姫君◇四 メガネ男子のお兄さん
「メガネ男子のお兄さん。よっ、イケメンだねえ」
女の童が、鬼に何かを言うております。
鬼の言の葉でしょうか。わらわには、何と言うておるかわかりませぬ。
「イケメン? メガネ男子のお兄さんって……誰に言ってんの?」
鬼が、童に言うて返しました。
鬼は驚いたように、四方を見回しております。
「イケメンのメガネ男子っていったら、お兄さんしかいないでしょ」
童が答えます。
ややっ、女の童も鬼も、同じ言の葉をたびたび使うておりますな。『メガネダンシ』『オニサン』『イケメン』。
わらわは、覚えましたぞ。
「メガネダンシ、オニサン、イケメン」
わらわも真似て、言うてみました。
されど、鬼が恐ろしゅうございますので、わらわは手にした扇で顔を隠しております。
ちらりほらりと扇の陰から、鬼の様子を探っておるのですよ。
「ちょっ……止めてくださいよ。俺をおだてても、あげられないものはあげられないの! 駄菓子をあげるのは、子供だけですからね。大人はアウトなんです。平安時代のお姫様みたいなコスプレしてきた熱意っていうか……ファイト? は認めます。だけど、このハロウィンイベントは子供オンリーなんで」
鬼が正体を現しましたぞ。
おお、これは見事なる術じゃ!
先刻まで、鬼は白き顔をして人のように見えておりましたのに、今は、顔が赤くなっておりまする。
なるほど。やはり鬼でございましたか。人を食う餓鬼も、顔を血で染めておりましたゆえ、こやつも同じかもしれませぬ。
これが、真の姿なのですね。
鬼の正体を暴く術を、わらわは学びました。『メガネダンシ、オニサン、イケメン』。ある男が、鬼であるのか人であるのかわからぬときは、これを唱えればよいのでございます。
鬼が人のふりをしておっても、呪文を唱えれば、たちまち正体を現す。
女の童は、年はまだ十ほどであるのに、かような術を得ておるのですな。さてもさても、賢きこと。
わらわもこの術を得たからには、鬼に謀られることはないのですぞ。
まずは、安堵いたしました。
されど……女の童は鬼の前におって恐ろしゅうないのでしょうか? 鬼は人を食うのですよ? 肝の太い童ですな。
「お兄さんって、八重歯がカッコいいよね。“つくしそーた”みたい」
「つくしそーた?」
「お兄さん、知らないの? 月士草太って、よくドラマや映画に出て、壁ドンしてた人でしょ」
女の童と鬼がしきりに言うておる『ツクシソータ』とは、何でありましょうか。
「ツクシソータ」
わらわも、真似て言うてみました。
「うわっ、そういうの止めてください。恥ずかしいから」
鬼は、頭を抱えて悶絶しております。
おお! 『ツクシソータ』と唱えれば、鬼はたちまち伏せってしまいました。
鬼が荒ぶった折には、この術を使えばよいのじゃな。鬼がわらわを食わんとすれば、『ツクシソータ』と唱えるのですね。
わらわは、悟りました。
女の童は、鬼を制する術をわらわに教えていたのです。
「お兄さん、本気にしちゃったね。ニャハ☆」
女の童がわらわの脇に立ちまして、小さき声で言うております。
なぜ、鬼の言の葉を使うのでしょう。わらわにはわからぬといふのに。
「買い物するときとか、店員さんを『イケメン』って褒めといたら、だいたいオマケしてくれるよ。いつもママがやってるもーん」
何と言うておるかはわかりませぬが、女の童は、鬼よりも強いのでしょう。
「じゃあ、私ちょっと家に帰るよ。姫ちゃん、駄菓子のピッグカツもらえるように頑張ってね!」
女の童は、袖を振りつつ去っていきまする。
心のよい童でありましたな。
さてさて……。
新しき術を得ますと、わらわは面白うなって幾度もやりとうなりました。この術を極めまするぞ!
『メガネダンシ』『オニサン』『イケメン』『ツクシソータ』
これよりさらに、鬼に向かい唱えまする。
異世界(現代)へやってきた平安時代の姫君が、また新しい術を身につけてレベルアップしました! この新しい術が、次話でおかしな事態を生むことに……。乞うご期待です!
【7/29 加筆しました】
女の童が家へ帰るところなど、説明不足のところを直しました。
【お礼とおわび】
評価くださった方、ありがとうございます!
年明けにお気に入り登録してくださっていた方、もう見ていらっしゃらないとは思いますが、ありがとうございました。
ご期待に添えず、すみませんでした。
ナマケモノ更新しかできませんが、どなたかに続きを読みたいと思ってもらえるように、コツコツと続けます。




