第23話 負傷の自覚と、お楽しみの時間
ステータス回
体のあちこちが痛い。それに何だか身体の重心が右側に偏っている。何故だろう? 私はまだ眠りたいと言っている頭を強制労させ、立ち上がろうと腰を上げる。しかし立つことは出来ず、ぐらりとバランスを崩し、私は転んでしまった
「ありゃ? 」
痛い。何で転けたのだろう。頭の痛みを無視して、私は自分の身体を手で触り、状態を確認してみる事にした
顔。触った感じ傷は無い。髪は少しザラついていたが、怪我では無く砂埃のせいだと思う。右腕左腕は怪我は無いが白衣が少し破けていた。少しショックだが確認を続行する。悲しい
腹部にも傷は無かった。しかし服のちょうどへそから胸より少し下辺りまでの間に大きな穴が開いてしまっている。服も買い換えなければ。足は右足は正常な状態で存在したが、左足は膝から下が存在しなかった
あれー? と何処で斬ったかなーと少し記憶を思い出してみると、そういえば今はイベント中だったなと思い出した。それで...身体改造を使って遊んで、紅の騎士団を始末して、それで
「あっ、おはようございますレイムさん。身体、大丈夫ですか? 合流しようと思って向かってたら、レイムさん死にかけてるんですもん。僕、びっくりしましたよ」
扉の向こうからひょこっとクリンが顔を出し、私の方を見ると軽快に朝の挨拶を投げかけてきた。って言うかここは何処なんだろう。私が今寝ているベットは簡易的な作りだが、重心をかけてみても壊れる様子は無い
屋根に壁、柱や床や屋根に空いた天窓らしき物に、扉。所々雑に、急いで作られたような後があるが、ある程度の強度は持っていそう
私が不思議そうにしていたのに気が付いたのか、クリンはペラペラとその軽い口を動かし始めた
「あっ! ここは紅の騎士団? の拠点だったっぽい所です。誰も居なかったのでちょっと使わせてもらってます。それよりも足...いちよ応急処置は済ませたんですが、僕の今持ってる中で一番上位のポーションを使っても回復しなくて...」
「ん? あぁ、ありがと」
何故か申し訳なさそうに、言葉を詰まらせながら私に応急処置が成功した事をクリンは告げたので、私は何故か暗い表情をしているクリンを不思議に思いつつ、応急処置を行ってくれた事に対しての感謝を告げた
しかし口で言うだけでは納得してくれないかもしれない。とても仲の良い親友であればそれでも良いかもしれないが、口先だけの感謝など、所詮、コスパのいい対応法の一つでしか無い
「よし。クリンくん。今から暇かい? 」
出来るだけ明るさを意識しつつ、私はクリンの望みを叶えるべく、与えられた時間の有無を問うてみた
「え? は、はい。何も予定は無いですけど...」
「なら、少し劇を見せておくれよ。演者は君とファイヤーバード達、名目は復讐劇って所でどうかな?」
なので、行動で示す事にしよう
「...何言ってるんですか! そんな足で戦える訳...」
「別に、私自身が戦うなんて一言も言ってないじゃないか」
私はグリンの言葉を遮りながら、声にその場その場の山場で抑揚を付け、演出され尽くした声で、半ば洗脳のような、認識を狂わせる言葉を浸透させる
「あ、私が復讐に協力しないって訳じゃ無いからね? あくまでも今回は参加しないって事。ただ記念すべき第一回に参加できないのは少し悔しいな」
「えっと、あの、どう言う事ですか? 」
話の主導権を完全に奪い取り、流れを掌握、話を逸らす事が出来ない空気感を作り上げる。確かに今の私では戦闘どころか逃亡すらも難しいだろう。だけど、私で無理なら、私の手駒を使えば良い
「復讐だよ。君の復讐の第一回戦を今回のイベント中にやろうって話。少し待っててね。[命令]」
私が命令した直後、外で轟音を鳴り響いた。どうやら思ったよりも近くに居たようだ。私はクリンに肩を借り、なんとかバランスを保ちながら外に出るとと、外には杖を何本も漂わせた茨の鎧の女と、身体に無理矢理武器を縫い付けたような歪な形をした男が、飛翔している女に捕まれて運ばれてきた
