現代ダンジョン2
小説家になろうの執筆中小説の保存上限が来てしまったので減らすために投稿していきます。
新子は先ほどまでよりも明らかに真剣な表情を浮かべてから時計に目を向ける。おそらく兵頭が来る時間から逆算して何から話そうと考えているのだろう。
「んー、私としてはちゃんと順序を追って、家のことを決めて、学校とかどうするとかの話をしたいけど、まずは探索者ってものについてだけど……そもそも、探索者って資格がいるんだよね」
「資格?」
「うん。ほら、スキルなんて危ないものをみんな手に入れたら困るでしょ? とは言っても、迷宮の管理は難しいし迷い込んじゃう人もいるからそこまで厳密にってわけでもないけど」
ああ、まず資格を取得しろということか。
言葉の意味は分かったが、少し不明な点がある。
「……新子って戸籍ないよな? それで取れるのか?」
「それなら大丈夫だよ、ほら」
そう言った新子は鞄から保険証を取り出して俺と初に見せる。そこには「西郷 新子」の文字と今年で11歳になる生年月日が刻まれていた。
初はチラリと俺を見て、俺は思わず頭を抱える。
「いや、それ、偽造……」
「大丈夫だよ。保険証は持っていた方が身分の証明に楽だから持ってるだけで、実際に病院にかかることはないからさ」
「いや、金額負担の話ではなく偽造……。まぁ、気にしないでおこう。それで、資格を取ればいいんだな?」
新子は鞄に保険証を戻しつつ頷く。
「うん。なんならこっちで用意してもいいけど」
「ちゃんと資格取ります」
「まぁそっちの方がいいよ。講習とかもあるし、何より【試練の洞穴】を使わせてもらえるからね」
「試練の洞穴?」
「うん、かなりの低難易度の浅層迷宮で最終試験にそこが使われるの、迷宮慣れするには一番だね」
講習に最終試験ね……なんか試験を受けるのも面倒くさそうだな。あまり初とは離れたくないし、新子に頼んで偽造してもらおうかと思っていると、新子は「試験は日曜日以外は毎日やってるし、半日もあれば終わるから受けてみたら?」と俺に提案する。
まぁ初の手伝いをするなら早めにとっておいた方がいいわけだし……しかしながら、受けるとしたら東京に戻る前の今のうちになるだろうが、受験対策をするような時間もない。
「あ、基本的に探索者の試験は体力テストと実践だけだからそんなに気にしなくて大丈夫だよ。一応適性検査もあるけど変なことを書かないなら平気だし、行くなら明日にでも行ってきなよ」
「いや、明日って近すぎないか? ……まぁ、時間がないのは確かか」
毎日やっているのならば一度不合格前提でどんなテストなのかを体感してみるのはいいかもしれないな。
インターネットで検索して受けるのに必要そうなものを調べておく、動きやすい服装とあるが普段着でいいか。
適当に手荷物を整理しているとスマホが鳴り、画面には兵頭の文字が表示される。
「来てくれたらしい。……まぁ、いくか」
それから兵頭と会い、安心した様子の兵頭に連れられてアパートの管理者に会って話せる内容の事情を説明した後に再び部屋に戻ってくる。
俺と初の境遇に大層同情してくれたおかげで、ただ同然の値段で部屋を貸してもらえることとなった。
……こんないいホテルに泊まっておいて安くしてもらえるのは非常に申し訳ないが……まぁ、断るのも良くないと思い、厚意をありがたく受け取った。
ホテルのソファに座った頃には9時を回っていて、兵頭はこれから何時間もかけて帰るのかと思うと……もう一生頭が上がらないな。
「どこか食べに行く……には遅いし、何かルームサービスでも頼もうか」
「……新子さん、お金大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫、探索者って儲かるんだよ。ほら、子供は気にせずにいてくれた方が大人としては嬉しいな。苦手な食べ物とかはある?」
「え、えっと……特には……」
