのかよくわからない、こう…ふわふわっとした感じのシャツと、紺色のジーンズを履いていた。

「やあ、サンソン。入っていいよ。……服装、どうしたんだ?」

「私もそう言いたい。ロアンソも、なかなか似合っているではないか。」

「まあ、ね。いつもあんな服装だと、変に癖がついちゃうというか……。いや、私の服装はもういいとして、サンソン、君の服こそなんだ、その……街の裏路地で売られているような、色々じゃらじゃらついた服装は。いつもの君なら、もっとシンプルなコートとかだったろ?似合ってるけれども。」

私たちはお互いに困惑しながらも、まあ似合っているのでいいかという結論に達し、家に入った。いつものとおり、柑橘系の匂いが漂っている。しっかりと靴は脱いだ。

「にしても君、こんな遅い時間に尋ねてくるなんて、初めましての時以来じゃないか?泊まってく?」

「もちろん。ちゃんと家族には言ってきた。」

「じゃあ良いよ。泊めてあげる。いや、泊まっていけ。」

外はもうすっかり暗い。太陽はもう地平線の向こう側へと傾いている。紙一枚ほどの太陽の残火が、まだ窓から差し込んでいた。そろそろカンテラをつける時間かな、とロアンソは呟き、棚の上にあった油の入った瓶に火をつけた。部屋が少し明るくなる。

「……なんだか落ち着くな、ここは。」

「そう言ってくれて嬉しいよ。いつでも私は君を招いているからね。」

「ではいつでも来よう。私が会いたくなったら、すぐにロアンソのところへ行くぞ。」


夜は深くなっていく。日は完全に沈み、街はもう寝静まった。何もない静けさと、乾いた空気の涼しさとで、だんだんと体から力が抜けていく。ロアンソと一緒に床へ寝転がった。

「……知ってるか?東方の辺国からものすごく酸っぱい香辛料がやってきたらしい。その名も、デラスッパ。」

「もう少し名前なんとかならなかったのか。」

そう、くだらない会話を続けていた。時には、この暗闇に会話を任せることもあったが、全くもって苦痛ではなかった。むしろ、お互いの存在を感じ、自然と心は温まっていった。

「……そろそろ、寝た方がいいかもな。はい、起きろ起きろ。」

「わかった。では、おやすみ。」

「ん?何来客用の方へ向かおうとしてるんだ。君は私と一緒に寝るんだぞ?」

そろそろというので、ロアンソにおやすみを言った瞬間、私は突然の言葉に耳を疑った。聞き間違いか。いや、私の耳はとてもいい。一言一句違わず、人間の言葉は聞き取れる。なら、頭の方を疑うべきか。そう思考しているうちに、ロアンソの手が私を寝室へ引っ張っていった。

「待て。なぜだ。」

「嫌か?」

「断じて嫌ではない。」

「ならいいじゃないか。」

この胸の形容しがたいもやつきはなんだろう。今は考えても答えは出そうにないが、明日にはわかっていることだろう。手を引かれ、暗い寝室へと足を踏み入れる。どさりとロアンソはベッドに腰掛けた。とんとん、と自らの右横を叩き、私に座れっと言っている。そして、彼女は笑った。私も、笑った。彼女の横に座り、体を預けた。お互いの姿は、暗闇の中。だが、しっかりとそこにある。

「……夜は長いぞ。」

「付き合えって言ったのは私だろ?なら、私がダメでどうするんだよ。大丈夫、朝までずっと動ける体力はあるよ。いつもの仕事で鍛わったからね。」

少し語弊が生まれるような言い方だが……まあ間違ったことは言ってないか。吸血鬼ハンターたるもの、朝日が昇るまで全力で戦い続けるのはありふれたことだ。


夜は静かに過ぎていった。ただ、溶けていくような愛を見守りながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。