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逃走×試練の迷宮の攻略

 覚悟は決まった。

 生きて初の元に帰るための行動を始めよう。


「とりあえずこの場から逃げるぞ」

「逃げるって……相手は銃を持ってるんだぞ。どうするんだよ」

「アイツが手に持っている銃だけは俺が対処する。が……他は手傷も負っているから厳しい。だから、合図をするからひたすら走れ」

「……信じていいのか?」

「じゃあこの場に居座って殺されろ」


 一瞬だけ岩陰から顔を覗かせ先程握り込んだ石を投擲する。銃を持っている相手の顔に向かって投げたが、当たるよりも前に顔を引っ込めたことで見えない。


 だが、ガキンという金属音から、防がれただろうことが分かる。


「……おい、西郷。今の投石が策だったとかないよな?」

「よし、行くぞ」

「は!? いや、防がれただろ!? 馬鹿か!?」


 困惑する星野を置いて俺が駆け出すと、何の迷いもなくツツも飛び出した。ふたりして走れば星野は破れかぶれになったように「くそ! 行きゃあいいんだろ!」と叫んで殿を勤めるように俺の後ろを走る。


「逃がすと思ってんのか!」


 銃を持った男が俺達に銃を向け、俺は近くの壁をぶん殴ってスキルを発動させる。男の持つ銃と俺が殴った壁の間に鎖が発生し、俺はその鎖を掴んで引っ張った。


 スキルの強度が足りず引っ張り合いになった瞬間に鎖は砕けるが、それでも男の体勢は一瞬だけ崩れた。その隙に三人で突っ走り、曲がり角に突っ込んで銃弾を躱す。


 背後で銃弾が弾ける音が聞こえるが、射線は通らない。急いで体を起こしてヨタヨタと走る。


「……っ西郷、俺の肩使え」

「必要ない。それよりもその武器を貸せ」


 小刀で対面する壁に攻撃して通路に鎖を張り巡らせながら逃げる。

 簡単に壊せる強度の壁だが、走ることを阻害する程度の強度はあるだろう。


 俺のスキルは狭い道の方が鎖を張り巡らせやすくて有用だ。俺の怪我の影響で速いとは言い難いが少しずつ引き離していき足音や怒声が聞こえないところまで来られた。


「ッ……撒いたか?」

「いや……」


 俺が肩を抑えながら言うと、ツツは手が汚れるのも厭わずに俺の肩を抑える。


「ごめん……私を庇って……」

「いい。それよりも俺の血が目印になる。止血を……」


 そう俺が口にするとツツは靴を脱いでするすると黒いタイツを脱ぐ。どうしたのかと思うとそれを俺の肩に縛り付けて止血する。


「大丈夫?」

「……悪い、助かった。……もう少し離れよう」


 血が垂れないようにしながら頭の中に迷宮の地図を思い浮かべてその場から移動していく。

 おそらくは多少安全な場所に来たところで一度荒れた息を整えるために物陰に隠れて三人で向かい合う。


「ここまで来たら簡単には見つからないだろう」

「ヨクくん……怪我の具合は?」

「良くはない。が、すぐに倒れるというほどではない。かなり動かしにくいが動かないということもないしな」


 ツツが心配そうに俺の顔色を覗き込む。

 一応、新子の血……強力な回復薬があるが、今使うべきなのかは悩ましい。

 相手との装備の差や、未知のスキルを思うともしものときに取っておく方がいい気もするし、それに備えて回復しておくべきとも思う。


 ……今すぐじゃなくてもいい。作戦を考えてからにすべきだろう。


「……というか、ここどこだよ。あと、さっきから出してる鎖ってスキルだよな」

「ああ、少し前に迷宮に迷い込んだことがあって、その時にな。攻撃したものをダメージの代わりに拘束するスキルだ」

「……さっきの銃のとき、攻撃なんかしてたか?」

「その前に石を投げていただろ」

「よく当てたな」


 少し感心したように星野が言い、俺は首を横に振る。


「いや、当てたのはあの試験官の方だ。流石にあの一瞬で当てるのは無理だから、顔に向かってぶん投げて、手に持っている銃で防がせた」

「……なるほど。と、感心してる場合じゃねえよな。迷宮のどこにいるかの位置も分かんねえし」

「道順は覚えている。ツツ、地図を頼む」

「あ、う、うん」


 ツツが持っていた地図を広げて俺は現在地を指差す。


「今いるのはここだ。襲われた位置はこの辺りの通路。出口と入り口はこの辺りだから……」


 俺が次々と指差すとツツと星野は各々苦い顔をする。