「俺も大丈夫です」
新子は室内にある電話から手慣れた様子でルームサービスを注文する。何というか、本当に金持ちなんだな……。
「……俺達の面倒を見てくれるのは助かるんですけど、一人で探索しているわけじゃないですよね? こっちに構いっきりで大丈夫なんですか?」
「ん、大丈夫だよ。私が抜けたところでどうってところじゃないし、ちゃんと話はしてきたしね」
「それならいいんですが……」
「ヨクくんも初ちゃんも、あまり遠慮しない方がいいよ。世の中、特に探索者は横柄な人が多いから多少は雑な方がいいよ」
新子は子供っぽいスカートを手で押さえながらポスリと座り、鞄から裁縫セットのようなものを取り出す。
「……あの、私はあまり探索者と関わる予定はないので」
「迷宮の研究をするなら多少なりとも関わりは出来るよ。西郷くん……お父さんが私と友人だったようにね。っと」
裁縫をするのかと思っていたら、突然新子は針を自分の手首に刺してすぐに引き抜く。いったい何を……! と驚いていると、新子はその針の先を白い布に押しつけて血で線を引く。
「お、おい、何を……」
「大丈夫だよ、ほら、もう治ってる」
「そういや不老不死……いや、それは分かったけど何を……」
「私の血はちょっとでも舐めたらかなり強烈な回復薬になるから、明日の試験で万が一があったときに飲んでもらおうかと」
血が回復薬って……と思っていると新子は手慣れた様子で俺にその布を手渡す。
「血を飲むのに抵抗があるのは分かるけど、骨折ぐらいなら一瞬で治るから持っておいた方がいいよ」
「……それは、凄まじいな」
なんというか、俺の攻撃を拘束に変えるスキルはもちろん、桜川の狼に変身や柳下の影を操るスキルに比べても圧倒的に強いように思える。
スキルはピンキリと聞くが、それにしても異様な効果だ。
こんなものを舐めただけで骨折が治るとか、にわかには信じがたいと思っていると、新子は俺の顔を覗き込んでこてりと首を傾げる。
「やっぱり血は嫌だった? 唾液とか汗とか涙とか……まぁ、他の体液でも大丈夫だけど」
「……唾液か」
まぁ確かに人の血を舐めるというのはどうにも抵抗がある。けど、唾液や汗や涙か……新子が言い淀んだ他の体液は却下としてどれが一番抵抗がないだろうか……と悩んでいると初がジトリとした目で俺を見る。
「い、いや、初さん違うんですよ。別に俺もどれを舐めたいかを悩んでるんじゃなくて、どれならそんなに抵抗がないかを考えているだけで」
「そんなこと聞いてないですけど」
墓穴を掘った……! いや、何一つ嘘をついていないのに嘘をついた雰囲気になってしまった。
唾液とか汗はなんかフェティッシュな感じがするし、涙は俺が初が泣いているところを見て惚れたのと合わせると変な誤解を生みそうだ。そうなると……。
「……これで大丈夫です。多分使わないでしょうし」
「そう? それならよかった」
なんかどれにせよ変態っぽい気がする。
初の方をチラチラと見て怒っていないかを確認していると、新子は体を伸ばしながら俺に目を向ける。
「明日の試験はまぁ問題なく合格するだろうし、早速今日から訓練しちゃおっか。西郷くんの作った迷宮の中ならちょっと動けるぐらいのスペースはあるし。ご飯食べたあとに、汗をかいちゃおう」
「ありがとうございます」
「まぁでも、本格的に訓練するならちゃんとした場所が欲しいな。んー、いい場所ないかな。……あ、そうだ、初ちゃんが研究を引き継ぐなら、訓練出来る迷宮を初ちゃんに作ってもらえればいいんだ」
新子の言葉に初は驚いたような表情を浮かべる。
「私が迷宮を……ですか?」
「うん。作り方は残してるだろうし、特別な材料は迷宮核ぐらいだから、頑張ったら作れるはず。西郷くんも個人で作ってたわけだし」
初は驚いた表情のまま、俺の方を見て頷く。
その目はまるで俺に置いていかれないようにしようとしているように見えた。