「れ、レイムさん...この人達は...なんなんですか? 」
人? 私とクリン以外に、この場に人なんて居ないのだが、クリンは不思議ちゃんなのだろうか? まぁ口には出さないが
もしかしたらこの改造人間達の素材に人が混じっていたので、コレの事を勘違いしているのかもしれない。確かに、見た目は何処となく人に似てるかもしれない。人に見えなくも...ない? かも
「私の使役した手駒だよ。イベント中、君には近接戦闘型の方...ハイドを貸し与える。これは私を治療してくれた事へのお礼だから、存分に使ってあげてよ」
もったいぶってみたのだが、結局の所は、今、私が出来ない復讐の手伝いを、私の手駒に代わりにやらせて、私はそれを鑑賞したいって...危ない危ない。本音まで漏れかけた
私は上手いようにクリンを言いくるめると、すぐさま女の方...ルージェストにファイヤーバードの特徴を伝え、すぐさま空を飛翔し、捜索を開始させる
「あの...疑ってる訳じゃ無いんですけど本当に見つけられますかね。それに僕自身ちゃんと出来るか不安で...」
「大丈夫大丈夫。だいじょーぶ」
それにしてもお腹がすいた。何か食料のような物が無かったかなとメニュー画面から、ストレージを開いて食べられる物を探してみる。下見をした時に購入したパンが、まだいくつか残っていたので、私はクリンにパンを一つ手渡し、食事をしようと誘ってみた
「そうですね。少しお腹も空いてきましたし...あ! 僕飲み物持ってました! コレどうぞ! 」
どうやらクリンもお腹がすいていたようで、パンを一齧りすると、唐突に飲み物らしきものを取り出し、私に渡してきた。最悪、飲み物はMP回復ポーションで代用しようと思っていたので、必要新無いといえば必要なかったが、なんだか甘い香りがしたので一口、口に含んでみる
やっぱり甘い。チョコレートのようなどっしりとした甘みでは無く、果物のスッキリとした、柑橘系の甘み、オレンジ...に似ている味がした
「どうですか? なんでも遠くの領地から取り寄せられた物らしいですよ。詳しいことは聞く前に殺しちゃったのでよくわかんないですけど」
いや、これ略奪品なのか。グリンも成長したなぁと、今までの日々を思い出そうとするが、クリンとの思い出はさして存在しない事を思い出した。あれ? って言うか短時間で豹変しすぎじゃない?
少しの恐怖を感じ、警戒心を抱いたが、即座に私を脅かす訳では無いので、考えるのは後回しにしよう。そんな事よりも、私にはやらなければならない事があるのだ
ステータスの確認。どれだけLvが上がっているか。新しいスキルは習得できているのか。楽しみで楽しみで仕方ない。私はノリノリでステータスを開いた
レイム Lv15 〈Lvが4上昇しました〉 SP1940 総合Lv62
種族 人間 Lv25 〈Lvが15上昇しました〉
職業 科学者 Lv32 〈Lvが20上昇しました〉
ステータス
HP 500
MP 450 (+50)
STR 170
ATK 250 (+210)
VIT 170
DEF 150 (+22)
IMT 160 (+80)
RES 170 (+20)
DEX 750 (+810)
AGI 260
LUK 150
スキル
【鑑定+1】〈鑑定が鑑定+1へと進化しました〉[生物鑑定]【薬品作成+1】【体術+1】[スラッグ+1]〈スラッグがスラッグ+1へと進化しました〉[連発]【隠密】【身体強化魔法】【威圧+2】〈威圧+1が威圧+2へと進化しました〉【竜化+1】【終末を翳す手】【身体改造+3】〈身体改造+1が身体改造+3へと進化しました〉【支配+1】〈支配が支配+1へと進化しました〉[命令]【外法医術+2】[改造手術][麻酔]【短剣術】[スラッシュエッジ][腹裂き]
称号
異邦人 騙す者 終末龍の因子(1) 格上殺し ハイエナ
