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不合格×不運と踊る

「ああ、探索者の試験を受けるんですか?」

「あ、はい」


 女性は「なんで分かったんだろう」というような表情を浮かべ、俺は手に持っていたスマホの画面を見せる。


「俺も今日受けるんですよ。途中までのつもりでしたけど、一緒のところが目的地ならそのまま運んでしまいますね」

「あ、ありがとうございます。すみません」

「いや、俺から言い出したことですし、バスを降りた理由も俺なんで。それより……探索者の試験ってこんなに大荷物が必要なものなんですか? ネットで見た情報だと筆記用具があれば充分みたいに書いてありましたが」


 俺が尋ねると女性は首を横に振り、恥ずかしそうにはにかんだ笑みを浮かべる。


「そ、それはその……私、心配性で色々と用意してないと不安なので……持ち込みは自由だそうですから」

「だとしても……。まぁ、俺は初めて受けるのでなんとも言えませんが」

「あ、そうなんですか。あ、えっと、名前をお聞きしていいですか? 私は(アズマ) (アズサ)です。……あ、変な名前ですけど本名ですよ? その、父母の再婚でこうなっただけで」

「俺は西郷 良九です。スーツですけど……動きやすい格好って書いてましたよ?」

「あ、ジャージならその中に入ってます」


 最初から着てきたらいいのに。いや、若い大人の女性としてはそういう格好で外に出るのが恥ずかしいのかもしれない。


「それにしても……西郷さんは若そうに見えますけどおいくつなんですか?」

「18です」

「へえ……あ、高卒で就職したけど合わずに脱サラって感じですか? 分かります! 私も脱サラ探索者をしようと思ってまして」


 脱サラ探索者……。いや、どう見ても向いてないだろ、というツッコミを飲み込みつつ首を横に振る。


「いえ、まだ高校生です。探索者の資格を取ろうとしているのは、妹が迷宮に興味があるみたいで……まぁ妹には迷宮に潜らないような言ってますけど」

「へー、いいお兄ちゃんだ」


 いい兄……とは到底言えないが、まさか家庭の事情をペラペラと話すわけにもいかないので軽く否定だけして歩いていく。


 しばらく二人で歩いていると運動場のような施設を隣接している建物に着く。あそこで運動能力を測定するのだろうかと見ていると、東は指を建物の方に向ける。


「受付はあっちです。実はですね、探索者の資格というのは最近出来たんですけど、公的なところに所属している迷宮に詳しい人がいなかったから、既に探索者をしていた人に試験官をしてもらっているのが現状で、ノウハウやマニュアルがないから、どの人が試験管になるかでかなり難易度が変わるそうです」

「へえ、そうなんですか」


 返事をしながら中に入り、用紙をもらって必要事項を記入して身分証を受付の人に見せる。


「それで、月曜日はかなり優しい試験官の人が担当するから……」


 と、東が言おうとした瞬間、俺の前で顔に傷が入った大男が立ち止まる。


「……あれ、確かこの人は水曜日の」


 そんな言葉を聞いて横目で張り紙を見るとどうやら今日担当するはずだった人が風邪で病欠のようだ。

 それで別の人が来たのだろうと一人納得していると、俺の前に立っている大男は俺を指差して低くドスの効いた声を出す。


「お前……そこのデカい鞄を持ったお前」

「デカい鞄……あ、俺か」


 まだ試験が始まる前なのにどうしたのだろうかと思っていると、大男の試験官は眉を顰めながらハッキリと口にする。


「お前、不合格だ。さっさと帰れ」

「……は?」


 言葉の意味が分からない。まだ試験すら始まっていないはずだ。

 当然ながら「はい、そうですか」と帰るわけもなく、尋ねるために一歩前に出る。


「えっと……一体どういう意味ですか?」

「どういう意味も何もそのままだ。体力測定や迷宮探索がある中でそんなバカみたいな鞄背負ってきてる奴がいるかよ。探索者はそのまま「迷宮探索」が仕事だ、そんな格好で動けるのか。最低限の心構えが出来てねえんだよ」


 それだけ言い終わって去ろうとした大男を呼び止める。

 もちろんこの荷物は隣にいる東の物であると伝えるためではない。そうなったら今度は東が落とされることになるだけだろう。


 試験内容や合否が想像以上に試験官任せで簡単に受験生を落とせることに驚きはしたが、それはつまり簡単にそれをひっくり返せる、試験官の胸先三寸ということに他ならない。


「あー、ちょっと待ってください。今落とされると困るんですよ」

「……はあ、落とす理由は話した。マトモに動けないような格好で来ている時点で探索者として使い物にならない。帰れ」


 俺が一歩前に出ると、試験官の男はほんの少し驚いた表情をする。何かを言おうとした東を手で制しながら真正面から男を見据える。


「……荷物が多いから、動けないから不合格ってことですよね?」

「ああ、そう言っただろ」

「つまり、これで動けるなら合格ってことでいいですよね。動きが落ちないなら、たくさんの荷物を持っていた方が得でしょう。良い探索者だと思いません?」


 大男は意外そうな表情を俺に向けて軽く笑む。

 俺の言葉を聞いた東は手をパタパタと動かして俺を止める。


「な、何言ってるんですか、西郷さん。む、無茶ですよ、100メートル走とか持久走とか、他にも色々あるのに鞄を背負いながらなんて……」

「平気ですよ。……で、どうですか?」


 俺が尋ねると試験官の男は俺と鞄を交互に見て鼻で笑う。


「それが出来るならいいが……素直に明日出直してきた方がいいだろうよ」

「こっちも忙しいんで。じゃあ、不合格は取り消しということでいいですね。本日はよろしくお願いします」


 俺が頭を下げずにそう言うと、男は少し楽しそうにしてからその場を去って行く。

 どうやら……試験を受ける前から不合格というのは無くなってくれたようだ。


 俺が安堵の息を吐くと、東がパタパタと手を動かして「だ、大丈夫ですか!?」と俺の手を握る。


「す、すす、すみません、ま、まさか荷物が多くてあんなことを言われるとは……す、すみません、本当に……」

「いや、まぁいや謝ってもらわなくて大丈夫。それより、試験終わるまでこれ借りっぱなしでいいか?」

「は、はい。もちろん」

「まぁ、一応近くにいるようにはしましょうか。荷物を持ったまま逸れるとアレですし。あと今のうちに電話番号も」


 申し訳なさそうな顔をした東と連絡先を交換する。短い間に女性の電話番号がドンドンスマホに登録されていくな、と思いながら軽く笑みを作る。


「まぁこの荷物ぐらいなら大丈夫ですよ」

「いやでも……探索者の試験ってめちゃくちゃ難しいよ?」

「知り合いの人には健康な身体をしてたらいけるって……」

「いやいや、スキルを得られるって拳銃の所持資格みたいなものなんだからかなり厳しいですよ」


 ……そういや、実際に一瞬で落とされかけたな。……あれか、新子みたいな不死身的には簡単という感じか。


「だいたい初回で受かるのは百人にひとりかふたりぐらいですから……」


 そんな試験に馬鹿でかい荷物を背負いながらか……。これは常日頃から思っていることだが、何というか……。


 俺、運悪くね?

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