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Ifルート 溶け落ちる静寂の罪

これは「血によって繋がれた鎖と罪」のIfです。もし、アーカルドがロアンソに正体を早く明かし、ロアンソがそれを受け入れてくれたら、という話です。このルートは本当に幸せにするつもりなので、どうか最後までお読みください。一部、アーカルドはノストラを失ってたり、ロアンソは若干人間辞めかけてますが、それは正常なルートです。ああ、離れないで!あ、ついでに言っておきますとロアンソがヤンデレ化してm

 私は吸血鬼としての生も、一族の長としての義務も何もかもを捨ててしまった。だが、私には残ったものがある。鏡の騎士という名と、愛する人、ロアンソ。彼女は吸血鬼ハンターだったが、私のため、その職を捨ててまで、共に暮らしてくれるというのだ。一体いつのまにそこまで愛されていたのだろう。むしろ、私こそ全てを捨ててロアンソの方に転がり込み、吸血鬼ハンターかつ騎士として暮らしていっても良かったのだが、どうやら街中などに私を置いておきたくないらしい。人の目に触れるのが嫌だから、だそうだ。確かに、バレると色々まずいものな。

 だが、ノストラは出て行ってしまった。ロアンソを我が城に迎え入れると共に、ノストラは我が眷属を全て連れて去って行ってしまった。その時の軽蔑の目線は、今でも忘れない。私が人間を招き入れると言った時、彼女は酷く動揺した。何故そんなことをするのかと、どういう気の触れ方をしたのだと。私は一切譲らなかった。ロアンソが私を受け入れてくれたのだから、それを逃す手はないと、熱弁した。それを聞いて、ため息ひとつこぼさず、私の玉座の間を出て行った。初めは納得したのだな、と思っていたが、そうではなかった。我が眷属総出で城を出て行ってしまったのだ。まあ、私としても吸血鬼の多く住まう城にロアンソを迎えたくなかったから、それはそれで良かったのだが。

 私が城にロアンソを招き入れて数日間は、ロアンソが慣れない城で迷子になったり、いろいろ漁りすぎてヤバいものが露呈したりと実にスリリングな日々だった。特に、地下倉庫の保存用血液を見られたときはどうしようかとも思った。いや、それは眷属たちが必要だったものなんだ、だから私は関係ないと言い訳をしたが、ロアンソは全く違う答えを返した。もし血が吸いたくなったのなら、私にしてね、と。訳を聞いたら、好きなもの同士は血の契りを交わすものだそうだ。そういえば、私が買った本にもそのような記述があったものもある。それは確か恋愛ものだったような気がするから………正しいのだろう。人間のことを知る上では、私よりもロアンソの方が詳しいからだ。


 それからというもの、私たちの生活は奇妙なほど穏やかなものになった。今までのように血を求め彷徨うこともなく、人を害す者たちを探し出し制裁を加える必要もない。そんな激しさのない生活になった。

 さて、城の外れにある中庭は、かつては観賞用の庭園にしていたが、今ではその面影はほとんど残っていない。代わりに、土が耕され、小さな苗がいくつも並んでいる。ロアンソが作った、家庭菜園だ。私が昔植えた花とかは、全て別の場所に移されたらしい。仕事が早い。一体いつこんな重労働をこなしたのか、私には皆目見当もつかなかった。

「今日は、これを収穫しよう。」

 そう言って彼女が引き抜いたのは、形の整った根菜だった。土のついたそれを嬉しそうに掲げる姿は、かつて吸血鬼ハンターとして剣を振るっていた人物と同一とは思えない。まるで一農家の田舎娘のようだった。………元々はそうだったのかもしれない。やっぱり、そのような教育は受けているだろう。そうでなければ私が知らないような農業の知識など備えているはずがない。一応、私だって学問系の本は読んできたのだ。時代に遅れないように。それなのに、いや、やっぱりやめだ。自尊心が傷つく。それはそうとして、野菜が実に見事な出来栄えなので、それを誉めずにはいられなかった。その選択肢以外はなかった。

