第28話 お金がないなら
王都、壮大な外壁を眺めながら煩く唸る魔眼の声をBGMに、私は大人しく行列の一部に混じっていた
入国するために長蛇の列へと並んだのは良いものの、列は一向に進まない。そりゃ国に危険人物を入国させない為の最終関門であるにしても、これは流石に混雑し過ぎではなかろうか
魔眼使いの目線は厳しい。魔眼の唸り声も心なしか徐々に大きくなっている気がする
「ねぇ。なにか言いたい事があるなら聞くけど……正直その唸り声はかなり騒音だと思うんだよ。だから」
「そうかい! そんな口の聞き方するんだったら俺はお前と和解する気は無いね! 」
そんなに敵対心MAXで反抗されると興奮するじゃないか。ホントに辞めて欲しいのだけど
確かに、自信満々な自己紹介を二人が行ってくれたにも関わらず、私は少々礼に欠ける行動を取ってしまったかもしれない。現に魔眼使いの方はさっきから気分が悪そうだ
「なぁ、話聞いてるか? 俺は正直、なんでここまでコイツがキレてるか分かんねぇんだけど。お前もこのままじゃ鬱陶しいだろ? なぁ……取り敢えずで良いから謝っといてくれよ。……頭に叫び声が直接来るわ、目眩がするわで最悪なんだよ。本当マジ早くしてくれ……」
しかし私は思うのだよ。科学者とは、研究者とは追い求める者だ。調査し、解明し、難解な問題を解決させ、明快な答えを提示する冒険者だ
なればこそ、あの行動に間違いは無かったと言えるだろう
とうとう沸点が臨界点に達してしまったのか、魔眼の喚き声は声は怒鳴り声へと変化し、口調も数十分前とは大違いだ
「なにか言ったどうだ引きこもり! なにが欠陥魔眼だ! もう一回言ってみろ! あ? あぁ!? 」
「いや、だってそうでしょ? 封印と白魔法を自由自在に操れるって言ったって、攻撃手段が無いんじゃ決定打に大きく欠ける。結局は宿主の能力に頼った戦いしか出来ないただの寄生生物と変わらないじゃないか」
この魔眼は単独での生存権利を破棄し、他者に自らの全てを預け渡してしまっている
奴隷だ。従属する宿主に忠順で、忠実な寄生虫。それが当たり前だと受け入れてしまっている敗北者
それがどうして生きていると言えるのだろうか? そんなものを生者とは到底呼べない。上に這い上がろうと、喰らい付こうと足掻かない者に、生命の輝きは感じられない
そんな奴等は皆死ねば良い。なんて過激な思想は持ち合わせていないが、何故そうしないのかと理解に苦しむ
苦しむが、理由、原因は簡単な物だ。彼らだってなりたくてそうなった訳ではない。その一言に集約できてしまう、長い長い言い訳の言葉が、それを確かに表してくれている
「あー、ケネディ、もう辞めろ。お前は良くやってるよ。それは俺が知ってる、だから科学者さん。その辺でもうウチの相棒にごちゃごちゃ言うの、辞めてくれねぇか? 」
魔眼使いの方から強い怒りを感じる。なるほど。今の今までは理性を保ち、自我を押さえ付け、我慢を、していたと言う事か
あぁ、失敗。つまりは相手との距離感を測りかねていたのは私の方だったと言う訳だ
まただ。また思考に熱中するあまり、他の物事が疎かになってしまっていた。欠点を自覚出来ても、改善にはいつまで経っても至らない。努力はしているつもりなのだけど
魔眼使いの方は相当感情を隠すのが上手いらしい。もしかしたら、感情を表に出すのが下手な欠点をお持ちなのかも? だとしたら仲良くなれる……道は今しがた消滅していまった。こりゃ残念。まぁ、短い間の退屈を紛らわす暇つぶしにはなったし、別に良いや
魔眼使い達との会話はそれなりに楽しめた。魔眼なんて面白そうな物の存在まで知れたし、1つの肉体に2つの意識を宿す事が出来た実例を知れただけでも充分な収穫だ
「次の方どうぞ! そこの白髪の方ー!! 」
私の順番も回ってきたようだし……いや、そもそも入国審査って何をするんだろう……身元確認? 渡航目的の確認? 後者についてはいくらでも誤魔化す事は出来るが、前者についてはどうしようもない
この世界で生を受けたわけでもない、偽装身分を買ったわけでもないし。ファンタジー物の本だと、こう言うときはどうしてるんだろう……?
