王宮では
優愛とアルツィードが城下町へと向かって数時間がたったころ
アランの部屋では、シスツィーアとレオリードとリオリースの四人が集まっていた。
今日、優愛が外出したことはメイドたちにも伏せられていて、知っているのはここにいる四人とアルツィードだけ。騎士団長や魔道術士団長、メイド長にすら伏せられているのだ。
アランが優愛の不在を知られないように「みんなでちょっと大事な話をするから」と部屋に誰も近づけないようにし、「昼食はこの部屋に運んで。みんなで取り分けて食べるから、給仕もいらないよ」と言っておいたので、主菜と付け合わせのサラダ、それにパンが大皿に盛り付けられた状態でワゴンテーブルに置かれている。
シスツィーアが真剣な顔をして慣れない手つきで料理を取り分け、隣ではアランがカトラリーやパン用のお皿を配り、リオリースがグラスに水を注いで置いて
「あ、リオン。ちゃんとグラスは5個使って」
「そうだった」
アランが優愛の分もいれて五人分セッティングし、リオリースもそれに倣う。
「優愛、いまなにしてるんだろ?お昼食べてるころかな?」
「まだだと思うよ?「時間をずらす」ってアルが言ってたし」
スープをカップにつぎながらもそわそわと落ち着かない様子のレオリードを横目にリオリースが尋ねると、食器を配り終えたアランがシスツィーアを隣で手伝いながら答える。
「ふーん。どこの店だろ」
「アルの行きつけって聞いてるけど」
「そっか。なに食べるんだろう?町のも美味しいよねー」
「さあね。帰ってきたら聞いてみなよ」
お忍びで行ったときに食べた屋台の串焼きを思い出して、興味津々のリオリース
アランが苦笑しながらシスツィーアが取り分けた料理をレオリードに渡そうとするも、ちらちらと時計を気にしているレオリードは目の前に差し出されても気付くことはなく
水のはいったグラスとパンを配り終えたリオリースが首を竦めながらレオリードのお皿を受け取りテーブルに置いて、そのまま「座りなよ」とレオリードを促してふたりで椅子に座る。
「何時ごろ帰ってくるって?」
「さあ?聞いてない。暗くなる前には戻るでしょ」
「食べ盛りなんだから、優愛の分もよろしくね」と、アランはリオリースへ二皿渡して
「はい。アランの分よ」
「ん、ありがと。ツィーアのは僕が取り分けるよ」
「ふふっ。ありがとう。お願いするわね」
今度はシスツィーアがアランを手伝い、テーブルには全員分の料理が並べられて
「「「いただきます」」」
「・・・・いただきます」
みんなで食べはじめても、レオリードはナイフとフォークを動かしてはいるもののどこか上の空
「ふふっ。アランから取り分けてもらったからかしら?とっても美味しいわ。こうやって食べるのも楽しくて良いわね」
にこにこと楽しそうに笑うシスツィーア。アランもシスツィーアに笑みを向けて
「そうだね。あ、リオン。ちゃんとカトラリー、優愛の分使って。パンのバターも」
「わかってるよ!それより、二人分全部食べるなんていくらなんでも無理!アラン兄上も少しは協力して!」
「仕方ないなぁ。じゃあ、パン1個ちょうだい」
「ん。あとサラダもね」
アランがパンに手を伸ばすと同時に、リオリースがすかさずアランのお皿に付け合わせのサラダをのせる。
「ちょっ、さすがに多い」
「野菜だから大丈夫でしょ」
アランが顔をしかめるも、リオリースは知らん顔をして優愛の分をのせてしまう。
「ふたりとも無理しないで。アラン、わたしも食べるわ」
「じゃ、ツィーアはデザート担当ね。僕とはんぶんこしよ」
「ええ」
「・・・・」
リオリースがじとっとした視線を向けるも、アランは気にせずシスツィーアと微笑み合う。
そんな和やかな雰囲気のなか、レオリードだけが会話に加わることはなく
「レオン兄上、ぼんやりしてるとこぼすよ」
「あ・・・・ああ」