「見事だな。」

「だろ?ちゃんと世話をすれば、ちゃんと応えてくれるんだよ。」

 彼女はそう言って微笑む。その言葉は、野菜に向けたもののようでいて、どこか別の意味も含んでいるように感じられた。気のせいであってほしいものだ。もしその向けられた対象が私とかだったら、今まで浮かれた気分だった私が馬鹿みたいじゃないか。いや、もうそれでもいいかもしれない。彼女の期待に応えられている、と思ってくれているのなら。

 で、私は土に触れることはほとんどない。前にも言ったように、さっぱり知識がなく、ちょっと弄ろうとするとすぐ横からロアンソの指摘が入るのだ。そこ違う、だの、水あげすぎ、だの。耳が痛くなったので辞めた。だが、彼女の隣に立ち、ただそれを眺めている時間は、不思議と退屈ではなかった。せっせと野菜を育てる健気な姿は、言葉では言い表しづらいが、なんというか胸がぎゅってなる。もちろん、好意でだ。やりきれない愛しさで胸が痛む。そうロアンソを見つめていると、何やってるの?という質問が出た。もちろん、ロアンソを見ているんだ、ずっとな、と答えたら、えっなんで、と言われた。その時の顔は胸が別の要因でずきんとする原因になった。


 肉は、近くの森から調達する。狩りは主にロアンソが行う。私がやろうとすると、彼女は決まって首を横に振った。

「だめ。あなたはあまり外に出ないで。」

「なぜだ?」

「……見られたらまずいから。」

 静かな声音だったが、有無を言わせぬ響きがあった。この辺りの地区の吸血鬼は全ていなくなってしまったから、吸血鬼ハンターはもう来ないぞ、多分と言ってみたが、それでも譲らなかった。一体どうしてなのだろう。

 結局、私は城の門の内側で彼女の帰りを待つことになる。夕暮れ時、血の匂いではなく、獣の匂いを纏って戻ってくる彼女を迎えるのが、いつしか日課となっていた。今日は、遠くからでもたいそうな大物をとってきたことが予測できた。

「今日は鹿。かなり大きい個体だったから、結構狩りに行かなくてもいいかも。」

「そうか。良かったな。」

「ええ。だから、褒めて。」

 冗談めかした口調で言いながらも、彼女の視線は真っ直ぐだった。私はロアンソと生活してみてわかったことがある。想像以上に、ロアンソはめんどくさい女だ。そして、この顔の時は何かしてやらんと非常にまずい。色々と。私は少し考え、特に捻ったものが思いつかなかったので、普遍的な賞賛の言葉を言う。

「よくやった、ロアンソ。」

 その一言で、彼女は満足そうに笑う。それが、私にはどうしようもなく愛おしかった。だから私は追加で頭を撫でた。若干眉が顰められたが、それでもちょっとしたら満面の笑みになった。


 いつでも城は静かになった。しかし、夜となるとその静けさがより色濃く出る。かつては吸血鬼たちで満たされていた空間。いまではそれら全ていなくなり、空白が残っている。私たち二人では到底使いきれないほどの広い空間だ。だが、その静けさは嫌いではなかった。

 大広間の暖炉の前で、ロアンソはよく本を読む。私がかつて手にしたような、騎士の物語だ。いや、この城にあるのは全て私の本だから、それも絶対私の本だ。まあ、私はもう騎士の物語を読むことは無くなった。ちょっと疲れるのだ。冒険はあまり私の性に合わない。最近になって気づいたことだが、私はどうやら落ち着いた作品を好むらしい。最近の私の愛読書といえば、どれもこれも文学作品だ。特にお気に入りなのは、世間に馴染めなかった男の話。人間としての感性は持ち合わせているのだが、常識からは外れている。その男は友人のため殺人をするのだが、その理由を説明できなかった挙句、頓珍漢な答えをし、そして常識的な人間から逸脱しているとして死刑になるのだ。私はそれを痛く気に入った。理由はまだない。

