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女王は拳で語る ― The Queen Speaks with Her Fists ―  作者: 十月さくら
閃光の女王と翡翠の白き魔女
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プロローグ


 ――お父さん、お母さん、早く死んじゃってごめんなさい。

 そして、ありがとう。お父さんとお母さんの子供に生まれて本当に良かった。


 少女は静かに瞼を開けた。意識を失って……次に意識を戻した時にはすでにここに居た。

 雲一つ無い青い空と、どこまでも広がっている水面(みなも)。水の上に立っている自分。

 一歩踏み出すと波紋が広がり、しかし、水の感触も、いや、何かに触れている感触すらなく。

 そして、


「よく、来てくれましたね」


 白い装束を纏った女性。白く長い髪と、空色の瞳。

 その女性は少しだけ微笑むと――悲しそうに微笑むと少女を見つめた。


「どうして、悲しそうに笑うんですか?」

「貴女のように幼い少女がここに来るということ、それは、悲しいことです」

「死んじゃったものはしょうがないです」


 あっけらかんと答えた少女に驚く女性。そんな女性へと歩みを進めながら、少女は少し興奮しながら声を上げた。


「それよりも、あなたってもしかして女神様とかですか?」

「え? ええ、そうですが……」

「じゃあ、これって、もしかしなくても異世界転生パターンですか!」

「異世界転生パターン……? あ、いえ、転生は確かにそうですが……」

「ほんとですか! やったぁ!!」


 少女は喜びの声を上げ女性――女神の前で立ち止まり、ぐぐっと拳を握った。


「わぁ! ほんとにほんとに、そんなことあるんだ! 次行くところはどんなところだろー! やっぱり、ファンタジーの世界がいいなぁ!」

「……貴女は、自身の死を悲しまないのですね」

「悲しんだってどうにもならないですもん。それよりも、次があるなら、その次のことを考えなきゃ! それに、お父さんもお母さんも、わたしが異世界転生するって知ったら、きっと喜びます!」


 漫画やアニメ、ライトノベルやゲームが大好きだった父と母。そんな両親の影響で漫画やアニメが大好きになり、そして、そのキャラクター達と共に少女は育った。

 だから、異世界転生することが嬉しいし、むしろ望むところだった。


「それで、わたしはどんな世界に行くんですか?」

「そうですね。貴女が思い描く、ファンタジーの世界。そこへ転生させましょう」

「ほんとうですか! ありがとうございます!!」

「ふふ、ではもう一つ。といっても、どうやら説明は不要のようですが」


 女神は一歩踏み出すと、少女の頬に優しく触れた。


「貴女に力を与えましょう。何を願い、望みますか?」

「わたしの願い……望み……」


 ずっと考えていたこと――ファンタジーの世界に行くなら、目指すのはたった一つ。


「女神様、わたしの望みは決まってます」


 お父さんとお母さんが大好きだった作品。そして、わたしも大好きになった作品――


「強くて、でも、ちょっぴり悲しいところもあって――でも、それでも、どんな辛さも苦しみも笑って蹴り飛ばすくらいに強くて優しい二人」


 少女は胸に当てた手をきゅっと握ると、俯いていた顔を上げ白き装束を着た女性――女神を見つめた。


「わたしは、ドラまた天才美少女魔法戦士と魔王になった鋼の後継の二人を目指します!!」

「――ふふ、魔王を滅ぼした者と、魔王になった者を目指しますか」


 こちらの心を読んだのか、女神はそう話し微笑んだ。


「分かりました。貴女の望む力を与えましょう。力の種子を――けれど、花を咲かせることができるかどうかは貴女次第。それで、いいのですね」

「はいっ! ありがとうございますっ!」

「いえ、私は何もしていませんよ。ただ少し魔術の才と体術の才を与えるだけ。ふふ、しかし、貴女は不思議な子ですね。転生する人間のほとんどは最強の力を欲しがるというのに」

「だって、面白くないじゃないですか。わたしは最強になりたいんじゃなくて、強くなっていきたいんです」


 少女は真っ直ぐ女神を見つめた。


「自分に嘘をつかない、自分を諦めない……わたしの大好きな魔法戦士の女の子はそう教えてくれました。だから、わたしもそう言える自分になっていきたいんです。最強の力なんて貰っちゃったら、もう強くなれないじゃないですか」

「なるほど……良かった、貴女なら安心です。無限の可能性と、無限の未来を自らで切り開こうとする貴女なら。けれど……」


 女神はそこで少しだけ苦笑した。


「神の力をいらないといわれるのも、少し寂しいものですね」

「ああ、ごめんなさい!」

「ふふ、冗談ですよ。でも、せめて……貴女を見守るくらいはさせてください」

「はい、ありがとうございます」


 女神は少女を抱きしめ優しく伝えた。


「さあ、ではお行きなさい――貴女の未来に幸せがあることを」

「――行ってきます」


 女神の言葉に頷き、少女は静かに瞳を閉じた。


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