玉砕×これからの作戦
呆気に取られている初に、俺は畳みかけるように話していく。
「別に驚くようなことでもないだろう。初は綺麗で、俺は年頃の男だ。兄妹とは言っても血の繋がりはなく初対面。初も俺のことを兄とは思っていないだろ」
「それは、そうなんですが……。え、えっと……あの……ご、ごめんなさい、その、嫌いなのでお付き合いとかは……」
「付き合ってくれとは言ってないだろ。俺が逃げない理由を分かりやすく述べているだけだ」
平静を装ってそう話すが、内心がフラれたことへのショックに埋め尽くされそうになる。いや、当然すぎるほどに当然なのだが……1%の可能性がないことは分かりきっていたが……面と向かって言われるとかなりキツい。
「……まぁ、それでな。俺は、うん、あれ、何の話だったか」
「兄さんが信用できないという話です」
「……ああ、まぁそういうわけなんだよ。……そういうわけで……あれ、なんて言おうとしたんだったか」
「多分「だから信用してくれ」かと」
「ああ、それだ」
ショックすぎて頭が働かない。
……とても悲しい。思ったよりも素直に悲しさがきている。ただ顔が綺麗で好きというだけなのに、ここまでダメージが来るのか。世の中の人間はフッたりフラれたりすごいなぁ。
息を吐いて少し落ち着こうとしながら話を続ける。
「そもそも明らかに若いだろ。別に兄ではなくて親戚なら誰でもいいわけで、叔父とか叔母とかもっと遠い親戚とかを名乗って大人が来た方が自然だし、強い探索者にしても大人の方が集めやすいだろう」
「……それは、そうかもですけど」
「信用はしなくてもいいが、信用しなければどうにもならない状況なのも確かだろ」
「……それも、そうです」
最低限、話は聞いてもらえる状況にはなったか。
その代わり、俺の精神にはとんでもないほどのダメージを負ったが……失恋である。会って二日で恋が破れて、あと最低一年近くは二人で生活だ。
めちゃくちゃキツい。泣きそうだ。
「……まぁ、話は戻すが……多分、データを盗むだけだと意味がないということだろ。なおかつ、そのことが何故か知れ渡っているらしい。初だけが持っている「何か」の正体は、初は分かっているんだな」
俺の問いに初はコクリと頷く。
「それが探索者に知れ渡っているのは知っていたか?」
「いえ……」
「少し妙ではあるな。親父がそんな初を危険に晒すような情報をばら撒くとは思えないし……そもそもその情報ってなんだ?」
初は少し迷った様子を見せてから、俺に黒い瞳を向ける。
「……信用はしていません。ですが、絶対敵の相手よりも、まだマシと判断しました」
「ああ、それでいい」
「……あと、私のことは諦めていただけると……その、ミナミちゃんが兄さんのことを好きと言っていたので……。ミナミちゃん可愛いですし、そっちに……」
「色恋の話は後にしてくれ。失恋した後に他の女の子勧められるのもきついし、そもそも今そんな話をしてる場合じゃない。というか、ミナはたしかに可愛いけど歳下すぎる」
恋愛話と迷宮や陰謀の話の寒暖差でおかしくなる……。
「……実は、父の研究の大部分はここにはありません。迷宮の中に本格的な研究室が作られていて、そこで主に行われていました」
「迷宮の……中に?」
「はい。そのため私を脅すのは有効ですが、この家に盗みに入ってもあまり利益がありません」
「……まぁ、一応納得か。何故桜川が知っていたかは謎だが」
初はこくんと頷く。
「この周辺の迷宮ってめちゃくちゃ多いし、迷宮の中も広いからしらみ潰しは難しというか、手間の割に危険が多い。……何がなんでもって奴には確かに有効だな」
「……はい。父はしっかりしていたので」
「……じゃあ次の話だ。というか、本題だな。これからどうする。一つはその情報を渡して安全を得る」
初は首を横に振る。
「白昼襲ってくるような連中に渡すわけにはいきません」
「次は俺が付きっきりで初の護衛をする。まぁ割と現実的な案ではあると思う。どうやら俺は才能があるみたいであれぐらいなら追い払えるだろうし、ありがたいことに武器がたくさん手に入ったからな。特にこの特殊警棒はかなり良さそうだ」
「……前向きに検討しますが、他の案が出るかもしれないので留保します」
「まぁ、俺としてはかなり避けたい案だけどな。マジで四六時中くっつくことになるから……フラれた相手とそれは、年頃の男としてかなりキツい……」
「す、すみません」
「いや、いいけど……」
謝るならハッキリと「嫌いなので付き合いません」と言うんじゃなくてなぁなぁにしてくれたらよかったのに……。
まぁ、初はちょっと変わった子みたいだから仕方ないか。
「それで、かなり現実的な妥協案だが、別の探索者の組織に助けを求める。願いを叶える手伝いはすることになるだろうが、実力行使をする犯罪者よりよほどマシだろう。さっきの話にも出た唯一迷宮の踏破に成功した連中は少なくとも「戦争を消したい」と願うほど性格はいいだろうしな。次の願いも叶えたいと思っているなら情報は少しでも欲しいはずだし」
今更だが……クリアをしたら願いが叶えられる大迷宮はいくつあるのだろうか。昼間に調べたところ、大迷宮は踏破されたあとにそれに連なる中迷宮や小迷宮もいっぺんに消えたらしいが、迷宮はまだそこら中にある。
多分十個ぐらいか? あとで調べるか。
俺が考えていると初は首を横に振る。
「鬼に金棒となりかねません。いい人であろうと簡単に願いを叶えられるようになるのは危険です」
「じゃあ……他に何かいい案あるか?」
「……迷宮の研究室に引きこもるとか」
「尾行されてたら終わりだぞ。ついでに飯とかどうするんだよ」
「それは……はい」
となると……残るは、俺が付きっきりで警護をすることか。まぁ元々学校でも家でも一緒なので距離感がより近くなるだけだが……。
「そうなると俺が警護することになるが、多分圧倒的に危険が多いぞ。日常生活にも支障をきたすかもしれない」
「多少の危険は飲み込みますが……兄さんを巻き込むのは……。兄さんは他の人に助力を求めたり降伏するべきと考えているようですし……」
「さっき襲われたときも言ったけど、俺はヒーローだから助けを求められたら助けてやるよ」
初の目が揺れる。
「助けるための現実的な案が降伏や助力を求めるというだけで、俺が初を助けるのはもう決めているんだ。意見は言うし、考えを否定はするが、初が選んだ方法で助けるよ」
「……嫌なんですよね」
「そりゃ、フラれたばかりだしな」
「……すみません」
「いや、うん……すぐに好きになった俺の方がおかしいから気にするな。……でも、初はいいのか? 自分のことを好きな嫌っている人間が四六時中……それこそ、桜川に寝込みを襲われる可能性を考えると寝ている部屋も一緒にするような話だぞ? 年頃の女の子としては気持ち悪いし不安だろ」
初は迷ったような表情を浮かべてから頷く。
「……私は構いません。でも、好意を利用するのは……」
「好意がなくとも俺は兄だしヒーローだから任しとけ、な?」
話は……一応方向性は纏まったか。細かいところは詰めないとダメだが。