「この人、最後まで諦めないんだ。」

「それは愚かだな。私だったら、多少折れてでも合理的な方向へ動くだろう。」

「………本当にそうなの?」

 彼女は本から目を離さずに言う。

「でも、そういうの、嫌いじゃないよね。」

 問いではなく、断言に近かった。私は答えなかった。だが、否定もしなかった。何かが心の内で燻っている。


 ある夜のことだった。月がひどく明るい夜で、城の石壁すら淡く照らしていた。血宴の夜かとも思ったが、月は赤くなかった。不思議なこともあるものだなどと考えつつ、やっぱり珍しいので中庭に出ると、ロアンソはすでにそこにいた。運命だろうか、私はこの月を見た時から心は決まっていた。

「珍しいな、お前が先に外にいるとは。」

「今日は、月が綺麗だからね。」

 ロアンソは振り向かず、ずっと月を見ている。月に照らされた横顔は、いつもの冷静なロアンソでありつつも、どこか決心の面持ちでもあった。

 私はしばし黙って隣に立つ。私も、決心をしてきたのだ。さて今までいろいろ仮想練習を重ねてきたのだが、いざ本番になってみると、言葉を選ぶのに少し時間が必要だった。

「………ロアンソ。」

「…何かな。」

「……私は、お前に出会ってから、すべてを捨てた。今ここにいるのも、捨てたものの上に立っているからだ。」

 彼女は何も言わない。ただ、こちらを見る。

「だが、後悔は一切していない。これが私の願いであったから。本当に心から望んだ、私だけの望みだったから。」

 自分でも、妙な言い回しだと思った。長ったらしいし、告白に必要な言葉ではなく、シチュエーションにあった言葉でも決してない。だが、それが最も近い表現だった。そして、言わねばならないと思った言葉だった。

「だから───。」

 一度だけ息を整える。そして、今までの中で一番長い葛藤の後、私は思いを打ち明けた。

「私と、永遠を誓ってくれ。」

 それは騎士の誓いのようでもあり、ただの願いのようでもあった。だが、永遠の時を生きる吸血鬼としての願いではあった。確実に。

「……それは───」

 ロアンソはゆっくりと歩み寄る。目には隠しきれない感情が浮かんでいる。少しばかり、目に涙が浮かんでいる。

「プロポーズ、ということ?」

「……そう、なるのだろうな。」

 知識としては知っている。色々勉強もした。だが、実際に口にするのは、どうにも落ち着かない。彼女はしばらく私を見つめ、それから、ふっと笑った。

「遅いよ。」

「何?」

「とっくの昔に、その言葉を受け取る期待はしてたんだから。」

 そして、彼女は私の手を取る。

「もちろん、お受けする。」

 その言葉は、驚くほどあっさりとしていた。私の言葉とは対照的に、簡単な返答。だが、その手の力は強く、決して離さないという意思を感じさせた。それが何よりの愛の印だった。

 その夜、城は変わらず静かだった。だが、その静けさは、以前とは少し違っていた。広い空間の中で、互いの気配だけが確かに存在している。言葉は多くなかったが、それで十分だった。

 暗い部屋の中、私たちはベッドで寝ている。触れた指先、寄せた距離、重なる呼吸。それだけで、互いの存在を確かめることができた。ロアンソは、私から離れようとしなかった。まるで、それが当然であるかのように。そして私もまた、それを拒む理由を持たなかった。お互いに触れた肌は、温かみを有していた。二人の間の距離は、もうなかった。


 式を挙げよう、と言い出したのはロアンソの方だった。形式だけでもやっておきたい、そう言われて、私は少し考えた。この城には、かつて数えきれぬほどの宴があった。だからその準備ができる材料は揃っている。場所もある。だが、そのどれもが、血が染み込んだ場所であることが問題だ。さらに、式というならもう一つ問題点がある。