そのまま素通りさせるのだろうか? 王の住まう都、王都の検問がそんなに緩くて国の重鎮を守護出来るのか? それほどまでに国を護る者たちは圧倒的な実力を有しているのだりうか?
たかが創作話と侮れない。現にここは非現実的な世界の中だ。魔法なんて物が実在し、各々の各種パラメータが数値として可視化され、目に見えて強力なスキルがわんさか存在する
「ちょっと! そこの白髪の方!! 早くしてください。後が詰まってきてますから! 」
男の声に反応し目の前を見てみれば、目の前には私よりも背の高い筋肉質な男が思ったよりも至近距離に接近していた
最近距離を詰められすぎじゃなかろうか。これでもある程度の警戒はしているつもりなのだけど
男は後が詰まっているからと私に声をかけて来たが、私が列に並ぶ以前よりも行列に並んでいる人数は、私の見間違いでなければ目に見えて減っている
まぁ、本人にしかわからない事情があるのかもしれないから一概に悪意を持っての行動とは言えないけど
男の武装は一般的な騎士鎧よりは軽装な急所の一部だけを守る駆動力に重きを置いたような鎧と、腰に携えられたロングソード一本のみ
国に危険人物を入国させない為の最終関門にしては貧弱すぎる武装だが、戦闘になれば他の入国者の検問審査をしている者達も集まって来る事だろう。左足の膝から下を失っている今の状態でどこまでやれるか……いや、戦わなければ良いんだった
でもなにもしないのは詰まらない。しかし事を起こせば騒ぎになる
少なくとも片足を元に戻せる目処が立つまでは下手に騒ぎを起こして目立つような事は避けたい
「あぁ、申し訳ない。つい思考に耽ってしまってね。…それで、私は何をすればいいのかな? 」
流石に現代レベルの本人確認は行われないだろう。もしもあんな機器がこの世界に存在しているとしたら明らかなオーバーテクノロジーだ。文明レベルからかけ離れすぎている
魔法等の要素によりあれらの機器類が再現されている可能性もあるが、ほぼほぼ無いと考えて良いだろう。あんな代物が存在してしまっていたら、密入国の難易度が大幅に跳ね上がる
それほどの魔法の技術を王都が保有しているのなら、当然警備兵達の強さも相当の物と仮定できる
もし仮にこの広大な王都の全て侵入経路を完璧に警備し、検問からの密入国おも防ぎきる事が可能であったとしたら、王都での事件、騒動は大きく減少、その規模も小規模な物へと……まぁ、これは不可能と言い切れる事だしこれ以上仮説を展開する必要はないか
理由は簡単。もしも問題が発生した時に、第一に危険にさらされる彼ら。検問を行っている者達の武装はなんの変哲もない軽装の鎧と一般的なロンクソード一本
もし魔法等の技術が高度に発達しているのであれば、彼らの武装はそれを生かしたより、強力な物が用意される筈だ
つまりはこの王都には特段優れた魔法技術が発達しているわけではない。もし仮に優れた魔法技術が存在したとしてもそれは極一部の者達の間で秘匿されていると言う事になる
ここまでの推論はあながち間違っていないように思える
思えるのだが……不味い。また思考が逸れていた。肝心の入国検査で何を行うかについて考えていた筈なのにいつの間に王都の魔法技術の事なんかを考えていたのだろう
しかし余裕を持った態度で堂々と何をすれば良いのかと男に聞いてしまった今、会話は既に発生している。勿論口から出かけた独り言は飲み込んで、人当たりの良さそうな笑みを顔に浮かべ、内心焦りつつも男の言葉を待つ
「ははっ、お兄さん、心配しなくても大丈夫だ。その足を理由に入国拒否なんてしないからさ。ただ、入国料は払ってもらうけどな。冒険者ギルドのギルドカードが少し安く出来るけど持ってるか? 」
「…それは、とてもありがたいね。ギルドカードはここに来る道中で失くしてしまって、今は持ってないんだ。だから定価で頼むよ」
なるほど。身体的欠損が原因で入国を拒否している国もあるのか。障害と言う物は時に驚異的な成長を促進する要素の一つだと思うのだけど
目が見えないなら、言葉が話せないなら、耳が聞こえないのなら。それぞれの欠点を補うために、生きていく為に他の機能が驚異的な発達を促す事がある事例を、彼らは知らないのだろうか
