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24 ダンジョン探索⑦

 校長先生によると、俺は魔力を有しているらしい。しかし、ガーゴイル・テンペスト・ドラゴンを倒せるほどの魔法は短期間で覚えられないと言われた。だから、自分自身に魔法陣を描きこみ、起動させるだけの魔力を、使い魔という形で持ち運ぶことになった。


 そして奴を倒すために使用した魔法は、『恐怖の大爆発』。爆発系の魔法の中でも最強レベルの威力で、小さな町なら簡単に吹き飛ばすことができるらしい。だから、そんな魔法を使ったら、皆を巻き込んでしまうのではないか? と疑問に思った。


 すると、校長先生は言った。


「奴の体内で爆発させればいい。ガーゴイルの形質を有するモンスターはお主ほどではないが、かなり頑丈じゃ。しかも、お主の言う通りなら、おそらくそ奴は、かなりの防御力を有している。だから、内側から爆発させたとしても、奴を破壊するのにエネルギーがほとんど使われるじゃろう」

「なるほど。ってか、そもそも、その『恐怖の大爆発』? って魔法を使っても俺は平気なんですかね」

「それを、今から試すのじゃ」


 そう言って、校長先生が微笑んだのが昔のことのように思える。


 結論から述べれば、校長先生の考えは正しかった。ぽっかりと、天井に開いた大きな穴を見ながら俺は思う。大爆発によって、ドラゴンは撃破した。天井の一部に大きな穴が開いたが、この空間全体が土砂に押しつぶされることは無かった。そして、天井から崩落してきた土砂に埋まり、顔だけ出している状態だが、俺は何とか生きている。


「まぁ、良かったのかな」

「サトル君!」


 アリスの声が聞こえるが、死角になっていてアリスの姿が見えない。すると、いつもの感覚があって、目の前にアリスが現れる。


「良かった。無事だったんだね」


 アリスはそう言って、俺を抱きしめた。おいおい、皆が見てるんだぜ? ナルシーは呆れているし、ロズは苦笑い。グラシスは戸惑っているように見える。しかしアリスはそんなのお構いなしに、抱きしめ続けるのだった。そこまで心配しているようには見えなかったが、意外と俺のことを心配していたんだな。


「ありがとう。アリス」


 頭を撫でるのが、紳士って奴か? 俺はアリスの頭を撫でようとして、右手に掴んでいるものに気づく。手のひらに収まらないくらい大きな石の塊だった。しかし、ただの石という感じでもなく、割れ目から青白い光が見える。いつのまに掴んだのだろう?


「アリス。これ、何かわかる?」

「えっ」


 アリスが離れる。アリスの温もりが少し名残惜しい。そう言えば、俺、今、上半身裸だったんだな。


「何だろう? わかんない」


 ナルシーが歩み寄って、石に顔を近づける。一瞬、目を見開いたが、すまし顔になって言う。


「ただのガラクタね」


 絶対嘘だろ。そういう反応じゃなかったぞ。


「いらなかったら、私がもらってあげてもいいわ」


 グラシスも石を観察する。


「これって、もしかして……」

「それはガーゴイルの原石じゃ」


 校長先生の声に、全員が驚き、辺りを見回す。どこにも校長先生はいないが……。


「ここじゃよ」


 と言って、ガーゴイル・キャタピラーの背中に亀裂が入り、中から校長先生が現れた。そこから現れるのかよ。


「わかっていて、嘘を吐くなんて、感心しないなぁ、ナルシー君」

「嘘なんてついていませんよ」


 ナルシーは澄ましたまま、ソッポを向いた。


「やれやれ。成績は優秀なんじゃがのぉ」

「別にいいでしょ。ってか、いるなら、最初から出てきくださいよ」

「学生のレベルを知る良い機会じゃと思ってな。危機的状況になるまでは、お主たちに任せようと思ったのじゃ。そして、ナルシー君。やはり、君が優秀な生徒であることを確認できたよ」


 ふん、とナルシーは鼻を鳴らし、腕を組む。これくらい当然だとでも言いたげだ。


「ロズ君とグラシス君も、よく冷静に行動した」

「いやぁ、何もしてませんけどねぇ」

「僕も、ですね」

「そう卑屈になるではない。危険な状況でも、規律を乱すことなく行動できるのは、一つの才能じゃ。そして、アリス君。君も、サトルとの見事な連携で、皆を救ったな。偉いぞ」

「あれくらい、私とサトル君なら朝飯前ですよ」


 アリスはドヤ顔で語る。まぁ、悪い気はしない。


「ただ、事情があるとはいえ、暴走したのは感心せんな」


 アリスはしゅんとなる。あれは、そう言われも仕方がないことなのかな。


「そして、サトル。見事な活躍じゃったな」

「ありがとうございます。先生のお力添えがあったからこそです」

「ふむ。やはり、お主の知れば知るほど、わしの使い魔にしたくなるのぉ」

「だ、駄目ですからね!」

「ははっ、わかっておる。ただ、たまに貸してはくれぬか?」

「えぇ……」

「汚い言い方になってしまうが、今回の貸しもあるからの」

「……たまになら」


 俺の意思は? と思ったが、今回の件は、校長先生がいなかったら、大変なことになっていただろう。だから、校長先生と協力することに、俺も異存はない。


「まぁ、皆、無事で何よりじゃ。さて――」


 穏やかな雰囲気から一転、校長先生は厳めしい目つきになって、俺の後方に目を向ける。俺は振り返って確認した。俺が埋まっていた土砂の山に光が差している。ただ、校長先生が見ているのはそこではなくて、壁にできた血痕。そしてその下にある、ローブを纏った肉塊だった。


「今回の一件に、十字団の連中が関わっていたか」


 アリスを一瞥する。アリスは気難しい顔で死体を眺めていた。


「奴らが再び動き出したとなると、早めに動く必要があるな」


 闇の十字団。一体奴らは何者なんだ? 色々な夢を見てきたが、少なくともこれまで見てきた夢に、彼らが登場することは無かった。もしかしたら、これから現れるのか? コロネみたいに。


「あれ? あの男がいないよ?」


 ロズが辺りを確認している。


「あの男? 俺がぶん殴ったやつか?」

「うん」


 確かに男の姿が無くなっていた。校長先生に目を向ける。校長先生は首を振った。


「攻撃に巻き込まれて死んだか。もしくは、埋まってしまったか。いずれにせよ、ちゃんと調べる必要があるな」


 俺は男を殴ったときのことを思い出す。顎を砕いたから、おそらく、殺してはいないと思う。なら、奴はどこに行ってしまったのだろう?


「いました!」


 頭上から大きな声がして、天井の穴の方に目を向けると、箒に乗った人影が、何人も穴の中に降りてくる。その先頭を走っていたエクレア先生は、降下するやいなや、箒を投げ捨てて、俺たちの方へと走ってきた。


 エクレア先生の他にも、次々と降りてくる、学校関係者と思しきマントを羽織った人たちの姿を見て、俺はようやく安心することができた。


 こうして、今回のダンジョン探索は、誰も死なせることなく、無事に終えることができた。しかしこれは、これから始まる物語の序章に過ぎなかったのである。

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