「……誰もいないが。」

 そう、招ける人物は一人もいない。もちろんノストラたちの行方は分からずじまいだし、人間を呼ぶわけにもいくまい。それにそんなに親しい人がいない。いや、友好関係が狭いのを嘆いている場合ではないな、と思い出したところでロアンソが口を挟んだ。

「いいの。私たちがいれば、それで十分だから。」

 あっさりとした返答だった。だが、それ以上の理由は、きっと必要なかった。私もそう確信した。

 場所は、大広間にした。玉座の間ではない。あそこは、過去の残滓が色濃く残りすぎている。それにあそこは諸事情で式の場所にできないのだ。夫婦の空間になっているのである。そんな場所で式は上げられない。厳粛な雰囲気が台無しになってしまう。

 代わりに、暖炉のある大広間。今では、私たちが日常を過ごす場所だ。何かと快適かつ、置いてある椅子などを除けば、十分に広いかつ、気品もある。

 服装は普段のままだった。私は街で買ってあったスゥツ、というやつ。ロアンソは普段着のセェタァ、というもの。

「本当に、それでいいのか。良かったら私の服を貸すが……。」

「うん。だって、これが“私たち”でしょ。それに多分ブカブカだし……。」

 そう言われると、否定する理由はなかった。あと、サイズの問題もあった。そういえば。身長差十センチはある。


 向かい合って立つ。証人もいない。司祭もいない。招かれた友人も、家族もいない。あるのは、静かな空間と、互いの視線だけだ。

「何か、言うのか?」

「そっちこそ。」

 しばしの沈黙。結局、先に口を開いたのは私だった。

「……永遠を共にする相手として、私はそなた以外考えられない。」

 簡素な言葉だった。だが、これ以上の飾りは思いつかなかった。全ての思いが、この言葉に詰まっている。私の持てる全てを振り絞って出た言葉が、これだった。ロアンソは、少しだけ目を細め、ふふ、と笑いをこぼした。

「私は、あなたと離れない」

 ロアンソの言葉も、それだけだった。誓いというには、あまりに短い。だが、それで十分だった。私と同じように、ロアンソも又、その言葉に全てを込めたようだから。


 それからも、私たちはこの城で暮らし続けた。王として、というのは、もはや形式に近い。民もいなければ、仕える者もいない。城を治めている、いや、所持している、ということが唯一の証明方法だった。だが、ロアンソは時折、冗談めかして言う。

「王様、今日のご飯はどうしますか?」

 私は少し考え、

「任せる。」

 と答える。

「はいはい、王様は楽でいいですね。王妃にこんなことさせる王がどこにいるんだよ。」

 そう言いながらも、どこか満足そうだった。それに、私は人間の食事がいらないから、メニューは毎回血だ。しかも人間など一人しかいないから。だからメニューは固定なのに、ロアンソはそれをわかって聞いてくる。そのやり取りはいつしか日常になった。

 やがて、時が過ぎる。変化は、静かに訪れた。最初に気づいたのは、私だった。他に気づく人はいないが。

「……ロアンソ。」

「なに?」

「少し、体調が悪そうだな。休んだほうがいいぞ。」

「え、そう?」

 本人は気づいていない様子だった。だが、その変化は確かにあった。少し不安に思った。医者にもかかれないこんな場所で病気になどなったら、治しようがない。だが、私の知る限り、それは病気ではなかった。そしてその違和感は、数ヶ月後に答え合わせをされる。

「……子供?」

「うん。」

 ロアンソは、どこか不思議そうに、そして少しだけ嬉しそうに言った。

「できたみたい。」

 私は、しばらく言葉を失った。吸血鬼と人間。その間に、子が成される可能性など、考えたこともなかった。それに、いや、あれだけ………もう語るのはよそう。もう何も言いたくない。そして聞くな。もうなんだか恥ずかしさで死にそうだ。いや、嬉しいことには嬉しいのだが、いやはや、南無三、おお神よ、どうしたら良いのだ私は。