だとしたらその国は……いや待て、そもそも身体的欠損がNGなだけで、無関心であれば目に目見えない障害という物はOKなのかも知れない。どちらにせよ、この足は早いうちに治しておかなければ
王都に入るための入国料は10000G。金になりそうな物はいくらかあるが、換金できていないため今この場では実質無価値
異邦人を殺すと異邦人の所有しているアイテムとGをゲット! なんて都合の良いシステムはどうやら実装されていないらしく、私の所持金はギルドで白衣やらの装備品一式を揃えたあの時から一切増えていない
必要なのは10000G、しかし所持金は200G
どうやったって足りない。うーん、どうしようか
せっかく並んだのに入国料が払えなくて入国出来ませんでしたなんて、馬鹿すぎるにも程がある
ちらりと後方の行列を見ても、その殆どが異邦人であり、異邦人は基本的にアイテムやGをストレージに収納して持ち歩いている。その為、軽く騒動を起こしてどさくさ紛れて金を盗むなんて手も使えない
こう考えている間にも刻一刻と時間は経過している訳で、後方から聞こえてくる苛立ちの声のフルコーラスは次第に音を増していくようだ。私が気にし過ぎなだけかもだけど
となれば、取れる手段はかなり限られてくる
ターゲットはいつまでも入国料を払わず、沈黙している私を不審げに見つめる警備兵の男
「……うん。わかった。でも少し問題があるんだ。ほら、さっきここに来る道中で結構な私物を無くしてしまったって話をしたよね。それで、その…財布も落としてしまったみたいで……」
申し訳なさそうに少し体勢を調整しながら、困ったような表情を浮かべ、相手の言葉に合わせて声を被せる準備を済ませ、後は念のために発動するスキルを思い浮かべておくくらいかな
「おいおい、入国料が払えないなら」
「払えない訳じゃない。ただ金額が問題なんだ。生憎手持ちが金貨しか無くてね。お釣を用意して貰おうにも金額が金額だからね。……あぁ、偽造硬貨じゃないよ。なんなら確認して貰っても良いし。ほら、手を出してごらん」
偽造硬貨と言う単語を出した時に一瞬警備兵の顔が強張った気がしたが、既に策は成立した。目の前では緊迫感を漂わせた警備兵が手を開いて差し出している
さて、ここまで来れば後は詰めていくだけ。と大袈裟に言ってみたものの、実際はただ右腕で相手に触れるだけなのだけど
発動するスキルは【終末を翳す手】選択する異常状態は抵抗力弱化、洗脳、忘却
似たような効果で何種類もある異常状態の中からこの3つを選んだ事に特に意味は無い。雑ではあるが、時間も余り無い中で突如訪れた資金難を解決する為の策としては……五十点は固いんじゃないだろうか
まぁ、活動資金の調達に関してはおいおい考える事にするとして
「……ぁう………ぁ…………」
「私は君に入国料を支払った。後からの入国希望者……いや、異邦人からは少し高く入国料を請求するように。私と言う存在の記憶は私がここを立ち去った直後に消え去る。それじゃよろしく」
何はともあれ、王都に入れたんだ。細かいことはまた今度考えれば良いか。それにそれほど使える訳ではないが人間の駒が手に入ったのも良いことだ
これで夢の怪人化手術の実験が出来るかもしれない。ああ言うのはどんな事例を参考にすれば良いのか皆目検討も付かないが、そういった類の創作話なら人並み以上に読み漁った自信がある
材料はいくらでも調達できるし、回数制限があるわけじゃない。気長に何度も何度も、挑戦すればいつかは成功するだろう
その為にも、先ずは拠点を手に入れなければ。出来れば地下の奥深くが良いなぁ……拠点を手に入れるまでの宿も取らないと
まぁ、それは一旦置いといて。一先ず、この王都で私が最初にすべき事は…資金調達からかな
【流通している通貨について】
ゲーム内で流通している通貨は運営が浸透させた全世界共通貨幣、GOLDの他に、各国、各地域毎にそれぞれ独自の通貨を使用している例がある。
中にはGOLDよりも独自の通貨の方が流通している国も存在する。王都もその内の一つ。
流通している通貨は他の国々の独自硬貨と同じような金貨、銀貨、銅貨の基本的な三種類に加え、通貨の中で銅貨よりも少額の銭貨、金貨の上に白金貨、そのさらに上に魔法金属で作られた硬貨の計6種類が存在する。
これを◯◯◯◯◯(王国の名前。どっかでぽろっと書いた気もする後で探して書いとく奴 メモ )王国硬貨