「兄上。ちゃんと食べないと、優愛の外出がバレるよ」
「ああ・・・・そうだな」
料理が減る気配がないレオリードだったが、アランの言葉にはっとしてやっと食事に集中しはじめて
「ねえ。優愛の外出、しばらく続くんだよね?いつまで誤魔化すの?」
「決めてない」
「来週、オレ出掛けるけど大丈夫?」
「ん、どうにかするよ。で、僕の勝ちね」
「えっ!?・・・・いつの間に」
昼食も終わり、リオリースも持ち込んでいた課題が午前中に終わってしまっているから、優愛が戻るまですることはなく
アランとリオリースは向かい合ってボードゲームをしていた
「アラン兄上、強いよね」
「リオンが弱いんだよ。もう少し考えながら駒動かさないと」
「うっ」
チェスや将棋のように駒を動かし、先に相手の『王』を手に入れた方が勝ちなこのゲーム。
リオリースは身体を動かすのは好きでも戦略的なことは苦手で、だいたい負けるのだ。
「別に戦争が起きるわけじゃないし」
「甘いよ、リオン。城でも権力争いはあるでしょ」
負け惜しみを言うリオリースへ、アランが呆れた顔をする。
たしかに、この国は建国してからこれまで他国と戦争をしたことがない。地形的に侵略されにくいのもあるけれど、『女神に愛された国』を敵にまわすと不吉なことが起こると言い伝えられ、そしてそれはまったくのデマではないからだ。
そしてレオリードたち『初代国王』の血を引く者たちが、このフォーレスト王国を存続させるにあたって必要である以上、国内にレオリードたちを害するものもいない。
とはいえ、貴族たちも一枚岩ではなく権力争いはそれなりにあるし、レオリードたちにもまったく危険がないわけではないのだ。
「けどさ、それだってたかがしれてるし」
「甘い。兄上もそう思うだろ?」
「・・・・」
アランが同意を求めても、レオリードはリオリースの隣で本を開いてはいるもののぼんやりしたまま
「・・・・」
アランとリオリースは顔を見合わせると肩を竦めて
「優愛が帰ってくるまでは仕方ないわ」
アランの隣でシスツィーアがやんわりと嗜める。
いくら治安が良くても、護衛はアルツィードたった一人。レオリードが心配するのは無理もない
時刻はもうすぐお茶の時間になるころ
まだ暑い日があるとはいえ季節は秋で、お茶の時間が過ぎれば日暮れはすぐにやって来る。さすがに遅くなればなるほど、アランたちが心配することくらい、優愛も分かっているはずだ。
「ま、どんなに遅くとも夕食までには帰ってくるでしょ」
「お土産あるかな?」
「さあね。それより、僕たちのお茶の時間はどうする?」
そろそろメイドたちがお茶とお菓子を準備しはじめるころだろう。要らないなら早めに伝える必要がある。
「オレまだそんなにお腹減ってないよ!」
「僕もだよ。一応、茶菓子は軽いものをって言ってあるけど」
またふたり分食べさせられるのかと、リオリースが慌てて声をあげると、アランは「分かってる」と呆れた顔をして
「じゃあ、お茶菓子はなしにしてもらうわね」
「あ、ツィーアと優愛の分は用意してもらって。女性のお茶には必要だろ」
「わかったわ」
シスツィーアが扉の外で控えているメイドに伝えに行って、すぐに戻ってくる。
「伝えたわ」
「ありがと。リオン、優愛の分は僕とはんぶんこね。それくらいなら大丈夫だろ」
「・・・・わかった」
くすくすと笑いを溢すシスツィーアに、アランとはんぶんこすることに嫌そうな顔のリオリース
あたたかな陽の光が部屋に差す、穏やかな休日
笑い声の響く、やわらかな空間
誰にも邪魔されることのない、家族の団欒
けれど
(優愛はいまごろ)
どうしているのだろう?
そんな思いが、部屋にいる全員のなかにあった
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