「……そうか。」

 結局、それだけしか言えなかった。こんなことに呼ばれて神も大変困ったことだろう。それに吸血鬼は神を信仰していないしなんなら神に背いた側だ。じゃあ助けは受けられない。そしてなぜこんな関係のない話ばかりなのかというと、ちょっとまだ現実を受け止めきれていないからだ。

「嬉しくないの?」

「いや───」

 首を横に振る。

「ただ、どうすればいいのか分からんだけだ。ものすごく嬉しい。」

 それは本心だった。真剣にそう伝えたつもりだったが、ロアンソは笑った。

「大丈夫。なんとかなるよ。」

 その言葉に、根拠はなかった。だが、不思議と否定する気にはならなかった。また、勉強をしなければならない。でもそれは楽しみだった。

 それから、さらに時が流れた。城には、三つの小さな気配が増えた。泣き声。足音。笑い声。それらが、静寂を少しずつ塗り替えていく。静かな二人の時間は消えてしまったが、それはそれで満足のいく生活だった。

「ほら、こっちだ。」

「待て、走るな。」

 気づけば、私はそんな言葉を口にしていた。子供達があんまり活発なものだから、私はいつも追いかけてとっちめなければいけない。そして何より私はそれを楽しんでいる。かつての私からは、考えられないことだった。父子が戯れる図。ロアンソは、それを見てよく笑った。

「ちゃんとお父さんしてるね。」

「……そうか。」

 自覚はなかった。だが、悪い気はしなかった。人間から見てもしっかりやれているんだと、なんだか安心した。我が子に向けるべきものをしっかりと向けられているのだと、そうわかった。

 そして、さらに数年後。子供たちも十分に育ち、私たちは久方ぶりに落ち着いた時間を持てていた。ある夜、ロアンソは静かに言った。

「ねえ───、」

「なんだ」

「私、決めた。」

 その声音は、穏やかだった。

「あなたと同じになる。」

 言葉の意味を理解するのに、時間はかからなかった。その言葉を聞いた瞬間、私はもう用意を始めていた。

「……そうか、わかった。」

 驚きはなかった。むしろ、いずれそうなるだろうと思っていた。私もそれを心の隅で望んでいた。それを彼女自ら希望してくれるというのは、やらない理由を消し去ってしまった。

「いいのか?」

「うん。」

 その言い切る言葉に、迷いはなかった。

「このままでも幸せだけど……同じ時間を生きたいからさ。」

 その理由は至極単純だった。今のままでも十分生きられる。幸せな時間を過ごせる。だが、そうではない。ただ、その幸せな時間を永遠に続けたいという、ちょっぴりわがままな願い。だからこそ、叶えたい。私は、頷いた。

「分かった。」

 それだけでいい。多くの吸血鬼を率いて血を貪っていたかつてなら、きっと考えただろう。種としての違い、在り方、意味───。吸血鬼にになる、ということがどんなことか、それを考えたはずだ。だが今は、そういったものに価値を見出していなかった。重要なのは、ただ一つ。彼女が望んでいること。それだけだった。

 その夜、私はロアンソに口づけをし、そして血を与えた。満月の下、明かりに照らされ、その儀式は執り行われた。私が行う血宴の夜、その最後。紅く照らされた夜空は、今はただ二人を包み込んでいた。

 そして、彼女の体から、ゆっくりと熱が引いていく。代わりに、無くなった鼓動の隙間に別の何かが満ちていく。変化は静かに、確実に進んだ。やがて、彼女は目を開ける。その紅い瞳は、かつてと同じ色をしていながら、美しさと共に妖しさを纏っていた。

「……どう?」

「変わらないな。いつもと同じだ。」

「そう?」

「少なくとも、私にとっては。」

 そう言うと、ロアンソは少しだけ笑った。私からしてみれば、ロアンソはロアンソであり、種族など関係ない。ただ、あるがままを愛すだけだと伝えたら、頬を赤く染めて、恥ずかしがった。今更、だろう。こうして、私たちは完全に同じ側に立った。

 僅かに温度を持ち出した城の中で、外の世界から切り離されたまま。それでも——私の全ては、確かに、満たされていた。

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