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平安時代の姫君、現世で婚活はじめまする  作者: かちゃ
異なる世は、地獄にございました
2/18

姫君◇二 異なる世にて、鬼退治

 ああ、恐ろしゅうございます。


 ここは、わらわが生きておった世より、千歳(1000年)も後の世でありまする。陰陽師の不思議な術により、はろゐん(ハロウィン)といふ時の歪みが起こる日に、わらわは異なる世へと来たのです。


 異なる世とは、鬼がひしめく地獄でございました。


 赤い髪をして、顔を血で汚した鬼どもが、刀のような長い棒を手にしてさまようております。

 

 あれの血はきっと、人を食うたときについたのでしょう。


「そのゾンビメイク、上手いな。お前はコスプレ界の神だわ」


「めっちゃリアルで怖いんですけど」


「お前もだろ」


 鬼どもの言の葉が、わらわにはわかりませぬ。


 されど、『うまい』と言うておったような。もしや、鬼どもはわらわを食うのですか?


 早く逃げねばなりません。


 うぬっ、不覚じゃ……。鬼どもに見られてしまいました。


「あっ! 平安時代のお姫さんのコスプレ」


「すげえ、京都っぽい」


「一緒に、写真撮らせてくださいよ」


 鬼どもが追ってまいります。


 わらわは速やかに歩きました。されど、鬼はさらに速やかに歩くのです。鷹に追わるる雀のようなものでございます。ああ、たちまち追いつかれてしまいました。


 鬼は皆、大きなる口を開けて笑うております。口は耳のあたりまで裂け、血のしずくがしたたっておりまする。あれに、わらわは食われてしまうのですか?


 ああ、いやじゃ! あのような恐ろしい口は見とうない!

 

 わらわは手にした扇で顔を隠しました。


「お姉さーん、きれいな顔なのに恥ずかしがらなくてもイイっしょ」


「京美人って、控えめなんですね」


「でもそのわりに巨乳じゃないッスか?」


「写真撮ったあと、飲みに行きましょうよ」


 鬼どもが、わらわを囲みます。


 わらわは捕らわれてしもうたのです。

 

「全員で写れる?」


「自撮り棒を伸ばしたら、いけるんじゃねーの」


 鬼どもは長い棒を手にしております。


 わらわは知らぬ顔をして、逃れようとしました。


 されど、鬼どもがわらわをにらんでおります。


「無視かよ! 京都の人が冷たいって、ガチで本当だったな」


「あれは、都市伝説かと思ってたわ」


「ぶぶ漬けでもどうどすか? とか言って、客を追い出すやつだろ」


 ああ、わらわは鬼に食われてしまうのでしょうか。


 死ぬるのはいやですぞ。


 わらわはこの異なる世で、わらわと結ばれる運命(さだめ)の男に逢はねばならぬのです。


「……祓うてくだされ」 


 わらわは、神仏に祈りました。


 ここにおるのは、人を殺めて食らう鬼、すなわち餓鬼(ガキ)でありましょう。


 神仏に助けを乞うて、餓鬼どもを祓うてもらうのです。


(はら)いたまえ、餓鬼どもを」


 わらわは、大きなる声で祈りました。


「このおばさん怖っ、俺らのことを『ガキどもっ』だって」


「払えって? スマホで写真撮るだけなのに、金を要求するの?」


「観光客を食いもんにする商売かよ」


 鬼どもは、散り散りになりて逃げていきましたぞ。


 わらわは、鬼どもを祓う術を心得ました。


 もう恐れずともよいのです!


 さてさて……。


 わらわがこの異なる世へ参ったのは、わらわと結ばれる運命(さだめ)の男に逢ふためでございます。そのような男は、いずこにおるのでしょう? 


 ぐうう


 わらわの腹より、音がいたしました。


 ああ、恥ずかしや。


 朝より何も食うておらぬために、わらわは飢えております。


 この異なる世には、人はおらぬのでしょうか。鬼ではなく、人が住む里を見つけねば。


 人里には、旨いものがあるはずにございます。


 おお、あれは!


 わらわの近くに、童がおりますぞ。年の齢は……十ほどでありましょうか。


 何やらよい匂いのするものを、食うておりますぞ。


 あの童は、鬼ではないようですな。なぜなら、人の衣をまとっておるのです。


 白き小袖に、赤い袴の姿。わらわの住んでおった世では、帝のおそばで宮仕えする女どもがまとう衣でありました。その衣によく似ておりますぞ。


 それに童の顔は、鬼どもとは違い、血で汚れておりませぬ。


「もし、童よ」


 わらわは、問うた。


「そなたは、何を食うておるのですか」


「ピッグカツ」


 童が言うたのは、食うている物の名でしょうか。


 わらわの知らぬ言の葉です。


「ひくかつ?」


 陰陽師の言うておった『とんかつ』に、音が似ておりますね。


 それにしても、よい香りがいたします。


「知らないの? 駄菓子だよ、ピッグカツっていう」


 童が何と言うておるのか、わらわにはわかりませぬ。わらわのよく見知った衣をまとっておりますが、わらわと同じ日本語(やまとことば)を話さぬのでしょうか。


「欲しいんだったら、あっちでくれるよ」


 童は、わらわの袖を引いていずこかへ導こうとしております。


 これは運命(さだめ)でしょうか。

【8/12 話の順序を入れ替えました】


 姫君◇二 と 男子◆1 を入れ替えました。視点が頻繁にコロコロ変わると、わかりづらかったでしょうね。今まですみませんでした!


【おことわり】


 チャラくてマナーの悪いレイヤーさんは、現実にはいないと思います。


 それから、京都の人が冷たいというのは、たぶん都市伝説です。


 話をわかりやすくするために、悪者にしちゃいました。失礼しました。

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