装備品
鉄のメス(持ち手部分) ATK+10 DEX+20
鉄のメス(刃の部分) ATK+200
破損した薄灰色の麻服 上 DEF+2
破損した薄灰色の麻服 下 DEF+2
科学者の白衣 DEX+20 DEF+20 RES+20
猪の耳飾り MP+50 IMT+80
ロールプレイを楽しんで、死にかけて、その報酬は莫大な経験値にいくつかのスキルの進化。それに新しいスキルが2つ。技だって増えた
最高だ。最高なのだが、これからの復讐に参加できないと思うと、なんだか気分が乗らない。それとスキルが進化した事に関する通知のせいで、何だか画面がごちゃごちゃしている気がする
私は、これでは目が疲れてしまうと思い、設定から新しく現れていた通知の項目を選択、スキルの通知をオフにして、お楽しみのSPの割り振りを行う事にした
しかし何に重点して割り振ろうか。耐久性、VITに振ってある程度のダメージを許容出来るようにするか、それは嫌だ。というか駄目だ。ただただ硬いだけの体なんて、この世界特有の魔法などの現象に対応できるかわからない。それならばまだ、素早さ、AGIに割り振った方がまだマシだろう
MPやIMTに割り振っても良いが、それだけに割り振るのは、なんか保守的過ぎると思う。いや、実際は無茶苦茶ピーキーだから、これは私の勝手な考えだが
悩んで、考えで、予想して。そして、思い出した
「そうだ。確かスキルが重要だったんだよ」
「? レイムさん何か言いましたか? 」
思わず口から漏れ出した声は大きく口を開きパン頬張るクリンの耳にバッチリと届いていた。私は誤魔化すように何でもないと告げ、会話を避けると手持ちのSPをどう割り振るかを、最後にもう一度、よく考え、SPを割り振った
レイム Lv15 SP0 総合Lv62
種族 人間 Lv25
職業 科学者 Lv32
ステータス
HP 1000
MP 850 (+50)
STR 170
ATK 250 (+210)
VIT 170
DEF 150 (+22)
IMT 160 (+80)
RES 190 (+20)
DEX 1750 (+1790)
AGI 280
LUK 150
スキル
【鑑定+1】[生物鑑定]【薬品作成+1】【体術+1】[スラッグ+1][連発]【隠密】【身体強化魔法】【威圧+2】【竜化+1】【終末を翳す手】【身体改造+3】【支配+1】[命令]【外法医術+2】[改造手術][麻酔]【短剣術】[スラッシュエッジ][腹裂き]
称号
異邦人 騙す者 終末龍の因子(1) 格上殺し ハイエナ
装備品
鉄のメス(持ち手部分) ATK+10 DEX+20
鉄のメス(刃の部分) ATK+200
破損した薄灰色の麻服 上 DEF+2
破損した薄灰色の麻服 下 DEF+2
科学者の白衣 DEX+20 DEF+20 RES+20
猪の耳飾り MP+50 IMT+80
やっぱDEXこそ至上。身体の動きが更に滑らかに、今まで以上に、思う通りに動くようになった。HPとMPにもいくらか割り振っておき、素早く動けるようになるために、AGIにも少し振った。それと状態異常を警戒してRESにも少し
やっぱり重要なのはスキルだと思うのだ。だって、目に見えて明らかに強いし。なので少しでもスキルの習得確率を上昇させたいと言う思いもあって、大半のSPをDEXに注ぎ込んだ。本当にこれで良かったのかかはわからないが、私は充分満足しているので別に後悔したりはしないと思う
再び室外から、室内まで容易に届くほどの轟音が鳴り響いた。どうやらルージェストがファイヤーバードの居場所を特定して戻ってきたらしい
私はクリンに声を掛け、ハイドにクリンを補助するように[命令]し
「さて、行こうか。楽しい楽しい復讐を始めようじゃないか」
あまりにも不自然な、芝居がかった台詞だと。自分でも解ってしまうくらいの言葉を掛けて、クリンの復讐相手、ファイヤーバード達の元へと向かった