「……これ、形からして逃げられそうにないな。袋小路だ」

「一応枝分かれしてるから運が良ければすり抜けられるかも……」


 難しい状況だ。ハッキリ言ってしまうと絶望的と言っても良いような状況、そんな中ツツは小さく呟く。


「さっきのおじさんは……大丈夫なのかな」


 俺が「いや、もう死んでいるだろう」とは言えず目を逸らすと、星野は深くため息を吐いた。


「それにしてもこんな堂々と殺しにくるってやべえな。街中よりかはマシとは言ってもバレるだろ」

「本当にな……すぐに露見する上に逃げ道もないだろうし……。いや、隠す方法があるのか?」

「ないだろ。死体を魔物に食わせるにしても時間かかるだろうし。いっそのこと何とかして隠れていたら捜索隊みたいなのがやってきて守ってくれるんじゃないか?」


 星野の言葉は現実的なものの気がするが、ハッキリ言って運任せだ。破れかぶれになって突撃するのよりかはマシ程度のものだろう。

 だが、確かにおかしい気がする。四人も殺したとなれば計画性もあることだし死刑も十分にあり得るほどの犯罪だ。普通……死体を隠したり逃げたりするための道は残しているはずである。


 本当に捕まって構わないという考えなら、わざわざおっさんを殺したりせずに狙いの一人だけを殺す方がよほどいいだろう。


「……あのおっさんを撃ったのは口封じのためだろ。何か死体を処理する方法があるんじゃないか?」

「いや……無理だろ。魔物がやった風に見せかけるとか?」

「銃を使わないだろ、魔物。……何かあるんじゃないか?」

「あったとしても今の状況と関係あるか?」


 星野の言うことも尤もだが、どこか頭の隅に引っかかる。

 洞窟の冷たい壁に頭を付けて軽く冷やしていると、初の顔が思い浮かんでくる。少しでも、ほんの少しでも生き延びる可能性が高い道を探るべきだ。


 ……桜川達を倒したみたいに試験官をぶん殴るか? と一瞬考えるが、銃を持っている相手は分が悪い気がする。


 流石に弾丸を避けるのはキツいし、スキルによって銃口を逸らすという同じ手は通用しないだろう。


 初……初ならどうするだろうか。そう考えていると、不意にあることを思い出す。


「……そうか、隠し場所と逃げるための通路があるのか」

「へ? ……そんなこと出来そうなところは地図には載ってないけど……というか、出口は一箇所なんだから……」


 ツツは申し訳なさそうな表情をしながら俺の言葉を否定するが、すぐさま否定し返す。


「いや、有ったんだ。他の出口が」

「……どういうこと?」

「あらゆるダンジョンは深層、中層、浅層に分かれていて、複数の浅層からひとつの中層に、複数の中層からひとつの深層にという形で、地上とダンジョンを繋ぐ出入り口は多いけど、中では繋がっている。中層を通って別の場所に行けばいい」


 俺の言葉を聞いたツツはすぐに聞き返す。


「えっ、いや、でも、ここは中層がないダンジョンなんだよ?」

「あるんだろ。じゃないとアイツらの行動に説明が付かない。それに……靴に泥が付いていた」

「泥?」

「ここのダンジョンにはぬかるんだ地面なんかないだろ。普通、靴を別の場所に持って行くときは鞄の中泥だらけにしたくないから泥ぐらい落として行くだろ。おそらくだが、このダンジョンから繋がっている中層にぬかるんだ地面があって、それを踏んだ足で帰還してもう一度履いて俺達の元に来たってところだろう」


 ツツは納得したのかしていないのか微妙そうな表情を浮かべて「でも、今まで見つからなかった道なんて……」と弱音を口にする。


 俺が説得の言葉を探そうとしていると星野は「よし」と立ち上がる。


「探すぞ、中層に続く道を。銃を持った殺人鬼相手よりかは、一度中層に入ってでも逃げ切った方がいいだろう」

「でも、見つからなかったら……」

「戦うしかないな。それはここに残っていても一緒だろ。なら探した方が得だ」


 星野の言葉を聞いて、俺も壁にもたれながら立ち上がる。

 ……星野、強いな。俺は初がいなければこんな簡単に立ち上がれはしなかっただろう。


 遅れてツツも立ち上がる。


「……うん。行こう。初心者向け迷宮【試練の洞穴】を攻略しよう」


 ほとんど誰にも攻略されていないのに何が初心者向けだよ、と内心つっこみながら、三人で地図を見ながら奥へと進んだ。

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